壊れる寸前_あるいは決壊済(:淡黄)
View.クリームヒルト
見事なバックドロップを喰らい、私はなにが起きたか分からず目を白黒させた。そして態勢を立て直して周囲を見渡した時に見えたのは、妙な威圧感を放つヴァイオレットちゃんであり、有無を言わせぬ迫力があった。
「クリームヒルト、なにか言いたい事は?」
「あ、あはは……えっと、まずは脱出をした方が……」
「言いたい、事は?」
「ごめんなさい暴走していました。反省はしてるけどスッキリはしたので後悔はしていません」
「よろしい」
「よろしいのですかヴァイオレット様!?」
結果として私は自然と身を正して正座をし、謝罪をする事になった。
なんというか、今の彼女には逆らえない圧があったのだ。これがいわゆる母に逆らえない子、みたいな感じなのだろうか。ヴァイオレットちゃんも母親としての貫禄がついてきたのかもしれない。
「とりあえず、リムちゃんが行こうとしたこの壁の向こうになにかあるって事で良いんだよね」
「それで良いと思うよ。その先の奴は浄化魔法でどうにかなると思うから、シアンちゃんお願いー」
「オッケー。でもリムちゃんはどうやって解除しようと思ったの? 浄化魔法使えたっけ」
「無理矢理破壊」
「なるほどー。という訳でA25ちゃんとコットちゃん、壁壊すの手伝って。流石に私も足技だけじゃ――」
と、シアンちゃん達が私がしようとしていた事を代わりにしようとする。
無理矢理とはいえどうやって“破壊”しようとしたのか、先程までの私の状態については特に追及はしようとはしない。A25ちゃんと私の治療をしてくれているスミレちゃんとは何処か聞きたそうにしているが、周囲が追及しないという空気を読んだのかなにも言って来ない。
「ねぇヴァイオレットちゃん」
「なんだ?」
私とヴァイオレットちゃん、スミレちゃん以外はこの空間にかけられた魔法を解除しようとしている中、私は母親のような圧は消えたものの、何処か別の圧力を放っているヴァイオレットちゃんに尋ねる。
「なんで平気なの?」
「平気なように見えるか?」
「質問を変えるね。さっきの私のようになりそうなのに、なんでなってないの?」
私から見れば今のヴァイオレットちゃんは先程までの私の精神状態とそう変わらない。私が“そう”なった今だとそれがよく分かる。
最愛の相手である黒兄が居なくなったのに、何故そのように振舞えてしまうのか。私には疑問だった。
「グレイ君が居るから?」
もしそれなら十分納得は出来る。私は大好きな二人が居なくなる事に耐えきれなくて先程のように“戻って”しまった。
ヴァイオレットちゃんはまだグレイ君という大切な息子が居る。だからまだ私のようになっていない。それは充分に理解できる理由だ。
「でも、それだけじゃないよね」
だけど納得が出来ない。ヴァイオレットちゃんは私ほどでは無くとも私と同程度の爆弾を抱えているように見える。一度失った経験があるからこそ、二度目は耐える事が出来ない。だから二度目が起きないように行動し、失いかけている今は壊れかけている。
けれど私にバックドロップを冷静に(?)喰らわせる程度には生き生きと、そして表面上は「慌てて焦っているだけ」のようにしか見えない彼女は、何故そのような状態で留まれているのか。……壊れている私は、その理由が知りたい。
「強いて言うなら愛だ」
「愛」
「愛」
「感謝するぜ。お前と出会えたこれまでの全てに。の愛?」
「大体あっていると思うぞ」
「(大体あっているんだ……)」
私に怪我は無いかを確認しているスミレちゃんがなにやら言いたそうにしていたが、愛、かぁ。やっぱり愛かぁ。
「と、言いたい所だが、クリームヒルトが聞きたいのは別の事だろう?」
「え?」
「もしここで愛が全てなら、抑えきれなかったクリームヒルトのバーガンティー殿下への愛は弱いのか、という話になるからな」
「あはは、別にそこは良いんだけど」
「そんな事は無い。クリームヒルトの愛は素晴らしい。一縷の隙も無い完璧な愛だ。もっと自分を誇って良いぞ」
「ヴァイオレットちゃん、実は私にストレス発散したいじゃないよね?」
「さて、どうだろうな?」
「うわー、濁すねー」
ヴァイオレットちゃんは今度は母というより色気のある大人な女性のような、妖艶な雰囲気を作り出していた。……前世で私を生んだあの女の大人な感じは嫌いだったけど、彼女のは嫌いではない。なにが違うんだろう。
……というか私の気持ちは愛なのだろうか。恋だと思っていたんだけど……よし、そこを考えると頭が熱くなるので考えるな私。冷静になるために今も何処かにうろついている何処かの馬鹿師匠を思い出せ。……うん、よし、想像でも煽ってくる師匠を思い出したらムカついて来た。これで大丈夫だ。
「それで、愛じゃなくて、なにか別の事って……なに?」
「簡単だ。私の今の状態が壊れていると自覚をもって堂々とすれば良い」
「えー!?」
想定外の言葉に私は驚き、スミレちゃんも言葉にしないだけで「えー!?」という表情をした。スミレちゃんは結構感情豊かである。
というかどういう理屈だ。ついにヴァイオレットちゃんは――
「シキの領民に心から染まってしまったか、と言いたいのか。その通りだ。とっくにな」
「えー」
スミレちゃんは「シキってなんです……!?」みたいな表情を作っていた。
「どんな事も尊重されるべきだから周囲が合わせれるべきで、自分が自分である事を開き直って周囲に迷惑をかけろと言っている訳ではない。単に私の場合は、自分の状態が異常だと分かっている。壊れそうなのも分かっている。分かっているのだが……」
「だが?」
「ただそれだけだ。そう思うと、今の自分になっていた。としか言いようがないんだ。すまないな、これはあくまで私の気持ちの問題だから、クリームヒルトには通じないかもしれない」
「……あはは、大丈夫だよ。参考になったから」
「参考にするモノでも無いがな。まぁ、気が楽になったのならば良かったよ」
ヴァイオレットちゃんはそう言うと小さく微笑んだ。
その微笑みはいつもの彼女のものであり、とてもではないが壊れる寸前のようには見えない。
見えない、が……
――いざという時は、私が抑えないと駄目っぽいかな。
その時が来ない事を祈りつつ、私よりデカい爆弾を抱えた彼女を見るのであった。
おまけ
「自分が壊れている事を自覚すれば良い。そして私は爆弾魔……はっ、まさか私は上手くいけばキンブ●ーのようになれる素質が!? 白スーツに合うかな!?」
「なんかよく分からないが、なる必要は無いと思うぞ」




