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似た者兄妹(:淡黄)


View.クリームヒルト



 先行していたティー君が居なくなった。

 目を逸らした隙に、という訳ではなく、確かに目で追っていたのに消えた。見えていたはずなのに暗闇に飲まれるように、隣に居たシアンちゃんを残して居なくなったのである。


「警戒!」


 シアンちゃんがティー君が消えた事に気付き、短く、だが充分に焦りが伝わる内容の声をあげると全員がより一層の警戒をし、立ち止まって周囲を見渡す。

 ティー君が居なくなったのか、見えなくなっただけなのか、他に消えた子はいないか。

 敵が居るのか、攻撃の渦中なのか、攻撃が終わった後なのか、攻撃の再度実行中なのか。

 混乱の中、少しでも気持ちを落ち着かせるために周囲の情報を得ようとする。


「スミレちゃん、ティー君が居ないかどうか探知して。レーダーとかそういうのを持っていたら使って貰える?」

「――、既にしております。が、彼の反応は見当たりません」

「精度と範囲は?」

「大分出力が落ちているため正確な数値が曖昧ですが、125mの直線状にはそれらしい生命体は感知出来ません」

「ありがとう」


 スミレちゃんは私がレーダーといった言葉を何故知っているのかという疑問を一瞬抱いたようだが、それをあまり表には出さず聞かれた事を答えてくれる。どうやらティー君は物理的に消え――


「A25ちゃん、さっきヴァイオレットちゃんが襲い掛かって来た時、驚いていたよね」

「はい、確かにそうですが、何故今その話を……」

「もしかして二人は魔力探知が出来ないんじゃない?」


 A25ちゃん、そして攻撃を受けはしなかったモノの、先程の【空間保持(けはいしゃだん)】からの攻撃に対して未知の存在を見るかのような目でヴァイオレットちゃんを見ていた。その後は別の意味での未知の視線を向けていたが。

 もしかしたらアレは、私達であれば意識的にしろ無意識的にしろ行っている魔力探知が出来ないが故の驚きではあったのではないか。なにせ私達の魔法なんて科学力で有り余るほどの再現が出来てしまいそうな時代の人であり、最近外の世界に復活したような子達だ。対応がまだ出来ていないのかもしれない。もしそうならば、物理的ではなく魔法的に居なくなっている、という可能性が高い。


「魔力、探知……申し訳ございません、確かに私共はそのような事は出来ません。見当がつかないレベルです」

「了解。アプリコットちゃん」

「既にやっておる。…………」

「アプリコット様……?」


 私の二人への質問をした時にはその意図を理解したのか、誰よりも早く魔法による魔力探知をしていたアプリコットちゃん。しかし警戒のせいで険しい表情の中に、何処となく不快感のようなものが現れ、グレイ君が心配そうな表情で見る。


「ええい、なんだこれは……歪んでいるような、虚構を無理矢理見せられているような……気味が……気味が悪い……!」


 アプリコットちゃんは目を瞑っている。視覚情報とは別の物を見るのに集中するためだろう。

 しかしなにか今までに無い物を見て気分を悪くしている。以前見せて貰ったオーキッド君の亜空間の存在もよく知っている彼女……大抵の未知の物に対しては恐れより興味を持ち、他の人の前では強がりを見せて高笑いをする事が多いアプリコットちゃんが不快感を隠そうともしない。余程のものが見えているようだ。


「ええい、もっと見ろ、我……このような物に乱されるな……!」


 不快感を必死で押し殺しつつ、周囲を探索するアプリコットちゃん。

 私達はその様子を確認しながらも、魔法に頼らない視覚と感覚を使い周囲を確認し続ける。

 そして皆がもしや誰も居ないのではないかと思い始めた次の瞬間に、


「向こうだ」

「あっちだ」


 魔力探知をしていたアプリコットちゃんと、周囲を静かに警戒し続けていたヴァイオレットちゃんが同時に同じ方向を指し示した。それは私達が向かおうとしていた先である。


「よし、じゃあ行くよ」


 同時だった事に驚く人はいたけれど、疑問を持つ人はいなかったので、私達はそのまま先に進む。

 進む。

 進む。

 ……進む。

 先程まで大きな空間が近くにあるような感じがした。

 だが、変わらずその大きな空間は近くにあるようなと思うだけで、感覚的な距離は変わらないように感じる。まるで私達はずっと同じ場所に居るかのようだ。


「スミレちゃん」

「……変わりません。先程と同じ結果を出すだけです」

「そっか。ちょっとみんな、止まって」

「リムちゃん、どうし――」

「【雷上級魔法(サンダーボルト)直線型(ストレート)】」


 私は皆が止まろうとする中、一人走って皆の前に立ち、進行方向に向かって雷魔法を放つ。しばらく進んだ雷魔法は、本来ならもっと長く雷の光が続くにも関わらず、一定の距離で闇に飲まれる。


「【錬金魔法】」


 私は壁を()()()()()、錬金魔法の材料とする。

 私の錬金魔法は何故か爆弾の性質を持ちやすい。ので、その性質を思う存分利用し出来る限りの高威力の爆弾を生成し、砕いた箇所に作った爆弾を埋め込んだ。


「【結界魔法】――爆破」


 結界魔法で爆風が私達に行かないようにし、壁を爆発させる。しかし傷はついて崩れても、抜けるような穴は出来ない。不自然なほどに、一定の場所で綺麗に崩れが止まっている。


「どうやらループ空間的な物に引っ掛かってるね」

「この通路全体が魔法にかかっている、という事か?」

「理屈も性質もまだ分からないけど、多分そう。だから……」


 だからティー君はこの空間に飲まれなかっただけかもしれない。それならばここを抜け出せば後はどうにかなる。

 そういった希望的観測を言おうとするが、私は言葉を止めた。


「……だから、どうにかしてここを抜け出す方法を探そう」

「了解」


 私の様子になにか気付いた様子の皆だったけど、特になにも言ってはこず各々がこの空間を魔法で調査する。

 なんの目的かも効果も分からないが、どうにかして手がかりを見つけなければ、私達は――私、は……


――もしティー君がこの間になにかされていたとしたら。


 ……その時、私は。


「皆様、なにやら高速接近してくる存在がおられます。警戒を!」

「っ! A25さん、どちらからであるか!」

「はい、私達が走って来た方向から追いかけて来るように――」


 ……ああ、本当に。


「腹が立つ」


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