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愛です、愛(:紺)


View.シアン



「治った! ……治った!?」


 そして本当にすぐ治った。動かせるようになるだけでも一ヶ月単位、後遺症ありの全治には早くとも来年以降が目途だと思っていた私の肩の大穴は、塞がって動かせるようになっていた。

 包帯が巻いてあるので傷口は見えないし、違和感と痛みは少しあるので下手に動かす事は出来ないが、本当に治っている。ようやく叫びではなく言葉を話せるようになった自分でも疑問符が付く程度にはあり得ない回復であった。これなら痛い思いをした甲斐もあった……かな?


「シ、シアン、本当に大丈夫なのか。あ、あんまり動かすなよ?」


 治療を外から見ていたスノー君……神父様も普段の教会で過ごすような雰囲気で私の肩を心配する。おろおろしている(可愛い)神父様の様子は、アイ君の治療を見慣れていても戸惑う程度には不安になる光景だった様だ。


「シアン様、治りこそしましたが、しばらくは安静にしていてください。傷口接種のため取れる事は無いと思われますが、万が一という場合もございます。違和感がなくなるまでは安静を。戦闘は私が引き受けますので」

「う、うん、任せる――え、取れる? 取れる可能性もあるの?」

「では此度の戦闘は汎用型ではなく上位領域も居ますので、少々力をいれる必要があるため、私はこれで。」

「ちょっと待ってエーちゃん!?」


 不安になるようなことを言ったエーちゃんは、ゴスロリドレスでスカート部分を軽く持ち上げながら礼をして、そのまま予備動作無しで戦闘へ参加していった。勢いよく戦闘へと参加したのにもかかわらず、ドレスが邪魔どころか身体の一部のように舞っている姿は優雅という他ない。


「凄いな、彼女。あんな動きにくそうな服で舞うように戦うとは……」

「そうですよね、動きにくそうですからスリットは必要ですよね。そうすればさらに可愛い服が可愛くなりますし、動きやすくなります」

「そ、そうだな。今の彼女は可愛らしい服ではあるが、凛々しくて大人の女性、という感じだからな」

「そう、ですね」


 ……こんな時に思うのも良くないと事とは分かるのだが、あの私にはない優雅さと、冷静な雰囲気に神父様が見惚れてしまわないか心配になる。


「シアン、まずは安全な所――国王陛下が居る教室の奥に避難してくれ。俺はその間彼女の補助に入るから」

「……分かりました」


 それに今の私は負傷者で足手まといだ。神父様の隣に立って戦ってきた私にとって、戦えないという状況は思ったよりも精神に来ている。……助けて貰ったのにエーちゃんに嫉妬してしまうあたり、状況のせいで思考がネガティブになっているのかもしれない。


――切り替えよう!


 駄目だ私、この思考は良くない。

 私のこの嫉妬心も無力感も本物ではある。あるが、この気持ちに捕らわれてはいけない。認めた上で自分の気持ちはそれだけではないのだと前を向こう。


「では行って来る。怪我をしていない俺が休んでいられないからな」


 それに、神父様はいつもの神父様だ。

 切り替わっても居ないし、かつてスイ君と戦った時のような感情を見せてもいない。何故そのままなのかは分からないが、悪い方向に進んでいない事は確かだ。ならば私だけがくよくよしていられない。


「……必ず戻って来るから、心配そうな表情をしないでくれ。なにせやる事もあるからな」

「やる事ですか?」

「庇ったシアンと同じ怪我をするために、無事な身体で戻らなくちゃいけないからな」

「あ。……え、えっと、アレはですね」

「冗談だ。これを戻ってからも冗談と言えるように戦うから、シアンは待っていてくれ」

「……はい。健闘を祈ります」


 私の様子をやや勘違いした神父様が、私の言葉に小さく笑顔を見せた後に戦いへと戻った。エーちゃんが入った事により戦闘速度が上がり、こちらが押し気味となっている。神父様も入ってすぐにマーちゃん達と連携を取れている辺り、流石と言わざるを得ない。


「……嬉しいけど、なんでいつも通りのままなんだろう」


 戦いを見つつ、比較的安全な場所に戻ろうとした時にふとそんな言葉が漏れてしまう。

 私はヒトの機微に気が付きやすい方ではあるが、神父様に関してだけは分からない事が多い。恐らく私は自分の感情に関しては鈍いからだと思う。

 そんな私が、今の神父様が“神父様”で居られる事を疑問に思っていた。怒ると容赦が無くなる神父様が、いつもの神父様のまま戦いを出来る理由が分からない。それはもしかして――


「怒るほどの事でも無かった、とか」


 ……駄目だ、どうも思考がネガティブになっている。先程の薬を摂取したレイ君達の気分が昂っていた事を考えると、もしかしたら感情を強める副作用があるのかもしれない。あるいはそんなモノ関係無しに私の精神が弱いだけかもしれないが。

 ともかく気持ちを切り替えて、私は戦闘の場を後にしようとする。肩が使えなくても出来る事はある。処置をしたという皆の様子を確認して、私に出来る事をした後に戦いが終わった神父様を出迎える。私に出来る事はそれだけだ。


「暗い表情をするな、シアン」

「え。……イオちゃん!?」


 私が行こうとする前に、話しかけて来たのはまさかのイオちゃんだった。どうやら戦闘で弾き飛ばされて華麗に着地した所に、私の事に気付いて話しかけて来たようである。


「せ、戦闘は……」

「友の表情を見て放っておけなかったんだ。言いたい事を言ったら戻る」

「言いたい事?」


 イオちゃんは戻る場所であるコットちゃん達が居る方向へ見ながら、こちらを見ずに言葉を続けた。


「神父様を繋ぎ止めたのは、シアンへの愛があったからだ。敵への憎しみという自分の暴走する感情よりも、シアンが不安がる姿を見せたくないという気持ちが上回り、冷静な判断が出来た。だから自分は愛されていると自覚を持った方が良いぞ。ではな」


 イオちゃんは恥ずかしい事を恥ずかしげもなく、一方的に言った後、私の返事を待つことなく戦闘に戻って言った。

 言いたい事は言った、そしてそれだけで充分だと言わんばかりの様子である。

 ……神父様がいつものままで居られた理由の正解なんて分からない。恐らく感情に関してはとことん疎い神父様自身も分かっていないだろう。だからイオちゃんの言葉が正解かどうかも分からない。


「…………よし」


 けれど、前向きにはなれた。我ながら単純だとは思うが、後ろ向きよりは断然いいだろうと思い私は歩を進める。


「神父様に怒られるためにも、私に出来る事をやろう」


 普段私を庇っては私に怒られている神父様と立場が逆だなと思いつつ、私は次の戦いのために私に出来る事をしよう。

 そう決心した。ネガティブではなく、ポジティブな気持ちで前へと進んだ。

 だからこそ、気付かなかったんだと思う。


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