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注入!(:紺)


View.シアン



――わー、穴が開いてる。


 私は自分の肩を見ながら、まるで本の出来事、もしくは他人事のような感想を抱いた。

 防護魔法はキチンと発動し、私の身体を守っていた。攻撃を喰らうのが上半身側だと判断し防御能力集中もした。未知に近い攻撃に対し、上級魔法を喰らっても痛いだけで傷はつかないレベルまでガチガチに固めた私の防護魔法は、小指サイズの弾一つにあっさりと打ち破られたのである。


――でも、これで済んだだけマシ、か。


 恐らく私が受けた銃は、マトモに喰らっていたら肩に穴が開くどころか肩が吹き飛んで右腕を失っていたと思われる威力があっただろう。だからこれだけで済んでマシだというものだ。


――アイ君が居れば後遺症も残らなかっただろうけど、これは……


 あの怪我が大好きで大嫌いなアイ君なら、適切に処置を施して十全に動かせる治療をしてくれる。しかし彼はここには居ない。治療をして治っても後遺症が残るのは分かる。分かってしまう。それほどの一撃を私は受けてしまった。……将来スノー君と子供を両腕で抱きかかえるのは、夢のままで終わりそうだ。戦闘中にも関わらず、そんな事を思ってしまう。


「シアン! ――、よくも、シアンを」


 だけど私の庇ったのを見て、切り替えてしまったスノー君をどうにかしないと、あらゆる前提が成り立たなくなる。

 スノー君は普段は温厚で優しくとも、悪と認識した相手には容赦が無くなり、敵対していれば必ず裁かれるか反省をするまで諦める事が無くなる。例え相手が逃げようと追いかけ続け、強大な力を持っていようと立ち向かい、自分の身を犠牲にしてでも必ず対処する。それは私にとって大好きであり、同時に不安で直して欲しいとも思うスノー君の美点(けってん)だ。

 そして今回は私が傷付いた事により、私を撃った女性従者を悪と断じて周囲が見えなくなる可能性がある。それを見た他の従者自動人形達が攻撃を仕掛けた場合、最悪スノー君はその攻撃を受ける事前提で最小限回避で直行してしまう。そうなればスノー君の怪我は免れないだろう。出来れば私もそれは避けたい――


――あ、駄目だコレ。


 自分の方の状況も忘れ、私はスノー君の危うさに気付いた。

 スノー君とクロ。二人はあまり似ていないようで、本性は似ていて同族嫌悪をしている所がある。

 その似ている本性とは凄く分かりやすく言えば「ヒトを冷静に殴れて嫌悪感を抱かない」だ。勿論もっと複雑なのだが、ともかくそういったヒトを殴る事に生理的嫌悪感を抱かない。楽しまず、気持ちを昂らせずに、どう殴るかを決めた上で相手を傷付けられる。ただそれだけであり、そういう状態になる事が出来てしまう。

 それを私は止めなくてはいけない。大丈夫だと言って、戻さなくては。


「――――」


 声が出ない。肩の激痛が喉に力を与えてくれない。

 止めようとする手があげられない。骨が軋んで穴が開いていない腕も動かない。

 止めようと思っても止められない。意思に身体がついて来ない。

 思ったよりも私の状態は異常なようであり、このままじゃスノー君が――


「シアン、少し我慢してくれ」


 しかし私が止めるよりも早く、スノー君の腕が私を支えていた。

 飛び出す事無く、いつものスノー君がそこには居たのである。


「【創造魔法:剣(クリエーション・)】」


 そして私を抱えた瞬間、隙だと判断した自動人形達が私達に襲い掛かって来る。それに対してスノー君は不利と分かっていながら創造魔法を展開させて。


「【爆発(ディストラクション)】!!」


 剣が爆発した。

 …………なんで?


「アレは確か――クリームヒルトちゃんの“芸術は爆発だ”という名言を残した人物の話を聞いて、ならば創造という芸術を爆発させる事も可能なのではないかという考えから開発中だった、クリエーション・ディストラクション! まさか完成していたなんて!」

「シスター・マゼンタ、協力してましたもんね。夢魔法も応用できないかとか言って。ともかく二人をフォローしますよ!」


 ああ、うん、マーちゃんとスイ君が疑問に答えてくれた。なんか知らない内に強くなろうとして、リムちゃんの錬金魔法が爆弾になる事を参考にしてなんかやってたみたいなようである。色々言いたい事はあるが、今はそれでなんとか態勢を整えられそうだから言わないでおこう。というか言えるような状態じゃ無いしね。


「大丈夫だ、シアン。俺もアイボリーほどじゃないが、治療を学んでいる。すぐに治療するからな! 治癒魔法は……ちょっと苦手だが、頑張るから!」


 これから治療をしようというのに、そんな事を言わなくても良いですよ、と内心で小さく笑う。確かにスノー君って魔法適性わりと尖ってるからなぁ。創造魔法もそうだけど、火で焼くとか風の刃とか割と攻撃的な魔法が得意で、私みたいな水とか癒しとかは苦手なんだよね。使えない訳じゃないけど、代わりにと言うように治療の方は知識も手腕も結構な腕前を持つ。昔はそれを聞いて性格や外見と合わないな、思った物である。懐かしい。


「大丈夫、すぐに治療をして――っ、【創造魔法:布】!」


 もう、嘘がつけないんですからスノー君は。そんな表情をしたら相手が不安がりますよ。

 いや、違うか。スノー君は嘘がつけないのではなく、誤魔化しが苦手なんだった。素直というか馬鹿正直というか。まぁそんな所も好きだし、愛おしくは思う。


「簡易的に出血を防ぐ。痛いだろうが、我慢してくれ」


 ええ、もちろん。スノー君の頼みとあらば、痛くても我慢しますし、声もあげません。そのくらいできるから、不安で今にも泣きそうな表情は止めてください。いつものように、笑顔で居てください。

 私は貴方の怒る顔も泣く顔も好きだけど、笑顔の貴方が一番好きなんです。だから、


「あれ、なんだこれ、魔法じゃないのに、段々と広がって、ああ、なんで、どんどんと広がって、なんで塞がらない、この、なんで」


 だからそんな顔をしないでください。

 私は大丈夫です。肩に穴が開いただけで、その開いた穴には骨と大きな血管が通っていただけで、痛みも無いので大丈夫です。だからそんな風な顔を見るのは嫌ですから、もっと笑顔で――


「なるほど、これは軽傷ですね。私が治療いたしましょう」

「え、だ、誰だ!?」


 ……ん、あれ。なんだか感動的な場面に急に可愛らしい服の女性が割り込んで来たし、なんか嫌な予感がする。


「A25という渾名を持つ治療能力を持つ者です。この程度の治療であれば私がすぐさま終わらせられます」

「ほ、本当か!? いや、でも軽傷って言ってたが、これは軽傷では……!」

「頭と首と身体が繋がっているので、軽傷です」


 軽傷の範囲広すぎない、それ。


「軽傷の範囲広すぎないか、それ」


 あ、私の考えとスノー君の意見が一致した。嬉しい。


「ともかく、私が治療をします」

「そ、そうか、すまないが頼む。俺に出来る事はあるか?」

「腕を抑えておいてください。薬の鎮痛作用が利くのに少々時間がかかりますし、あと」

「あと?」

「腕を適切に抑えておこないと、腕がビクンと跳ねて、変な形のまま穴が塞がって逆関節になる可能性があるので」

「わ、分かった」


 え、なに、私なにされるの。怖い。


「ではシアン様、行きますよ。今回回復薬を口からでなく、直接傷口に摂取させます、そうする事ですぐに治るのですが、下手をすると――――では行きます」


 待って、下手をするとなにが起こるの? というかその回復薬ってさっきレイ君達がよく分からない状態になった奴だよね。え、ちょ、待っ――


「注入!」


 ――その日、私は生涯で最も痛い思いをした。


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[一言] 死ななければ安い
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