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未知の感情(:菫)


View.ヴァイオレット



 見た目が整った、若い男女の従者。ヒトのようでヒトではないという自動人形達が、私達の居た部屋へとなだれ込んでくる。

 彼らは周囲を見渡し私達を認識すると、刃物など武器を持つ者は手に持ち、持たない者は格闘の構えを取る。


――強さが分からない……!


 初見の相手でも、相対した以上は今までの経験からある程度の強さは想像出来る物だ。私はまだまだ未熟であるとはいえ、少なからず戦闘態勢の相手の力量をある程度は図る事が出来る。

 しかし現れた自動人形達の強さは未知であり不明であった。

 目も口も動きもヒトであるようなのに、“生命”を感じない。魔力も次の動きも感知できないその姿は、今まで私が感じた事の無い生命への違和感であった。


「『□□□■□□■□□□□■■□』」


 違和感をすぐに切り替えて戦闘に入ろうとすると、A25が私には聞き取れない声を発した。A25を見ると表情は無表情に、そして目はなにかを“発信”しているように、奇妙な明滅をしていた。


「……駄目ですね。私の言う事をここでも聞かないとは」


 A25はすぐに表情を戻し、目の明滅と聞き取れない声を止める。

 A25は彼らを管理し、遠距離から命令を出せる立場の上級管理えーあいであると言うから、試そうとしたが失敗した、という所か。


――敵か、味方か、あるいは傍観するか。


 A25は今までは私達に協力はしてくれたが、味方というよりは利害が一致している協力者という方が近い。そして現在襲い掛かって来ているのは、上司(?)であるA25の命令を聞かないとはいえA25の同胞だ。

 先程は逃げてくれなどとは言ったが、今ここでどのような行動をとるかは分からない。私達が彼らの命を容赦なく奪うと言うのならば、もしかしたら敵になる可能性も充分にある。それをマゼンタも理解しているのか、私と同じように自動人形とA25を警戒して――


「言う事を聞かない部下はいりません。ぶっ飛べ」


 ――警戒していた次の瞬間、A25は容赦なく自動人形達を破壊した。それはもう容赦のない見事なパンチでの一撃である。破壊された自動人形は血を……出す事無く、銀色の骨のような物を内部から露出させる。


「さて、説明いたしますが、私達は皆様のような魔法を使う事は出来ません。しかし力場と呼ばれる電磁力を使用した科学の力によって皆様の魔法をガードする事が出来ます。そして同時にこれは攻撃にも転用できます」


 そう言うとA25は腕の周囲の空間を歪ませ、そのまま思い切り近くにいた男性自動人形を殴りつける。そして殴りつけると同時、明らかに殴った場所から考えると余波にしてもおかしな部分まで破壊される。さらには周囲に居た自動人形、力が貫通したかのように距離の離れた壁にまで力が伝わったかのようにヒビが入った。


「ご覧のような形です。私ほどではありませんが、この()達にも似たような力はあるので、見える物だけが正だと思わず、皆様にとっての魔法を常時使用している物とお思いください。それから」


 A25はゴスロリドレスを靡かせつつ、迫り来た自動人形のナイフを避けもせずにそのまま受けようとする。私達はそれに対応しようとするが、A25は手出し無用というジェスチャーをとる。


「――お前は効かない攻撃の識別も出来ないのか」


 そして私達に向けている表情と声とは違う物をナイフを向けた女性自動人形に向ける。そのように言いながらA25にナイフは刺さっておらず、まるで服が防護魔法をかけてあるかのように、貫くどころか皴が出来るだけで傷もつかずにナイフを止めていた。


「彼らの服は特別性です。見た目は布だとしても、なんの特殊能力も無い刃物ではこのように傷もつきません。まぁ、私の場合はさらに特別性なのでこの特殊効果のあるナイフでも傷はつきませんが」


 そう言いつつA25はナイフを奪い取り、傷がつきにくいという従者衣装ごと腹部を刺した。一瞬その光景に顔をしかめてしまうが、複数回さしても血も流れず、表情も変えずに段々動かなくなる様子に違う意味で顔をしかめる。


「ああ、ちなみにですが」


 と、一人で敵を捌きつつ、なにかを思い出したかのようにA25は刺していたナイフを引き抜き、動かなくなった女性従者の――服を綺麗に斬った。


「見た目はこのように人間と代わりませんが、照れずに容赦なく攻撃してくださいね。特にカラスバ様」

「見せなくて結構です!?」

「そう、結構な身体でしょう。まさにモデル級。あらゆる男性の要望を一身に引き受ける芸術品! 胸も■■も■■■も拘っております!」

「わ、分かりましたから、なんか変な感じがしますんで止めてください!」


 肌か綺麗で身体も整ってはいるが、生命の感じない、所々に私達の知らないような材質の内部が見える女性。……奇妙な感覚だ。


「ちなみに男性型も■■■も■■■もありますが、■■■■だけは特注を除けば存在しておりませんので、弱点として蹴り上げるのはおやめくださいね」

「あ、そうなんだ。気を付けよう」

「マゼンタ、お前狙うつもりだったのか……」


 と、マゼンタさんの冗談かどうか分からない表情と、カラスバ義兄様の複雑そうな表情は置いておくとして、私達が軽口を叩く程度にはA25が一人で対応しきっている。

 先程まで分からなかったとはいえ、今見ている戦闘で充分に強いと分かる自動人形達を圧倒する姿は見事という他ない。……服装は可愛らしく、何処か抜けているA25とは別人のようであるので、違和感がある光景にしかなって無いが。


「さて、これで最後ですか」

「……最後? これで、か?」


 最後という自動人形の動きを封じたA25の言葉に、警戒をしていつでも戦闘に入れるように私は疑問を言う。私が見た自動人形達はかなりの数が居て、今居る数は三十程度だ。とてもではないが数が合わない。


「ええ、後はどのような状況かをこれに聞くだけですが……」


 A25はそう言うと、私達には見えないなにかをし出す。私達にはそれを手伝う事も出来ないので、ただ黙って、「此処に居る者達だけ目覚めて襲い掛かって来た」という答えが出ることを期待しつつどうなるかを見守る。


「――なるほど」


 時間がかかるかと思ったが、すぐにA25はなにかを終えると自動人形にトドメをさした。


「良いのか、仲間なのでは……」

「言う事を聞かない部下、というのもありますが、助からない以上は楽にするのも同胞であり管理者としての務めです。皆様も手加減や同情は不要です」

「……そうか」


 同情はまだしも、手加減という言葉が出てくる以上はこれで終わりでないことを示している。私は心を引き締めた。


「目覚めた個体は計三百二十四体。全てがセルフ=ルミノスによるウイルス……洗脳を施されています。与えられている命令は“可能な限り命を奪わない制圧”です」

「……事故で殺してしまっても問題無い、という事か?」

「はい。そうなります。私は今回の接触で繋がりを回復できたため、この身体で制圧作業と、我が社での処理作業を並列で行います。そのため少々出力が下がるかと思われますが、戦闘には支障はないのでご安心ください」

「なるほど……分かったよ、よろしくねA25ちゃん!」

「マゼンタ、お前碌に分かってないだろ」

「うん! それで、どうするの。他の自動人形の子達が居るって言う所に行く感じかな?」

「はい、ある程度予測は出来る情報を得ましたので、それを頼りに向かいたいと思いますが……よろしいですか?」

「構わない。それぞれに目的はあっても、達成のためには何処に行けば良いかの目途も立っていないのだからな。……ヴァイオレット」

「え、はい。なんでしょうコーラル王妃」


 突然名を呼ばれ、驚きつつも身を正しコーラル王妃に返事をする。


「お前は必要ならば別行動をとっても良い。なにか気になるようだからな」


 そしてその言葉に私は不意を突かれてポカンとしてしまう。……レッド国王に関してあれだけ騒いでいたが、私の様子に気付いていたのか。だがあれは私もよく分からない感覚であるのだが……


「単独行動、という訳にはいかないから……この若返ったり年を取ったりと忙しいこの馬鹿親友を連れて行っても良い」

「あははは、親友なのに酷い扱いだね!」

「若返……? 年を取る……? そういえば何処となくお若いような……?」

「いえ、その、そういう訳ではなく」


 カラスバ義兄様はコーラル王妃の言葉に疑問に思い、私は戸惑う。コーラル王妃は本気で私を心配しているようであるし、どう言えば良いものか……


「コんにチは。お伝えシたい事がゴザイマス」


 私がどうすれば良いかと悩んでいると、基本粉々にされた自動人形の中で、身体は無いものの比較的頭部の形が保っている自動人形が喋り出す。私達はその声のした男性自動人形を見て、A25は私達を庇うように移動した。


「……何者でしょうか。どのようにその個体を使用しているのです?」

「――やぁやぁハンブ君。君とは親睦を深めて男女の仲になり、人間であるという喜びを誤認させて壊したい所だけど、今は君に用があるんじゃないんだ。ごめんすまないもうしわけない」

「…………セルフ=ルミノス」

「様はつけてくれないんだ」

「既にお客様ではないので」

「そっかー、残念」


 流暢に喋り出した男性自動人形……セルフ=ルミノスが操っているだろう自動人形は、軽く笑い声をあげる。……腹立たしい声だ。


「カラスバ君もやっほー。折角君の奥さんの身体を治す算段を付けたのに裏切っちゃうとか、奥さんを見捨てちゃったのかな?」

「……そういわれてもおかしくは無いでしょうね。ですが私は……」

「君は君の意志に従い選択をしたんだ。例えもう遅くても、充分にそれを誇ると良いよ」

「…………」

「あとはマゼンタ君やえっと……この国の王妃にも話はあるけど、今する事じゃないから今後もしないでおこう!」

『…………』


 この男は、本当に……!


「で、僕が用があるのはヴァイオレット君なんだ。おーい、そこにいるかな、聞こえるかな。丁度範囲の外にいて見えないんだよねー」

「……居るが、どうしたと言うんだ」

「あ、良かった。君に伝えたい事があるんだけど、実はクロ君を殺しちゃったんだ」

「…………」


 …………なに?


「あー、いや、重症だったかな。まぁどっちにしろ身柄……亡骸? はスミレっていう自動人形の機械が持っているから、早く取り戻した方が良いよ。早くしないと……」


 喋るだけであった自動人形の頭部が、無理矢理嗤うかのような表情を作る。その表情は何処か人間というには何処か不気味さを感じる作り物のような嗤い顔であった。


「再会出来ないまま永劫の別れになるから、頑張ってねー」


 ――私の中に、今まで感じた事の無い感情が生まれるのを感じた。


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