ある存在で確信してしまう(:偽)
View.メアリー
私は学園祭の片付けを少し抜け出し、ヴァイオレット達の見送りに来ていました。一応許可は得てはいます。
サボタージュしている訳では無く、単純に友達としては別れる前に見送りをしたいというだけです。
決して昨日の学園祭総括のパーティーの後にダンスに誘われたり、抱きしめられたり、キスを迫られたり、私を巡って取り合いとか起き、それが原因で月組皆で片付けをしていると、ヴァーミリオン君などと顔を合わせるのが恥ずかしいとかそんな事無いです。ただ友達のヴァイオレットやクロさんを見送りたいだけなのです。
……傍から見ると、かなり酷い女なのでしょうね、私。多くの相手に好意を抱かれていると実感しながら逃げるなんて腹立たしい女だという自覚はあります。
だからと言って今の生き方をやめるつもりはありません。いずれ逃げないように慣れていきたいと思います。
「という訳で、見送りに来ました。寂しいですが、いずれまた会う日を楽しみにしていますよ」
「ありがとう、スー……メアリー」
空間歪曲石がある施設の前で、私はヴァイオレットの手を握り別れの挨拶をしていました。
まだ私の名前を呼び慣れていないようですが、名前で呼ぼうとはしてくれているので嬉しいです。
……いっそのこと渾名で呼び合うとか良いかもしれません。確かそのような内容の漫画を前世で見た事がある気がします。今度会った時に「ヘーイ! ヴィオちゃん!」と挨拶するのも良いかもしれません。
「あはは、暫くしたらまた遊びに行くかもしれないから、その時はよろしくね!」
「ああ、よろしく頼む。ところで酔いは大丈夫か?」
「吐いたし大丈夫!」
「そうか。……えっ、吐いたのか?」
「うん、あの後水だと思って飲んだヤツがアルコール入った奴だった。お陰でドレスが駄目になったよ」
「そうか……気をつけるのだぞ?」
偶々施設前でお会いしましたクリームヒルトとも別れの挨拶をしています。
私と同じように別れを惜しむ言葉を交わしています……ですが、彼女と接する方がヴァイオレットは自然な表情になっている気がします。やはり学園に居た頃から話をしていた分仲が良いようです。少し羨ましいですが……私自身学園から追い出した立場なので、いきなり仲良くするというのも無理なのでしょう。いずれは温泉に一緒に入って胸を揉む間柄、というヤツまで上り詰めて見せますからね……!
……こうしてみると複雑な所があります。クリームヒルトは私がある意味居場所を奪った相手。そして主人公と悪役令嬢が仲良くしているというのは、おか――と、いけません。
「……殿下も、またいずれ」
「…………ああ」
そして抜け出す所を見つかり、付いて来たヴァーミリオン君にもヴァイオレットは別れの挨拶をします。
複雑な空気ですが、ここで私が出しゃばるとより複雑になる気がするのは気のせいではないでしょう。出られるとしたら、クリームヒルトかシアンさんなどの別の方が良いでしょう。それに……昨日ヴァイオレットと別れた時、殿下の様子が違う所もありました。
あのゲームでは相容れる事も許される事もないので――いけません。あくまでも参考に留めておくべきなのです。
「ところで、クロさんはどちらに?」
「先に行って空間歪曲石使用の手続き中だ」
「成程、使うのに色々ありますからね」
私の問いに対し、初めは何処か警戒していましたが、昨日の戦いの後に良いライバル関係となったアプリコットが返答をします。
彼女は魔法に関しては恐らくヴァーミリオン君と同等程度、あるいは以上にあると昨日の試合で実感しました。来年に後輩になるかもしれないとの事なので、その時が楽しみです。
そしてアプリコットとは一度ゆっくり話をしたいものです。技名がどことなく私の琴線に触れるものが多いので、今度一緒に魔法名談議をするのも悪くはなさそうです。
空間歪曲石の別名も良いですね……特に、リ、の所が。やはりRe、と表記するのでしょうか。ヴァーミリオン君はなんのことだと疑問顔な気がしましたが。
「ほう、噂をすればクロさんが戻って――む? トラブルか?」
クロさんの話題になると、クロさんが建物の中から出てきました。
初めは準備が出来たので、もう行くというために戻って来たのかと思いましたが、クロさんの表情から見てそうではないようです。
なんというべきか、忌々し気な表情のような……?
「クロー、どしたの。手続きに時間がかかるとかそんなん?」
そしてそれを見たシアンさんがクロさんに問いかけます。……ところで彼女のシスター服にスリットが深く入っているのは何故なんでしょうか。破れているんでしょうか。
「……手続きには時間はかからない。ヴァイオレットさんも、グレイも、シアンもアプリコットもすぐにでも使えるとの事だ」
「ならどうして――ん、もしかして……」
……ブルストロード兄妹はバレンタイン家に戻るそうなので、今クロさんが仰った名前に無いのは分かります。ですが、今の言い回しだと……
「ああ、あの野郎。俺の帰りの空間歪曲石の使用を禁止にしやがってた」
◆
「すまないな、ハートフィールド。まさかカーマイン兄さんがそんな狡いというべきか……そこまでお前に嫌がらせしたいと思っていたとはな……」
話を纏めますと、首都に来る前に確認していた空間歪曲石の申請はきちんと往復人数分あったそうなのだが、今確認するとクロさんの申請だけが無くなっていた――というよりは、クロさんの魔力をブラックリストに登録されて使用権そのものを剥奪されている状態との事です。
「いえ、殿下が謝る必要はありません。悪いのはアレですから」
「……俺の前で兄をアレ呼ばわりか。だが、仕様がない事かもしれんな」
その実行犯はカーマイン第二王子。……私は会った事がありませんが、随分と陰険かつ相手が嫌がる事をする方のようです。
シキに馬車で帰ろうとしたら、最低限の休憩だとしても十日はかかるらしいですから、短縮移動手段を断つ、というのは効果的ではあります。
「俺が掛け合ってすぐに解いて貰うようにしよう。解除には専門の調律師が必要で時間がかかるから、今日の夜には解除はされるだろう」
「ありがとうございます、殿下。ですが大丈夫ですよ。そもそも俺がブラックリストに簡単に入れられたのは、元々入っていたから、なんですから。……それに、多分残っていたら解除されていた憲兵の捕縛命令が復活するでしょうし。それを分かっていてアレは馬車かなにかで時間をかけて帰らせようとしているんですよ」
「む、それは……確かにそれは俺の権限でも急には……」
ヴァーミリオン君に聞いたのですが、確かクロさんはカーマイン殿下を決闘で殺す寸前まで追い込んだ……のでしたっけ。
決闘の出来事なので大事には出来ず、それが原因で王妃に嫌われた、というのを聞いています。となると、王妃の子ではないヴァーミリオン君ではクロさんの指名手配の扱いを取り消すのは難しいかもしれません。
「よし、では私も一緒に帰ろう。クロ殿と半月近く離れるのは耐えられない」
お、おお……ヴァイオレットが好意を隠す事ない発言をします。ヴァーミリオン君もその言葉に驚いているようです。
……このような態度であったのならば、ヴァーミリオン君とも――いえ、それは失礼ですね。これはクロさんが相手だからこその発言でしょうから。
「お気持ちは嬉しいですが、大丈夫ですよ。……ヴァイオレットさん達とそう変わらない時間で帰れるアレの知らない移動手段が、俺にはありますから」
「移動手段? ……もしかして」
「ええ、もしかしてです」
そう変わらない時間で帰れる移動手段?
なんでしょうか、それは。
空間歪曲石は紛れもなく最速の移動方法です。シキとやらには馬車で移動するとしても、変わらない時間で移動するなど、この世界にはないはずですが――あれ、クロさん以外も移動手段が分かったのか、「なら大丈夫か」みたいな表情になっています。そして何故かクリームヒルトも理解したような表情になっています。
「あ、丁度いました。おーい」
と、私とヴァーミリオン君が疑問顔でいると、クロさんがどこか空を見上げて手を振りました。なんでしょうか、空になにか居るのでしょうか――
「オ呼ビデスカ、クロクン」
「だ、誰ですか――!?」
「下がれメアリー!」
現れたのはゴゴゴゴゴ、という音を鳴らしながら私達の所へと降り立つSFチックな存在。
敵? 敵ですか?
古代文明の目覚めた防衛機構が現代の文化を破壊するために送り込んだ使徒とかなのですか!?
「メアリー。殿下。唐突な邂逅で驚くかもしれないが、彼女はロボさんと言って、シキの領民なんだ。確かに外見には派手さがあるが、善良な領民だよ」
「イエイ。ロボトイイマス。素顔ヲ晒セナイ無礼ヲオ許シクダサイ」
……成程、この世界は“火輪が差す頃に、朱に染まる”の世界ではない訳ですね。




