想いのぶつけ合い。Ver.白と銀
白と銀
「【闇呪空間保持魔法】!!」
「闇の――ドーム!?」
「驚いたでしょう、これはね――」
「まさかこれはシルバ君ルートのバッドエンド2、この誰にも邪魔されない空間で一生一緒に過ごそうね、で使われた空間隔絶魔法ですか!?」
「え、知ってるの!? というかなにそれ!」
「シルバ君は見た目年下可愛い弟系ヤンデレですから、そういうのも需要があるんです」
「どういう需要だよ! メアリーさんの世界の乙女ってなにかおかしくない!?」
「否定は――ともかく、何故今この魔法を!」
「否定してよ! 僕の思いの丈をぶつけるって言ったでしょ、これならメアリーさんにしか聞こえないからね、使わせて貰ったよ!」
「……成程、ヴァーミリオン君に聞かせないため、ですか」
「……なんの事だろうね――隙有り!」
「っ! フッ――! 甘いですよ。甘々です。このような空間を作り出さず、思いの丈を叫べば、私がやろうとしている事を阻止出来ましたよ?」
「だからなんの――」
「シルバ君の叫びたい事には、私が告白するという事も含まれるから、その告白を邪魔したくなかったんですよね?」
「…………」
「シルバ君に気付かれていたとは驚きですが、私が告白をしようとしている事自体をヴァーミリオン君に知られれば、私のかねてからの計画が更に台無しになる。それを避けたかったんですよね」
「……そうだとしたら、僕は甘い事になるの?」
「ええ、とても。その優しさが私は好きですがね」
「そう。――だとしたら、甘い僕は聞こえないようにしたこの場で遠慮なく言わせて貰うよ」
「聞きましょう」
「メアリーさん」
「はい」
「僕は貴女の事が大好きです。一人の男として、女性である貴女が大好きです」
「はい」
「だけど貴女が僕の想いに応えられないのも知っています」
「……はい」
「例え今からアイツより好いて貰おうと頑張ったとしても、それでは意味がないのです。もう心を決めてしまった貴女が、僕の頑張りだけで僕に変えるような心なら、それは僕の好きになった貴女ではなくなるからです。……貴女がフラれれば可能性はあるかもしれませんが、僕はフラれて悲しむ貴女を見たくありませんし、そのような事を願うのは、こんな僕を男としてというよりは、シルバ・セイフライドという友人として好いてくれた貴女に顔向けできなくなるので、願いたくはありません」
「…………はい」
「だから僕は貴女の告白と恋を応援します。……しますが、割り切れない部分もありますし、失敗してしまえとか言う自分でも嫌に思う気持ちも確かにあるのです。今まではこの想いも、僕の告白もメアリーさんを苦しめるだけだから言うつもりはありませんでした」
「シルバ君……」
「……。だけど今の僕は、どうやら感情をとめどなく溢れさせられているようだ。その方が面白いと思われたのか、抑え込んだ事を言いたいと言う夢を叶えさせられたか。どっちかは分からない。だから――言わせて貰う」
「…………」
「メアリーさん」
「はい」
「馬鹿じゃない?」
「……はい?」
「メアリーさんさ。ヴァーミリオンに好意を抱かれているという自覚を持っておきながら、それを保留した挙句、自分から告白をしたい、という思いを抱いているんでしょ?」
「え、ええ」
「結婚のプロポーズでもない、付き合いたい……まぁ相手は王族だから付き合うイコールプロポーズかもだけど、付き合いたいという想いをぶつけるためだけに、好きと言う感情を躱しつつ、“せっかくするなら最高の告白をしてやるぜ!”とかいう思いで告白しようとしているんでしょ?」
「そ、そこまで分かっていたんですか!?」
「うん」
「だ、だとしても最高の告白をしようとするのはおかしくないでしょう!? 好きな人に喜んでもらえるのなら、その程度――」
「えーい、【火呪上級魔法】ー」
「危ないですっ!?」
「戦闘中という事を忘れないでね。隙見せたら普通に致命傷魔法を与えちゃうんだから」
「殴りながら言ってきますね……! と、ともかく好きな人のために頑張る事を馬鹿と言わないでください!」
「恋のために頑張るヒトなんて大抵馬鹿だよ」
「否定は出来ませんけど!」
「メアリーさんの行動はね。傍から見たらヴァイオレットが今になってクロさんに“結婚式前に最高の告白をするぞ!”とウキウキしているみたいな感じだよ」
「い、良いじゃないですか。好きという言葉はキチンと伝えないと不安になりますし、言って貰いたいものでしょう!」
「でも傍から見たら“二人でやってくれ”ってならない?」
「なりますけど!」
「僕はそんな感じだよ」
「なるほど、馬鹿と言いたくはなりますね!」
「でしょう?」
「……おかしいとは思いましたよ。告白と抱えていた思いを言ったのに、さらに言わせて貰うと言ったのは。――ですが!」
「うん?」
「私は馬鹿で良いです! 好きな人に最高に喜んで貰うために、馬鹿になりますよ!」
「それで突っ走って独り善がりな告白にならないようにね?」
「うっ」
「相手が喜ぶのが前提だけど、サプライズって結構反応に困ったりする事もあるからね?」
「うぐっ……!」
「相手のリアクションに期待し過ぎて、それを見て困ってしまうと相手に無理な反応をもたらしてしまうから、気を付けてね?」
「うぐぅ……私が不安視していた事を的確に……! そんな事を言って、なにが目的なんですかシルバ君!」
「そうやって告白に不安になるメアリーさんが見たかったのさ! 僕の想いを弄んだりとか鬱憤とかを晴らすためにね!」
「割と最低ですね!?」
「だから今言えたんだよ!」
「なるほど、ではそれ以上言わせないために、早くやられてください!」
「やだね、普段だったら言えないけど、言いたい事には変わりないからね! そぅらいくよ、おとうとけいやんでれ、のシルバ・セイフライドが行くよ!」
「意味分かって言っていますか!?」
「分からない!」
「良い笑顔で!」
「ともかく、言いたい事を言うと、メアリーさんが曇る! そんなメアリーさんは見たいけど見たくないから、早めに倒す事だね!」
「くっ、どっちも本音なのでしょうが、これがシルバ君のヤ――」
「そして、さっさとセルフ=ルミノスを倒して、その馬鹿みたいな事を実行しなよ。応援しているからさ」
「……応援するんですね」
「するよ」
「散々尻込みさせるような事を言っておいてですか?」
「その程度でやめるような性格じゃないからね、メアリーさんは。違う?」
「違いませんが」
「ふふっ、だろうね。僕は告白するまでは応援してる事しか出来ないけど、成功したら祝福するから」
「失敗したら慰めてくれます?」
「もちろん。皆でメアリーさんのやけ酒でもヴァーミリオンへの制裁の手伝いでもするよ」
「ふふ、それは成功させないと駄目ですね」
「うん、頑張って。あー……スッキリした。文句を言いたかったのは確かだけど、応援もしたかったからさ」
「私を応援したかったのけれど、素直に言うには蟠りもあった。という事ですか?」
「そういう事。応援しようとしたら、絶対文句も言いそうだったし、文句が何処まで出るか分からなかったから、告白前のメアリーさんに言えなかったんだよね」
「そうですか。ではスッキリした所で」
「うん、敵である僕を遠慮なくぶん殴って、倒してね」
「はい、曇らせられた分遠慮なく殴らせて頂きます」
「……あれ、怒ってる?」
「はい」
「否定すらしない!?」
「思いの丈を受け取りました。応援もありがたく受け取らせて頂きます。それはそれとして、遠慮なく攻撃を先程から受けていますし、口撃も受けました。あと、ただでさえ戦闘中なのに追加の攻撃も受けました」
「さ、最後のは僕の意志では――」
「色々フラストレーションが溜まっています。――シルバ君を振るために、この拳を返答としましょう」
「え、あ、う、えと、ど、ドンと来い! 今まで弟扱いを受けてたのに、そうやって殴られるのはその位の男になった証拠だ! 遠慮なく殴るんだよ!」
「流石です、シルバ君――行きますよ!」
「こ、来い――ふぐぅぁ!!?」
「……よし、洗脳を解くと同時に気絶しましたね。……流石に本気では殴りませんよ、まったく。……ありがとうございます、シルバ君」




