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嫉妬深い(:白)


View.メアリー



「【闇呪上級魔法(アンチ・グラビティ)】」


 何故シルバ君が此処に。その言葉を言うよりも早く、もしかしたら危険を察知し駆け付けてくれたのかと思うよりも早く、シルバ君は私に向かって魔法を放ちました。範囲内の重力を一時的にあやふやにするという、敵が押し寄せるこの場ではあまりにも危険な魔法を惜しげもなく放つのです。


「っ――彼は私が相手します! クロさんはその間ローズ殿下をお願いします!」


 クロさんの答えを聞くよりも早く、私は魔法の効果範囲内をシルバ君に向かって駆ける事によって逃れます。駆ける際に手に持っていたガトリングガンは重いので手放し、手放すと同時に魔法の効果を引き寄せる魔法陣も付与して私にかかる負荷を減らします。


――恐らく、ローズ殿下と同じ状況。しかも彼の方が重症……!


 ローズ殿下は自らの意志で話せる余裕はありましたが、何処となく瞳に光の無いシルバ君には余裕が無いように見えます。ただ私を攻撃対象にした洗脳を受け、機械生命体に紛れて一緒に攻撃を仕掛けてきた。そのように見受けられます。

 ならばまずは私が注意を引きつけ、全力かつ怪我をさせないように洗脳を解いた後、すぐに戻って戦線を維持し、余裕が出来たらローズ殿下の洗脳を解く。私はそうすれば良いと思い、シルバ君に攻撃を仕掛けます。


「【魚王家の星(フォーマルハウト)】」

「【尾の星(アリオト)】」


 しかしシルバ君を攻撃しようとしながら聞こえてきたその声は、無視するにはあまりにも強大な魔法と声でした。

 男性と女性の声で、魔法の名前は王族しか使えないとされる王族魔法。


「ルーシュクン!?」

「スカーレット……!」


 ただでさえ敵の数が厄介であるのに、私の想像のつく限りでは、王城にいる可能性が高くまだ今日は出会っていない知っている人の中では、最も厄介と言える組み合わせの二人でした。

 とても優秀な殿下達姉弟の中で最高の戦闘能力と、最高の身体能力の持ち主。その二人までもが洗脳されて襲い掛かって来るとなると、機械生命体無しでも無傷で勝てるのは難しいです。


「よそ見をしないでよ、メアリーさん」


 ……彼らが現れた事も気にはなりますが、今私がすべき事はシルバ君への対処です。

 他の誰かに気を取られる事が許せない。そう言わんばかりのシルバ君は、相も変わらず光の宿っていない瞳でこちらを見つつ、嫉妬とも言える感情を吐き出しながら私に攻撃を仕掛けてきます。

 闇、地、水、風。いずれもシルバ君の特殊な魔力により威力が底上げされた魔法であり、正確に、嫌な(いい)タイミングで放ってきます。


「悪いけど、僕は前みたいな貧弱じゃ無いんだよ」

「知っていますよ。良い事ですね」


 そしてシルバ君はその特殊な魔力で身体能力の底上げを可能としています。まだまだ不安定な所はあるものの、真正面からぶつかり合う場合、身体能力向上と魔法を同時使用されれば私はシルバ君に「勝てる」とは断言どころか言う事も難しいほどには強くなっているのです。


「さて、シルバ君。そこまで言う意識があるのなら、大人しく洗脳解除をされる気はありませんか」

「出来たら苦労はしないよ」

「でしょうね。ですがその言葉を言えるという事は少しは抗えている様子です」


 嫌な(いい)タイミングには嫌な(いい)タイミングで。身体能力で負けている攻撃には搦手で。時には身体強化を使って真正面から。余波で吹き飛ぶ機械生命体の一部を錬金して壁としたり。

 そんないろんな方法でシルバ君の攻撃を受け流し、攻撃をし返しつつ、私は問いかけます。


「ではその嫉妬は、どういう意味で言っているのですか」


 それは自分でも分かるほど冷たい言葉でした。むしろ自分で思ったよりも、口に出た言葉は冷たいものでした。

 何故そんなにも冷たい言葉を投げかけたのか。その理由はハッキリと分かります。苛立ちです。

 シルバ君がセルフ=ルミノスに洗脳されている事に対する苛立ちではありません。私に攻撃を仕掛けてくる苛立ちでも、大事な時に攻撃を仕掛けて来る事に対する苛立ちでもありません。それらはシルバ君に向ける物ではありませんから、それに対する苛立ちとは違うのです。


「シルバ君。私に見てと言い、自分は弱くないとアピールしています。それは、どういう、意味、なんですか」


 私は自分の感情がハッキリと伝えるため、あえて言葉を区切りつつ問いかけます。

 ……この苛立ちは、不確定な事に対する感情であり、あたっているだけとも言えるような醜いものです。ですが問わずにはいられないのです。


――私はヴァーミリオン君に告白すると決めました。


 私は好きな人と一緒になりたいと願い、私は二人以上を愛するほど器用ではないのです。

 そしてシルバ君が私の事を想ってくれているのも理解しています。それが過去の事であれば良いと思いつつも、現在までその好意が続いているものと判断するのも自惚れでは無いと判断しています。シルバ君の言葉が嫉妬からくる未練の言葉であるとすれば、自惚れだけでは無いと判断できるでしょう。

 つまり私の今の言葉と感情は、好意的に解釈すればハッキリと断るため余計な希望を抱かせないような反応を返した物であり、悪意的に見るならば私のためにも他の男になびくかもしれないような解釈を抱かれるような余計な事をするな、という反応です。

 そして私は後者の理由で感情が沸き上がっている自覚があり、それを自分で嫌悪していると同時に、間違えている感情でも無いと思ってしまう自分も居るのです。


「僕は……」


 互いに攻撃の手を緩める事無く、私の問いにシルバ君は少し悩むような仕草を見せた後、言葉を続けました。


「そうだね、これはメアリーさんに見て欲しい、告白を邪魔したいという嫉妬だろうね、自分でも驚きだよ。愚痴だけで済ませられると思ったけど、どうやら思ったよりも僕は嫉妬深かったようだ」


 シルバ君の言葉ある意味では予想通りでしたが、ある意味では予想が外れました。前者は私の予想通りの未練でしたが、後者はシルバ君の瞳には光が宿り、素直に嫉妬していると認めたからです。


「まぁ、この状況で、大変な状況でいうのもアレだけど。良いかな、メアリーさん」

「なにがです?」

「――思いの丈を、ぶつけさせてもらうよ」


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