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別の所が不安(:白)


View.メアリー



「それでは、ご案内いたします。私が先導いたします」


 スミレと名乗った女性は、行く先を告げ、営業スマイルのような笑みを浮かべた後、相変わらず綺麗な仕草でついて来るように促しました。


――綺麗な女性ですが、なにか不自然ですね……?


 仕草、言葉、顔、体格。どれも嫌味が無く綺麗で整っており、端正で清純という言葉が似合うような女性。私が従者という立場であれば、外見も仕草も彼女を真似をして目指して行けば間違いはないと思うような、まさにお手本と呼べる存在です。

 しかしなにか不自然な感じがします。この異常な事態で平静を装っているから、という事ではなく、彼女自身が私達とは根本的になにかが違うような感じがするのです。


「というより、私達付いて行くとは一言も言っていないのですがね」

「彼女……スミレは普通に歩いていますね」

「もしかしてあの女、付いて来ていると思っているんじゃ――お、止まった」

「振り向きましたね」

「こっちを見てイマスネ」

「戻って来たな。……どうする?」

『…………』


 順に私、アッシュ君、エメラルド、クロさん、ロボ、ヴァーミリオン君が彼女の綺麗な歩き姿、振り向き姿の感想を言いつつ、なんだこの状況と思いつつも戻って来るスミレを待ちます。


「それでは、ご案内いたします。私が先導いたします」


 そして戻って来たスミレは聞こえていなかったと判断したのか、もう一度同じ言葉を先歩よりもハッキリと言い、再びくるっと回って歩き出そうとします。


「タイムですスミレさん。ご案内前に相談良いですか?」

「良いですよ。では待たせて頂きます」

「ありがとうございます。では……」


 スミレが歩くのを呼び止め、私達は固まってスミレに聞こえないように相談をします。


「おいどうするんだ。あのシュミレ? とやらに付いて行くのか? 罠としか思えないんだが」

「同意見だがなにもしないと言うのもな……それに下手に逆らって無理矢理付いて行かされる、というのは避けたい」

「何故だ、クロ子爵?」

「彼女、結構強いですよ。俺達なら勝てるでしょうが、無傷で勝てるのは難しいレベルです」

「そうなのですか? 私とカーバンクルの見立てでは、武器も無い上に細身で力を感じられず、魔力も一切ないレベルで魔法も得意そうには見えませんでしたが」

「ワタシもクロクンに同意見デス。理由は分かりマセンガ、彼女は下手をすればクロクン以上の力を持ってイソウデス」

「クロ子爵と同タイプの可能性か」

「俺は魔力はあるんですがね……ともかく、罠の可能性を考慮しつつ、付いて行きますか? 案内先が案内先ですし」

「……そうだな、だが……」


 私達があれやこれやと相談し、ふとある時に皆さんが黙ってスミレと名乗った彼女の方を見ます。


「(しかし何故彼らは最初について来ず、私を先に行かせたのでしょう……相談するのなら最初のタイミングですれば良いのに、これもなにか理由が……? はっ、まさか私の後ろ姿に見惚れたという可能性も? ……いえ、それはありえませんか。……ありえませんが、一応考慮として入れておきましょう。なにせ私ですからね)」


 そして再び皆さんで相談する形で見合わせます。

 皆さんはなにも言いませんが、恐らく同じ感想・感情を抱いたでしょう。


――ポンコツに感じるのは気のせいでしょうか……


 初対面の女性に思うのは失礼な感想ではありますが、どうもそう思ってしまうのです。最初の案内で私達が付いて来ているのを疑っていない所とか、聞こえていないと思って同じ言葉を言う所とか……優秀そうな外見と所作なのに、なんとなくこう思うのです。


「彼女に付いて行ったとして、彼女の案内でその……大丈夫だと思いますか? 味方側だとしても大変な目に会いそうではありませんか?」

『…………』


 私は思った事を口にし、皆さんは同意を無言として示しました。

 彼女が敵かどうかではなく、敵ではない勢力でも余計なトラブルを持ち込みそうである。私達はそう思うのです。


「? …………ふふ」


 なにせ今もエメラルドがスミレを見て、その視線に気付いたスミレは、笑顔を作り手を振っているのです。別にエメラルドが手を振った訳でもないのですが、子供に対してついそんな反応をしてしまった、というような感じです。

 …………。

 …………。


「……とりあえず状況打破のために、付いて行きますか。いざとなれば皆さんで逃げましょう」


 私の提案に皆さんは頷き、とりあえず付いて行く事になりました。







「スミレと言ったな。俺達の案内を依頼されたと言ったが、その依頼者については言えるか?」

「申し訳ございませんヴァーミリオン様。契約者様のお名前をお教えするのは、契約の内容上、お教えする事が出来ません」

「……そうか」


「スミレさん、先程から誰とも遭遇しないが、貴女がなにかやっているのでしょうか?」

「やっている、というよりは把握している、という表現が正しいかと。私は誰とも会わない道を選び、ご案内している所でございますアッシュ様」


「スミレさん、これから案内する場所は……」

「申し訳ございません、メアリー様。ご案内する先の事は、現状はこれ以上はいう事が出来ません」

「……そうですか」


「スミレ。毒についてどう思う?」

「薬も過ぎれば毒と言えますし、もう全てが毒判定でみんな平等です」

「なるほど!」

「なるほど、じゃねぇエメラルド。その回答で納得するな」


「スミレクン。ワタシをどう思イマス?」

「……格好良いですね。私としましては、肩に多重連射式の攻撃用の武器を装備させたいですね。数こそ力です」

「ナルホド」

「待てロボ、検討するな」


 案内されながら、スミレという女性がどういう存在なのかを探る私達。一部変な内容もありますが、彼女は淡々と営業スマイルを浮かべながら答え、なにか確信を得られる答えは返っては来ません。ロボへの回答は少々気にはなりますが。


「…………」


 そして皆さんが質問をして探る中、ツッコミはするものの質問をしないクロさん。前を歩くスミレの姿を見ながら、なにかを考え込んでいるように見えます。

 普段であれば従者服を見て型紙師としての血が騒いでいる、と思えるのですが、今は違った様子に見えます――


「スミレさん、その服についてですが」


 ――と思いましたが、クロさんは本当に従者服について考えていたのか、スミレに意を決したように話しかけます。


「私の仕事着になにか不備でもありましたでしょうか?」

「あ、いえ、そういう訳ではありません。素晴らしい意匠(デザイン)と思いますし、それを着こなせるスミレさんも同じように素晴らしい御方なのだと思います」

「ありがとうございます。ではなにかご質問でしょうか?」

「…………」


 クロさんは改めて先導して歩くスミレの姿を上から下まで見るという、場合によっては失礼に値する事をした後、言葉を続けました。


「……裏地から細部まで、全部確認したい……」

「クロさん?」


 なにを言っているのでしょうクロさんは。


「依頼であれば可能です。依頼料さえ頂ければこの場で脱ぐ事も可能です」

「スミレ!?」

「くっ、頼みたい……頼みたいけど、お金が無い……!」

「であれば申し訳ございませんが、脱ぐ事は出来ません。案内先に向かうまでの外部から観察する、ならば無料ですので、ご自由にどうぞ」

「ありがとうございます観察させて頂きます」

「えー……というか、お金さえ払えば脱ぐって、スミレ……さんはそれで良いんですか?」

「依頼ですから」

「そうではなく、羞恥心とか」

「? 依頼のためならば羞恥心など塵芥です」

「……そうですか」


 ……スミレはなんなんでしょうね、本当に。


「……というかクロさんに対しては、私の時と違って助平と言わないのは何故です」

「領主の場合は助平ではなく、変態なだけだ。アシュタルトもその方が良いか?」

「アッシュです。……助平と変態、か。どっちがマシなのでしょうね」


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