菫、スミレ(:白)
View.メアリー
「さて、これからどうしましょうか」
クロさんが気絶させた軍・騎士の皆さんをセーフティーゾーンに居る方々に任せた後、クロさんが私達の方を見て尋ねて来ます。
これからの行動指針をどうするのか。洗脳を解くだけならば、解けるのが私だけである以上は私達全員が固まって動いた方が良いでしょう。しかしグレイ君達との合流、ヴァイオレットの安否確認、あるいは元凶でもあるセルフ=ルミノスの討伐。そういった別目的を果たす必要がある以上、多くの目的を素早くこなすためには固まって動くのは得策とは言えません。しかし洗脳を解くのは道すがら行い、エメラルドが居れば回復の手段も増えますし、洗脳を解いた後は自力で戻ってもらったり、ロボに高速で運んで貰ったりすれば、戦力が増えた分は行動の幅が広がる、というのもあります。
下手に戦力を分散すればどの目的も中途半端に終わってしまう、という事もありうるでしょう。そういった意味でこれからどうするのかと、クロさんは問うているのでしょう。私達に行動を指針を聞いて案を出させようとしているのは、洗脳解除方法だったり、王族という身分が上だったりと、私達の方が行動を決める力が大きいと気を使っての事でしょうが……場合によってはクロさんは一人でも飛び出していきそうですね。「では俺は単独で動きます、二人を任せました!」とか言いそうです。
「王城の地下部分を見て、その後学園の様子を見に行きたいと思います」
「地下は扉やセルフ=ルミノスとか関連で分かりますが、学園、ですか」
「地下は仰る通りの事関連で、学園はその後があるなら行くべき、とでも言いましょうか」
先程私が感じた気味の悪さ、勘ですが、私の勘で行くべきと思うのがその二カ所です。一番の候補は王城地下の扉。クリア神が来ていると聞いた時に、ふとクリア神が眠っていた(戦っていた?)あの扉が気になったのです。そこを調査してなにかあればそこで対応をし、なにも無ければそれで良しとして、その後として学園に行く。ひとまずの行動目標はそれで良いのでは提案します。
「それに、ワープしたというのがセルフ=ルミノスの力の場合、長年封じられていただろう扉に力が集積していて道を作った、という可能性もありますし」
「……なるほど」
後はヴァイオレットが攫われた際、セルフ=ルミノスはいきなり現れ、消えたと聞きます。
それが空間歪曲石のような似た性質の魔力が溢れる龍脈同士をくっ付ける事で瞬間移動をしているようなものであれば、眠っていたであろうあの扉の中を起点とした魔法があって、そこから移動するような道を作った、とかあってもおかしくはありませんし。
「俺はメアリーさんの意見に賛成だけど、皆は?」
ヴァイオレットとグレイ君達。前者と後者共に自分の大切な相手と会える可能性が高い私の提案に、クロさんは賛成の意を示します。ヴァーミリオン君とアッシュ君は特に反対する事も無く、ロボとエメラルドも最初は探し人が居る可能性が高いであろう王城内を見て回りはする上、自身があまり王城内部の情報が無いため単独行動もする訳にはいかないと賛成をしました。
……皆さんは何処か、クロさんの様子を見て意見を決めた、という部分もあるようにも見えましたが、仮にそれが無くても意見は変わらなかっただろうと思い、気にしない事にします。
「では行きましょう。ここから王城の地下は――」
「突き当りまで行った後、右方向へ行きますが、その先の案内は必要でしょうか」
「――え?」
私が色々と見なければならないと思いながら地下へ向かおうとすると、声をかけられます。私達でもセーフティーゾーンに居る人達でも無い、第三者の女性の声。
人気配を感じずに聞こえて来たその声に皆さんが理解不能そうに一瞬止まった後、すぐに声の方を警戒しつつ身体ごと目を向けました。
――従者服?
そこに居たのは、実用性よりも装飾に力を入れているような従者服に身を包んだ、見た事の無い綺麗な菫色髪の女性でした。静かに佇み、そこに居るのに生気を感じず、けれど存在感は確かにある不思議な女性。
堕天使のような輪っかはありませんが、状況が状況だけにセルフ=ルミノスの関係者であると仮定し、私達はすぐに攻撃を出来る体勢へと移行します。
「突然のお声がけを失礼いたしました。私に交戦の意志はありません。ただ、皆様の御案内をするために派遣されました者です」
私達の態度に対し、表情を崩す事無く礼をする従者の女性。本人の言うように敵対するような殺気などは感じられはしませんが……
「(ヴァーミリオン君)」
「(……残念だが、記憶にない)」
しかし王族であるヴァーミリオン君も知らない女性である以上、警戒は怠れません。彼女が何者なのか、敵か、味方か、案内とは何処へなのか、誰から派遣されたのか……会話をするにも、そこをハッキリとさせない限りは彼女を制圧する事を前提に動く必要があるでしょう。
……ですが、なんでしょう。彼女からは強さも弱さも感じません。今まで会った事の無い不思議な感覚がある彼女は、一体……?
「皆様は信じられない御様子ですね。では可能な限り質問にお答えする……前に、必要ならば私の身体検査を行っても構いません。武器の類は一切持ってはおりませんし、服の内部の確認や着脱もして下さっても問題ありません。話す事に拘束が必要ならば拘束してくださって構いません。どうぞ」
彼女はそう言うと、抵抗の意志が無いと言うように両手をあげます。
……一体これはどういう状況なのでしょうか。
「……メアリーさん、一応チェックをお願いできますか?」
クロさんが調べるならば同性の方が良いと判断し、エメラルドでは咄嗟の反応が出来ず、ロボは……そういうのに不向きという事で私に頼んできます。私もそれが良いと思い、彼女に近付こうと……
「メアリーにそのような危険な事をさせる訳には行きません。ここは私がやり――」
「……アッシュ、お前」
「ヴァーミリオン、言っておくが、ここで“メアリーを諦めて他の女性に欲望のままに触ろうとするのか助平アッシュ”とか言ったら本当に殴るぞ」
「……まだ言っていないぞ?」
「その反応は言おうとしたな? よし、後で殴る」
「だから言っていない、早とちりをするな。気を付けろと言おうとしただけだ」
「……なら良いが」
「助平がお望みでしたら、応えますが。脱ぎましょうか?」
「応えなくて良いです、脱がなくて結構です」
「脱がせたい、と。承知いたしました」
「承知しないでください!」
と、そんな感じでアッシュ君がやる事になり、服は結局脱がす事無く、服の上からの身体検査をした後カーバンクルの力を使い、魔法陣が仕込んでないかなどもチェックし、全くない事も確認し危険性は無いと判断しました。
「それではまずは私の自己紹介をさせていただきます」
従者服の女性はスカートの端をつまみ、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げたお手本のようなカーテンシーで挨拶をします。お手本過ぎて教本になりそうなレベルです。
「私は皆様の案内を依頼され、お迎えに上がりましたスミレ、と申します」
彼女の名前にクロさんがピクリと反応をします。その名前が偶然の一致だとしても、反応せざるを得ない、といった様子です。
「皆様、というのは私達六人で良いのでしょうか。それとも別の人で、確認のために私達も名前を言った方が良いでしょうか?」
「皆様の名前は既に把握しております。また、ご案内いたしますは最大七名様ではありますが、今回は現在おられます六名様で問題ありません」
……もしかしなくてもその残りの一名はブラウン君ではないでしょうか。そう思いましたが、そこをハッキリさせると面倒な事が起きそうですし、誰かが聞く前にスミレは言葉を続けます。
「それでは問題が無ければ案内をしたいと思いますが、よろしいでしょうか」
「……何処に案内するの?」
「はい。皆様を案内いたしますは――」




