処置の指定先と攫われた理由(:菫)
View.ヴァイオレット
「ふ、ふふ、では私が知っている情報、ん、を、教えるとしよう」
「お、お願いします」
痛みに悶える声をあげるのをやめ、痛み、あるいは別のなにかを我慢するような表情のままコーラル王妃は自身の説明をし出した。
カーマインの脱走、セルフ=ルミノスとの邂逅、メアリーの謎やる気、洗脳されたクレールさんからの洗脳。此処に至るまでの経緯を説明した。
コーラル王妃は洗脳されはしたものの、完全な洗脳には至らなかった。あるいはそのように仕組まれたのかもしれないが、自身に命令する声と強制力に対し抗い続けた。レッド国王達を救おうとしたが上手くいかず、一時離脱後は一旦武器を回収し、他の洗脳された者達を対応しつつ逃げていると、気が付けば王城の地下に来ていた。そしてそこでモンスターの群れに襲われ、そして……
「……思えばモンスターを倒し、王城内ではなく地下へと進もうとしていた辺り、操られてはいたのかもしれないな」
話している内に自分の行動を整理し、疑問に思ったのか、コーラル王妃は自傷するように呟いた。
戦っている間は抗っているつもりであったそうなのだが、何故そうしたのかも今は疑問が残る。抗い続けて精神が摩耗して正常な判断が出来なかっただけかもしれないが、そこはコーラル王妃にとってあまり違いは無いのだろう。今は耳鳴りもなく意識はハッキリしているそうだが、むしろそれが今コーラル王妃を追い詰めてもいるようだ。
「そちらの状況も教えて貰えるか?」
「はい」
自傷気味のコーラル王妃は、すぐに気持ちを切り替えて表面だけでも毅然とした態度を振舞い私達の状況を聞いて来る。シキに箱舟が出現した事や、カーマインがシキに現れた事。闘技場下のドラゴンが復活した事など、私の知っている情報を共有する。
「なるほど、理解した。……が、そのA25という麗しき女性」
「なんでしょう」
「貴女は味方、という事でよいだろうか」
「敵ではない、という事でよろしいかと」
A25に関しては格好も含めて複雑そうではあったが、少々の思考後にひとまずは直ちに処理すべき問題では無いと判断したようである。
「さて、行くか」
「お身体は大丈夫なのでしょうか」
「先程の回復薬が効いたのか、不思議なほどに痛みが無い。……凄いな、これは。助かったよA25」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。今回はサービスではありますが、事が済み次第ご利用頂ける機会がありましたら、その際はよろしくお願いします」
「あ、ああ。……ところで私の親友が以前より成長しているのも含め、ぐったりしているが大丈夫なのか?」
「成長は私には分かりかねますが、マゼンタ様の中身は整え終えたので、もうしばらくすれば復活し、以前よりも動きが良いスーパーマゼンタ様になるかと」
「スーパー……ありがたいが、あれ以上活発になると、ある意味困るな……」
コーラル王妃はマゼンタさんの事をどう思っているのだろう。なんとなく言いたい事は分かってしまうのだが。
「また、貴女様の中身に関しましても料金を頂ければ快復処置は可能です。如何いたしましょう」
「い、いや、今は遠慮しよう。料金は払えないし、戦闘に支障はない程度には充分に動けるからな。気持ちだけ頂こう」
「戦闘とは関係無いのですが……いえ、またのご利用お待ちしております。では出発いたしますか。よいしょ」
「……親友を担ぐのはありがたいが、運び方はもう少しどうにかならないか?」
「戦闘対応をするための無料の運び方です。これ以上は別料金です」
「そ、そうか。では行こう」
A25はまだ復活していないマゼンタさんを、腕と身体の間に抱える。まるでいつでも放り出せるような荷物のような扱いである。言いたい事はあるが、病み上がりとも言えるコーラル王妃はそれ以上追及はしなかった。
……しかし、今のA25の会話には違和感があったな。戦闘とは関係無い処置とはなんだろうか。処置と言った際に腹部を見ていたが、コーラル王妃の腹部になにか問題があったのだろうか。その事がなにか別の事……マゼンタさんが攫われた状況と繋がる気がしたのだが、繋げるにはあと少しなにかが足りなかった。
「ふぐ、ぅ、う……!」
「あの、コーラル王妃、大丈夫でしょうか。体調に不安を覚えるようであれば、まだ休んでも……」
「だ、大丈夫だヴァイオレット。慣れれば平気だ。だ、だから今は触れようとしないでくれ。服でも正直少々危ういんだ」
「そ、そうですか」
……まぁA25のいう処置は、なにやら違う意味で危うそうな、コーラル王妃の顔を赤くしている欲求を処置する、という話だったかもしれない。もしくは考え過ぎなだけかもしれない。ともかく今は王城へ……コーラル王妃が来た方向へと進むとしよう。
「ところでコーラル様。今回の戦闘で破損したその衣装の補修は如何いたしましょう。今なら私と同じ正装を貴女様に合わせてすぐ作る事が出来ますが」
「い、いや、その服装は可愛らしいとは思うが、私の年齢や外見。そして王妃という立場にはあまり合わないと思うから遠慮しよう」
「大丈夫です。年齢や外見、立場など関係無く素晴らしいものに仕上げますし、貴女様には似合います。どうです? どうです? どうです?」
「さ、三回も勧めて来るな! 寄って来るな! そういう服はマゼンタかヴァイオレットの方が似合うからそちらに勧めてくれ!」
「ありがたいお言葉ですが、私はその系統の服を着る際には、クロ殿の手によって作られた服を初めに着たいので遠慮いたします」
「予想外の断られ方をした……!」
「そうですか。ではそのクロドノという御方が作られた二着目以降、あるいはその御方が当社の服を着せたいと思わせられるようにと願うとしましょう」
「そうしてくれ。もしくはクロ殿と熱くその服について語ってくれ」
「AIのため熱くはなりませんが、語れるならば語りましょう。そして私と当社の想いを思い切りぶつけます!」
「頼んだ」
「……今、恐ろしい矛盾を聞いた気がする」




