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もてあます(:菫)


View.ヴァイオレット



「この、まだ、まだ……!」

「一撃!」

「ぐふっ」

「二撃三撃!」

「ぐっ、はっ!?」

「そしてこれが四撃目!!」

「ぐふっぁ!!」

「A25ちゃん!?」

「A25、やりすぎだ!!」

「鎧がガワだけとはいえ、まだまだ油断は出来ません。というわけであといっ――」

「ストーップ!!」







「ご安心ください。確かに私はトドメと言わんばかりに胸部を殴りました。しかし彼女の胸部は非常にふくよかであるため、胸への一撃は大きく減衰されていますので見た目よりダメージは入っておりません」

「あははは、うん、そういう問題じゃないよ」

「また、ヴァイオレット様が作られた隙のお陰で余裕を持った一撃を与えています。内部に響く、制圧を重視した攻撃のため怪我はさせてませんよ」

「それ胸への減衰云々が意味無くなるくない?」

「そうですね」

「開き直った!?」

「……そうですね」

「あ、違う。今気づいたって感じだ!」


 A25に説教? をするマゼンタさんを横で見ながら、私はコーラル王妃の容態の確認と治療を行っていた。

 結果としてはA25の一撃……数撃がコーラル王妃の意識を刈り取る事には成功した。コーラル王妃は意識を持って聖槍の力で空中にいたため気絶後は落下したのだが、それをマゼンタさんが素早く槍で移動してキャッチし、一緒にゆっくりと落下した。A25は宙に浮く術がなくなったのでそのまま自由落下した。慌てて地属性魔法を使おうとしたが、不要と言われてそのまま見守っていたら、ふわりと舞い降りるように着地したため特にダメージはなさそうであった。

 ともかくコーラル王妃の様子を確認すると、A25が言ったようにA25が与えたような外傷は無かった。しかし怪我がない訳ではなく、此処に来るまでに負った怪我が見受けられた。

 そして緊急時という事で申し訳ないと思いつつも聖鎧(ほとんど壊れている)を外し、鎧の内側に着るにしては似合わない服も脱がせて治療に当たっている。治療魔法自体はマゼンタさんの方が得意ではあるのだが、マゼンタさんは箱舟に侵入するために空を飛んだり、A25の会社から脱出するために暴れたり、今の戦闘で魔法を使ったりと魔力を多く使っている。そのためマゼンタさんには魔力の回復に勤めて貰い、私が持つ薬草と治療魔法を使い治療を行っているのである。


「ほほう、ヴァイオレットちゃん、治療上手いね。アイボリー君に習ったかな?」

「今は習うというよりは倣う感じですがね。彼の腕前は私の知る限り王国一ですから、余裕がある時に教わりましたよ。重要な機会でしたし、今も活かせて良かったです」

「ほほう――アイタタタ! A25ちゃん、痛いって!」

「我慢されてください。マゼンタ様は身体の中身がまるで急成長されたかのようにやけに崩れています。今ほどの戦闘で負った怪我も含めて、ついでに治しておきますから」

「わ、分かったから! ちょっともう少し手心を――あいたー!!」


 また、マゼンタさんは魔力回復ついでにA25から治療……治療? も受けている。私には分からないが、中身が大分アンバランスになっているようである。そのため骨の矯正を受けているようだが、マゼンタさんが冗談ではなく痛いと言うとはどれだけ痛いのだろうと思うと少し怖い。


「あ、ありがたいけど、A25ちゃんは怪我してないの!? 聖槍の風とか、最後の無理めの突撃とかで骨とか筋繊維とかダメージをあいたたたたた!」


 最後の無理めの攻撃とは、私が発動してまだ残っていた地属性魔法を足でキャッチして動きを止めた後に、思い切り踏み場として蹴って殴りにいった攻撃である。確かに大分無茶な動きだったように見えた。


「ご安心ください。私の身体は既に治療用ナノマシンで修復済みです。そも、骨や筋繊維にダメージが入る事は私にはありませんので、ダメージは無いですよ」

「そうなの――あいたぁああ!!!」

「よっ、サービスの一撃! 時間外労働サービス! 無賃金ですが、そもそも今更の技術の攻撃!」

「攻撃って言った!?」


 ……回復ではなく修復。ダメージが入る事はないというのは、そもそも骨も筋繊維も無いから、というように聞こえる。……やはりよく分からないな、A25は。


「う、ぐ……ここ、は……」

「! コーラル王妃、気付かれましたか!」

コーラルちゃん(あいたたたたた)!?」


 マゼンタさんが相変わらずよく分からない治療(攻撃)を受けている中、治療をしていたコーラル王妃が目を覚まされた。自分の状況を理解しようとして、力が入らない事に気付き、私の様子と持ち物を見て治療中だと判断し、周囲を見て――


「夢か……親友がなんか私の愛する夫と逢引しやがった外見でブリッジを描き、妙なドレス服の女がそれを手伝っているなんて、妙な夢だ……」

「コーラルちゃん、眠らないでー! 現実、現実だから!」

「妙なドレスとは訂正を願います。私の服装は正装であり、素晴しく誇りある格好なのですから。ゴスロリドレスは可愛く格好良く美しいのです!」

「……ヴァイオレット。ここはシキか?」

「その反応について色々問い質したい所ですが、違います。そしてシキでないからといって、夢ではありません」

「……そうか。まぁあんな楽しい所は早々ないか」


 コーラル王妃、シキを気に入られているんだな。領主として嬉しい限りである。

 ……しかし逢引しやがった、か。当然ではあるが、親友と認めてはいても恨んではいるんだな。


「コーラル王妃、痛みなどはありませんか? 治療はしましたが、まだ応急手当なもので……」

「全体に痛みがあり、何処が悪いとは言えないが、そもそも私はどうして――ああ、そうか」


 コーラル王妃は身を起こそうとし、私が補助をしようとすると大丈夫と手で制する。その様子は先程までの朦朧とした様子とは違い、意識のハッキリとした自責の念に捕らわれている。


「私はお前達を敵と勘違いして攻撃した、か。……ハ、以前あれだけの醜態を晒したというのに、また私は……」

「コーラル王妃、それは」

「良いんだヴァイオレット。慰めも同情も不要だ。……大丈夫、この後悔も反省も後でし、責任も後でとる。今は、操られているレッド達を――痛ぅ!」

「大丈夫ですか!」

「あ、ああ。痛い、が、この程度で根をあげるような女が、王妃などやっていられるか……!」


 ……駄目だ、コーラル王妃は今精神的に追い詰められている。前を向こうとはしているが、このままでは……


「ヴァイオレット様、先程お渡しした回復薬はお持ちですか?」

「え、あ、ああ、持っているが」


 未だにマゼンタさんをよく分からない事にしているA25に言われ、私は先程持った回復役を懐から取り出す。懐に忍ばせられるサイズの、ガラスのようなケースに三十錠ほど入った薬。私の知っている粉やグリーンさんなどが作る薬液とも違う、カプセルとやらに入った変わった薬だ。なんでもA25の会社が開発していた飲むタイプの薬らしい。


「そちらのふたを開け、四錠取り出して彼女に服用させてください。水などは不要で、そのまま飲み込めます。そうすれば回復の効果が発揮され、治療されます」

「そ、そうか。一応確認するが、副作用などは大丈夫か? あと消費期限とか……」

「消費期限は存在せず、副作用は危険な物はありません」

「あるにはあるのか」

「副作用が無いと謳う事は商標法上出来ませんので。ともかく先程の攻撃の際に彼女の内部も調べましたが、服用さえすれば治療できるかと」

「分かった。……コーラル王妃、大丈夫ですか?」

「……よく分からんが、ヴァイオレットが信用している相手である以上、背に腹は代えられない。あとマゼンタも……なんか色々許しているようだし、大丈夫だろう」


 締め技を受けているとしか思えないマゼンタさんを見つつ、コーラル王妃は私から治療薬を受け取る。そして見た事の無い薬に一瞬躊躇った後、勢いよく飲み干した。


「ああ、ちなみにですが、鎮痛作用はありますが、利きだすまで尋常じゃない痛みが走りますが、耐えてくださいね」

「え。……だ、大丈夫だ。その程度、王妃として――」

「そしてさらにその後に、身体の新陳代謝の活性化により、性欲を持て余すかと思いますが、まぁ耐えてください」

「え」

「……A25。今のそれ、わざと服用した後に言っただろう」

「なんの事でしょう?」

「ま、待て、本当にこれは安全な薬で――ああ、痛い! 思ったよりも痛いぞこれ! あいたたたた!」

「コーラルちゃん、大丈夫あいたたたた!!」


 その後、しばらく二人の王族による痛覚に悶える声が響いたのであった。


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