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出来る事をやるだけ(:菫)


View.ヴァイオレット



 私はメアリーやクリームヒルトと比べれば才能は無い。十段階で私が七を取る所を、彼女達は平気で九や十を取る。最初は上回ったとしても、すぐに上をいかれる。成長の面でも彼女達は上を行く。まったくない訳ではなくとも、上は身近に必ず存在する。

 私はシキの皆のようになにかに夢中になれる強さは無い。彼らのように自分らしさを表現出来て、現実を前にして己を貫き通せるほどの強さを有してはいない。私は精神的未熟さから周囲の事が見えずに見捨てられるような、弱い女だ。


「――構えて(set)


 けれど私はシキに来て学んだ。

 負けているから、失敗したからといって今までの自分を否定しなくても良いという事。

 精神的未熟さも弱さも、時としては武器になるという事。


強化(A)相乗(a)加速(α)


 私は努力をしても七しか取れないような女だ。

 頭が固くて理解が出来ない事が多く、理解するまで時間がかかるような女である。

 未だにシキの皆々の言っている事はさっぱり意味が分からない事もあるし、A25の言っている事の半分以上は理解不能であるし、この箱舟なんて理解したくも無い。


「空間接続、狭間の境界、痛みの蓄積と変換、空間の怪我、創生創造」


 周囲の者達は自分の強さを活かした超常とも言える強さを持って理解不能を自分の物にする。

 それらは彼らが自分の好きと強さを捧げた事により得られる現象であり、私には出来ない事だ。

 才能は無く、理解は出来ない。そんな女が彼らのような領域に彼らと同じように達しようとするなど烏滸がましいにも程がある。

 今までの私は彼らが超常の事を行う時、見ているだけしか出来なかった。


「毒と薬、浄化、()と闇、事象を素直に受け入れ――よく見る」


 けれど今まで得た物全てを使ってならば、私自身が超常に至らずとも戦える。

 彼らを見て学んだ事は決して無駄ではない。自分が超常の立場と対等というような自惚れを得るのではなく、私は私なりに、この災害のような彼女達との戦いの場に立つ事が出来るほどには成長をしている。それを今証明してみせろ。ここで証明しなければ今までのような、守られるだけの立場になる。


「見ろ」


 私は彼らとも彼女らとも違う。

 私は彼らのようにも彼女らとのようにもなれない。

 私が必死で努力した結果を、彼らと彼女らは過程として過去に追いやる。


「受け入れろ」


 けれどそれを恥じる必要はない。

 凡人には凡人なりの戦い方がある。

 私が劣っているからと言って戦う事をやめればなにも出来なくなる。

 見るんだ。私にクロ殿のような優れた目はなくとも、見て理解しろ。

 見て受け入れろ。グレイのように与えられた物を余計な否定をせずにまずは受け入れろ。

 そして私なりの解釈をいれろ。私なりの知識を活かせ。私の視界は私だけのものだ。私にしか見えない。

 生兵法は大怪我の元とよく言われる。

 中途半端な知識は足元をすくわれる。

 例えば中途半端に強くなったせいで、本来なら逃げて生き残れたのに、立ち止まって戦って死ぬ事もあるだろう。

 けれど。


「――ああ、なるほど。これがそうか」


 私では干渉も侵入も出来ないが、オーキッドが見えていた物が見えた気がした。嵐のようなこの空間の中に、ここではない空間のズレを見えた。

 私では未だに薬も毒も反応を理解して一から作り出す事は出来ない。エメラルドやグリーンさんのように零から一は無理でも、五まで出来たモノを十には出来る。

 私は怪我の対処は消毒と応急処置程度しか出来ない。アイボリーのように身体の仕組みを理解して治す事は出来ないが、怪我の種類による対応策の知識は大いに増えている。

 ダメージの蓄積と変換。肉の効率的な解体方法。刃物の種類と相性。水の親和性。火と闇の相乗方法。美の成り立ち。菌の集合。


「――大きなものは必要ない」


 火の下級魔法を使い、闇属性魔法を紛れ込ませ、エメラルドから貰った薬を混ぜて、空気中に漂わせ、空間のズレへと誘い、指定の方向へと風を飛ばし、紛れ込ませた物を上空に移動させ、特定の部位を狙い、効率的に怪我から吸い込ませる。

 それ自体には大きな効果は無い。それだけで相手を倒す事も失神させる事も出来ない。


「ぐっ……!!?」


 出来るのは、一瞬だけ蓄積したダメージを自覚させる事だ。

 この戦いで僅かな傷を負ったコーラル王妃に対し、傷に空気中から薬を吸い込ませる。そして自己治癒能力を高めて、痛みを自覚させる。私がやったのはそれを促しただけだ。

 それだけすれば、後は私ではなく彼女達がやってくれる。


「マゼンタさん!」

「オッケー、ありがとヴァイオレットちゃん!」


 動きが鈍った所に、マゼンタさんの攻撃が入り、そして。


「A25」

「承知いたしました」


 急接近したA25の一撃により、コーラル王妃の動きが止まった。


備考 ヴァイオレットのやった事

①薬を炙って薬成分を空気中に漂わせる

②薬成分を空間の狭間と闇魔法と風魔法を利用して、嵐の戦闘場の指定のポイントまで移動(ワープ)

③コーラルの怪我の部分に成分が到着、入り込む

④コーラルの治癒が始まる。外部から無理に治療を行われたため、アドレナリンが僅かに切れる。

⑤無自覚だったダメージの蓄積を僅かに自覚、動きが鈍る


マゼンタ評「②がおかしくない? え、どうしてできるの?」

ヴァイオレットの返し「なんか出来ました」


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