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一矢報いる(:菫)


View.ヴァイオレット



 聖槍を中心に起こった爆発はまさに嵐のようであった。

 竜と称される風の災害である竜巻。荒れ狂うソレの前では、ヒトの身では耐え忍び過ぎ去るのを待つ事しか出来ないような、災害そのもの。そして災害をヒトの身で起こして操るとなれば、それは神話上の登場人物と思えるような行為である。


「ああ、耳鳴りが、少しだけ晴れた。だがまだ暗い」


 その神話上の行為をいとも簡単に行うのがコーラル王妃だ。今は精神が衰弱しているとはいえ、王妃は元々嵐のような戦闘を行う。実際に目の当たりにするのは初めてではあるが、まさに彼女を形容うちの一つ、嵐の黒騎士という異名通りである。


「ヴァイオレット様」

「分かっている」


 だがこちらも負けていられない。

 災害は耐え忍ぶ事が定石であり、逆らうのは愚者の行いだ。下手な事をすれば自然の暴力の前に命を奪われる。しかしこの場では賢者よりも愚者の方が、嵐の中で太陽の如き光明を見つける事が出来る。だから私は後ろに下がりそうな足を前に出し、魔法の構えを取った。


「【地上級(ガイア)魔法(メテオ)】!!」


 本来であれば大地の如き岩の塊を上空に出現させて相手に射出する魔法だ。私は地属性はある程度扱えるとはいえ、普段であれば上手くいかず、発動出来ても本来の攻撃性能も規模にも及ばない。現在私が出した魔法も本来と比べれば規模は落ちているが、私が今まで使った中では一番上手くいった地属性魔法であった。

 そしてそんな上手くいった魔法も、コーラル王妃が展開し続ける嵐の前ではすぐに脆く崩れ、渦の中に飲み込まれて周り続けるだろう。


「A25!」

「充分です」


 だがそれで良い。私がすべき事は、A25の力が戦える土台に立たせる事だ。私がコーラル王妃を止めるための直接的な力にならずとも良い。

 岩塊が嵐により砕けて風に舞う前に、気が付けば岩塊の上に移動していたA25。そして流れるように跳躍する前の溜として膝を折ると、そのまま、


「――――」


 無感情にコーラル王妃を見据えたまま跳躍した。相変わらず動きにくい服装の事など気にも留めず、身体の一部かのように嵐の中を飛んでいった。

 岩塊は嵐による崩壊の前に、A25の跳躍衝撃で砕け散り、一部が岩から魔力に変わり霧散していく。半分以上は瓦礫として暴風の中に舞っている。それらとマゼンタさんの槍を利用してA25は空で戦うだろう。私は空を飛べない以上は、地で三名の戦いを見ている事が主だ。だがいつ魔力に戻って消えるかも分からないので再び同じ魔法を唱える必要があるかもしれないし、二人の攻撃の合間を縫って私の攻撃が届く可能性もある。嵐の前であろうと戦う事をやめてはいけない。


――目で追うのがやっとだ。


 跳ぶ、飛ぶ、翔ぶ。

 聖槍の一撃は嵐の暴風を超える暴力として撒き散らされる。

 全てが意志を持つかのような、一本一本が上級魔法レベルの威力を持つ多数の槍は嵐を縫うように放たれては消えて、創出されて破壊をもたらしていく。

 放たれた拳の一撃は当たらなくても嵐をかき消す衝撃波を放って周囲を吹き飛ばす。

 聖鎧が砕けて一部身体が露出する。しかしなんの作用か、魔力が覆って再生していく。

 シスター服が破けてただでさえ大きな露出がさらに大胆になる。しかし破けた所は、夢魔族の魔力で編まれた特殊な服装へと変貌していく。

 ドレスの服に聖槍の一撃の余波で砕けた壁の破片がぶつかる。だが破ける事無く、皴だけが出来て傷付く事無く破片は再び嵐の中に舞う。

 聖槍が暴風を起こす中、聖槍とは別の魔力を使用し魔力の流れをかき乱し、魔法と物理の感覚を鈍らせる空間を作り出す。

 槍を音叉のように振るわせて、空間経由で直接相手の中へと攻撃を響かせる。

 明らかに外れている拳の一撃が、空間を伝播し魔力の障壁をすり抜けて攻撃を轟かせる。


――届きそうにないな。


 私がやっとの思いで出せるであろう高威力の魔法と攻撃を、通常攻撃の軽業(ジャブ)感覚で放たれる戦闘。目でやっと追えている部分以外にも私の理解に及ばぬ高度な駆け引きがあるであろう上空の戦いは、まさに遥か高みの戦いであった。私ではあの域に達する姿を想像する事は出来ない。

 私は地を這って輝かしい彼女らを見ているのがお似合いだ。かつて、私には届かない力と天賦を持ち、憧れてしまったメアリー達を見ていた時のように。悪役という言葉が似合う女に堕ちてしまったように、下から見あげるのがお似合いだ。


――けれど。


 けれど、届かないのは、報いる事が出来ないとは違う。


「――あの世界の私と彼女は別だが」


 どうやら私によく似た彼女は、彼女の世界では悪役令嬢との事だ。そしてその彼女は私の愛するヒトや、大切な友が同一人物同一時と思う程度には外見だけでなく中身もよく似ているらしい。成長をして行く彼女の世界の主人公(ヒロイン)達の邪魔をして来た、悪役に。


「少しだけ悪役のような事をやってみるか」


 そう呟いた時の私は、多分笑っていたであろう。


「マゼンタさん! A25!」


 私は届くかどうか分からない中、大声で名前を呼ぶ。

 分かりやすい反応は無かったが、聞こえていると思い言葉を続けた。


「エメラルド特製の毒薬を撒き散らすから、逃げるなら今の内に逃げてくれ! 私は撒いた後に逃げるぞ!」

「やめて!!?」


 そしてマゼンタさんだけが大いに反応した。


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