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もうあの二人だけで良いんじゃないかな(:菫)


View.ヴァイオレット



「――【小鬼悪魔(ゴブリン)】!」


 そこに居たのは、モンスターであるゴブリンの群れ。アップルグリーンさんのような知性を有した【小悪魔族(ゴブリン)】ではない、モンスターとしてのゴブリン。

 子供のような体躯に、子供のような短絡的な知識。それらを悪意という攻撃に全てを振るったモンスター。一匹はさほどの力ではないが、数で来られると油断をすればB級冒険者一団ですら致命傷を負うようなモンスターだ。

 そんなモンスターが、王城の地下、洞窟の内部のようにゴツゴツとした岩肌(恐らく地層)の通路に大量に居た。数は明かりが点在する通路での、奥に続いて見える範囲に蠢くようにいる。そんなゴブリンは私達を見ており、敵として攻撃を今にも仕掛けようとしている。


「ヴァイオレットちゃん、後ろから援護を!」

「分かった!」


 その光景を見た瞬間にマゼンタさんは槍を出現させ、地面に突き刺し複数出現させる。マゼンタさんの魔法に対して音叉のように共鳴し、副次効果をもたらす槍により、私の所へとこさせない壁の役割を果たさせるためだろう。そしてそのまま攻撃を中・遠距離から相手が減るまで攻撃し続けるか、一気に片付けるか、どちらかを――


「私にお任せください、お二方。私の実力をお見せいたします」

「え、A25!?」


 と思ったのだが、A25が先に駆けていった。素早い動きの身一つで群れの中に飛び込んだのである。

 先程言ったようにゴブリンは数の暴力で押してくると非常に厄介なモンスターだ。一撃でも喰らって怯めばさらに次の攻撃が来て、さらに次の攻撃を受けて鈍ればさらに次の攻撃が来る。あんな集団の中に入れば、暴力の波に押し潰される可能性も充分にある。


「これが現代のモンスターですか。なんとも矮小な」


 だがA25は暴力の波など歯牙にもかけなかった。

 拳で殴り、ゴブリンが持つ武器を奪って蹴り飛ばし、奪った武器を投擲し纏めて潰す。また当たりもしなさそうな拳を放つと、その拳の風圧で周囲のゴブリンは吹き飛び、近くにいたゴブリンは風圧でひしゃげた。

 また、A25が着ているのは戦闘に不向きな、外見重視のドレス服だ。レースもスカートもすぐに汚れてボロボロになりそうであり、私が身に纏って戦闘でもすればすぐに転びそうな服。だがそれを身体を操るかのように舞わせ、弾けて飛び散る肉片と血を浴びる事無く躱し、汚れる事も邪魔になるような事も無く戦い続ける。


「――ふむ、こんなものですか。久方ぶりの戦闘で調整が心配でしたが、こんなモノですね。良い準備運動になりました」


 そしてA25は一切の怪我、攻撃を受ける事も、返り血も浴びる事も無くゴブリンとの戦闘を終わらせた。

 言葉の余裕に嘘偽りは無く、余力を残しての戦闘。味方なら頼もしい戦闘力である。……それ故に、敵となれば恐ろしいし、この戦闘力があの自動人形にもあれば怖いとも思う。生きている彼女と比べるのもおかしくはあるし、管理する以上彼女の方が強くはあるのだろうが、それでもあの数が敵となれば怖い。


「では、行きましょうか、お二方」


 だが、今は味方である事を頼もしく思うとしよう。

 彼女が私達に牙を向かないように願いつつ、少し前の自分が彼女を騙して敵対するような選択肢を取らなくて良かったとも思いつつ、私は進むのであった。


「ふふふ、セルフ=ルミノス。私を騙した恨みはその身体で支払って貰いますよ……!」

「あははは、つまりセルフ=ルミノスにえっちぃ事をするんだね。長年地下に居て欲求不満?」

「違います。私にそういう欲求はありません」

「あと恨みと言ってたけど、感情は?」

「……ないですよ」

「そっかー」


 ……まぁ、その心配は後でするとしよう。

 なにやら自分でも感情の有無を不安になっていそうなA25を見つつ、私は走る部分は確保されているゴブリンの死骸の間を駆けていくのであった。







「【望郷聖(クリス)夜の鐘(ナイト)】!」


 フェンリルの群れが現れた。

 マゼンタさんの槍攻撃と目の力によって薙ぎ払われた。


「【ただの(クリス)正拳(ナイト)】!」


 オークの群れが現れた。

 A25のマゼンタさんを真似した攻撃でふっ飛ばされた。


「【音叉怨嗟(エンド)の共鳴(ロール)】!」

「【正拳(イン)連弾(ファイト)】!」


 開けた場所でワイバーンの群れが現れた。

 マゼンタさんの浮いた槍を足場にしつつ、二人が連携して気が付けば倒れていた。


「ふむ、しかしゴブリンと違い中々歯ごたえがある相手ですね。そしてやはり魔法とか言うのが厄介です」

「A25ちゃんは魔法は見た事ないの?」

「私が活動していた時代では確認されていませんね。あったとしても確立していません。……おっと、この肝は薬に使えそうですね」

「ああ、オークの睾丸やワイバーンの肝は精力剤によく使われるよ。服用してみる?」

「必要ありません。そんなもの無しに私は相手をハッスルさせますので」

「おおー、その技術を見せて貰いたい――いや、競い合いたいものだね!」

「料金さえ頂ければ、いつでも」

「あははは、そっか。じゃあ払えるようになったら頼むよ」

「ええ、そのためにもまずはセルフ=ルミノスをぶっ飛ばしましょう」

「だね!」


 …………うむ、私いらないんじゃないかな、これ。

 別に戦闘力として付いて行っている訳ではないので構わないのだが、こう……もうこの二人さえいればなにか来ても大丈夫なのではないか、と思うような強さである。凄い。


「というより、何故王城の地下にこのようなモンスターがたくさん居るのだろうか」


 ゴブリン、フェンリル、オークにワイバーン。どれも地下……洞窟内ではあまり見ないモンスターばかりだ。ゴブリンは別だが。


「うーん、セルフ=ルミノスがなんかやってるんじゃない? こう、いざとなったらこの地下空間のモンスターを解き放って混沌にする! 的な」

「そういった物か……?」


 あのセルフ=ルミノスの事なので、マゼンタさんの言うような愉快適当にやっていて気にしても仕様がない所な気もするが、やはり気になる事は気になる。


「それよりも早く移動しよう。此処に居るとワイバーンの血で臭いとかが嫌になるしね」

「そうですね。早くここを出てクロ殿達か誰かと合流をしないと」


 ワイバーンが襲ってきたのは開けた空間ではあるが、やはり血の臭いはする。先程の狭い通路でのゴブリンの死骸の山は酷い有様と臭いだったし、クロ殿と再会した時に血生臭い再会は出来れば遠慮したい。なので早く行くとしよう。ちなみに一応浄化作業を私達が通った後で、先程見た清掃機械と似た存在が掃除をするらしい。


「ヴァイオレット様、マゼンタ様。警戒を。モンスターとは比較にならない存在が近付いて来ています」


 と私達が向かおうとした先、私達が来た方向とは逆の道から誰かが来る事をA25は告げた。索敵能力が落ちているとはいえ、先程もモンスターの群れを察知し私達に教えていたA25は相当優れた察知能力を持っているようだ。

 警戒しつつ、示した方向を見ていると、現れたのは……


「……次は、ヒト型のモンスターが三体か……いつになったら、ここから脱出できるんだ……」


 現れたのは、全身に返り血で赤くなったであろう赤黒い鎧を身に纏い、大きな槍を持った人物であった。頭だけは露出していて、美しいであろう長い髪は、鎧と同じく血で汚れ、目は生気が抜けたように虚ろにこちらを見ている。

 彼女は――


「コーラルちゃん!?」


 現れたのは、コーラル王妃であった。


備考 A25の身体

特別製の機械の身体であり、いわば自動人形の完全上位互換の性能。

ただ、ヴァイオレットとマゼンタは機械やAIを今一つ理解しきれていないため、見た目が完全に生きた人間のA25を、生きた人間、あるいは人間に近しい生命体だと認識している。


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