最高傑作(:菫)
View.ヴァイオレット
自動人形とやらである彼らがなんの因果かに目を覚まさないように思って箱の中の人形を眺めていると、背後から声をかけられた。
「お待たせいたしました」
声のした方を向くと、女性が一人立っていた。
身長は私より高い程度であり、綺麗という評価が似合う何処か冷たさを感じる整った美貌。しかし相手を威圧するような印象も嫌味らしさも無く、彼女の居る空間が彼女のためにあると思わせるような周囲との親和性を持っている、不思議な空間を作り出していた。
――ええと、あの服は以前クロ殿が言っていた……ゴシック・アンド・ロリータ、だったか?
そして服装が黒を基調としたゴシック・アンド・ロリータ。ゴスロリという名前の服に似たドレスを着ている。あの服は少女が着る事が多いと聞いているが、背が高くて大人っぽい彼女が着ても不思議と“彼女”という一つ作品であるかのように馴染んでいる。この場にはそぐわない服装であるにも関わらず。激しい動きに適した服装という訳でもないのにも関わらず、最初に見た事の無い服装に驚いた後は、彼女はこの場に彼女として佇んでいるのである。……ただ。
「ええと、その声はA25ちゃん、で良いのかな?」
「はい、その通りでございますマゼンタ様。オールバッキングシステム、個体識別名A-25-37458。当社D部門管理統括人格です」
「管理統括って言うと、この自動人形達の一番上のヒトってイメージで大丈夫?」
「問題ありません。正式な事柄を説明いたしますと口頭で2時間はかかるので」
「あははは、そっかー。……そっかー……」
相変わらず理解出来るような出来ないようなA25の説明は良い。部門の管理統括、いわゆる第一騎士団長や軍団長部門長的な者としては格好が可愛らしくは無いかとか、これから戦いに行くのにその服で大丈夫なのかとか、身体が無いような話をしていたような気がするとか、その姿なら料理を食べられたのではないか、とかいう疑問は、まぁ、良い。
良いのだが……うむ、言っておこう。
「お待たせしてしまった分、戦力となりましょう。私はこの場所を離れると索敵能力が落ち、また外部の状況を知らないため道案内を――」
「あー、その前にA25。良いだろうか」
「なんでしょうかヴァイオレット様。私の外見に不備があれば多少なら直せます。胸をドカンと大きくする事も無レベルまで削る事も可能ですが、大きくする方は少々時間がかかります」
なんだその調整、羨ましいぞ。その調整が出来れば、私も邪魔だと思う事が昔は多々あったこの胸を調整しまくるのに。今はクロ殿のためにこの状態で良いが。
ではなく、問題は……
「その肩と腰と手に付けている物は……なんだ?」
彼女自身の格好は違和感なく周囲に馴染んでいる。だが、彼女が装備? している物は、明らかに周囲から浮いていた。
機械については詳しく分からないのでハッキリと言えないが、箱舟に侵入する際に見た大砲のような物が肩に。大砲を小型化し大量の砲口がある武器が腰に。剣と腰にある物を合体させたような武器が手にある。しかもどれもこれもが大きくて、マゼンタさんの全身サイズがそのままついている感がある。とても、バランスが悪い。……あと手の奴は剣、居るのだろうか。
「肩に装着していますのは着弾と同時に周囲に電撃と破壊をもたらすプラズマ砲、エネルギーライフル砲です。溜は必要ですがチャージ攻撃であらゆる敵を粉砕いたします。チャージ攻撃でエネルギーが切れやすいのが難点ですが。背中にありますはマルチロックを可能としたミサイル180連装爆撃機。数こそ正義です。そして手にしている物は私が暇だったので開発いたしました最高傑作! 着弾を起点とする連鎖爆発を起こす砲撃を放てるディストラクションソードバズーカ! なんと接近されてもそのまま攻撃出来る銃剣仕様です!」
「銃剣とやらは居る?」
「いりますよなにせ最強浪漫です」
「そっかー」
マゼンタさんがなにか言いたそうな目でドヤ顔A25を見ている。マゼンタさんの言いたい事はなんとなく分かる。なんというか、幼少期に考えた「これとこれを合わせれば凄い事が出来るのでは?」という物をそのままにした感じがある。実際はエネルギー効率とか、器用貧乏になりがちとか、長所を消し去り短所が残るとか色々問題がある。大抵そういう思い付きは「良い事が多いのに、今まで何故それをしなかったのか」を考えさせるきっかけになる物だが、A25は孤独であった故なのか、周囲の影響があまり無かったからなのか……ともかく、やってしまっているようだ。
「A25、肩のライフル砲は横が全く見えないし、背中の爆撃機は弾のせいか大きすぎてかなり重そうだ。あと手の奴はその銃剣のせいで色々取り回しが大変そうなうえ、重くなって攻撃が大変そうだが……大丈夫か?」
「ふ、大丈夫ですし、ここまでこれを装着し来たのです。私の手にかかれば動きに問題は――あれ、おかしい動きにくい! 何故、ここまでは普通に来れたのに――あ、そうですか、此処に来るまで収納状態で来たからですか! このままでは重さと大きさに振り回され――いえ、大丈夫。管理人格である私ならいけますよ、ファイトです私!」
私とマゼンタさんは、その様子を見て顔を合わせ、互いに無言で頷く。
そしてA25を見て、言葉を続けた。
『外せ』
A25は色々言ってきたが、最終的には外してくれた。
恐らくだが、動きにくいだけで持ち運びが出来る力はあるようなので、素手の方が強いから問題なさそうである。
◆
「ではここから外……詳細は語る事が出来ませんが、恐らく王城とやらの地下に続きます。何処に繋がっているかは私も把握していないので、申し訳ございません」
私達は白く見た事の無い材質で出来た空間を抜け、とある扉の前まで来ていた。どうやらここがここと王城の境目らしく、セルフ=ルミノスやもう一人の男性(恐らくカラスバ義兄様)はここから出入りをしているようである。
「あははは、大丈夫だよ。誰も分かっていないんだし、ここまで案内してくれただけでもありがたいよ」
「それに薬も貰ったからな。謝罪の必要はないぞ、A25」
「そう言って頂けるとありがたいです。……あの、せめてディストラクションソードバズーカだけでも……」
『駄目』
「……私の、最高傑作が……! 両腕に各一つで最強なのに……!」
せめて背中装備ならまだ良いのだが、一番取り回しが難しそうで鈍器として殴った方が良いのではと思う物に固執するA25。私より年上感があるのだが、どうもシキの領民を見ている時と同じ感覚になる彼女である。あと流石に両手装備はやめておけ。
「では、開けます。……なにがあっても良いように、ご注意ください。ここから先は私も管理出来ていない場所なので」
先程の自動人形達も管理出来ていなかったのでは? という言葉を私達は飲み込んだ。
「では開けます。――『認証:コード□□□』」
厳かな、白くて大きな扉が開かれる。良かった、ここは管理出来ていたようだという言葉を安堵と共に感じつつ、改めて私達は気合を入れる。
扉が開かれた先に見えた光景は――




