ヒトの人形(:菫)
View.ヴァイオレット
『とても簡単に言えば、ご依頼に応じた料金を支払う必要があるのですが、通貨はネットワーク上にある個人に紐付けられた資産を口座間でやり取りする必要があるのです。この時通貨が支払者と個人の関係性が認められない場合無断使用と見做されます。セルフ=ルミノスは彼自身に紐づけられた資産をネットワークにアクセスした上でお支払いになられたのですが、確認した所資金洗浄を行った痕跡があり、詳細を調べると全ての支払い通貨が消え、挙句には彼の口座が凍結したのです』
「なるほど、分からん」
一部は分かるのだが、説明を聞いても分からない。それがA25の話を聞いての感想であった。
『この感じ、詰めが甘かったのではなく、ワザと違和感を持って調べれば分かるようにし、挙句には分かった瞬間に凍結を私の目の前でしましたね……そんな口座がある訳ないだろと言わんばかりに……!』
「わー、A25ちゃん怒ってるー」
『怒ってません。感情など無しで、詐欺師に鉄槌を下すだけです。なにせ感情は無いので』
ともかく分かるのは、セルフ=ルミノスが騙されているという事に気付く事を想定した上でA25を騙した、という事だ。私とマゼンタさんを歓待するという依頼はその影響で破棄された。だからといって私達を追い出したり不法侵入で処罰する、という事は無いようである。むしろ報復措置を行うため、A25の手伝いをするように依頼をされ、丁重に値する部類の扱いをされる事となった。
「それで、私達はなにを手伝えば良い? 自動人形という戦闘能力がある軍……組織があるのなら、私達は不要とも思えるが」
私とマゼンタさんは食事を終えて片付けをした後、A25の案内で私達は私が監禁されていた部屋とは逆の方向へと向かっていた。
「それとも長い年月を経て戦力が不足している可能性があるから、私も戦力として欲しい、という感じかな?」
『戦力としては問題無いのです。なにせ壁と同じで自己修復機能と物理耐性が最高品質であり、素早さも時速120キロまで二秒で到達し、攻撃力は一撃が砲撃レベルです。起動すれば自動人形はセルフ=ルミノスなぞボッコボコに出来るのです』
「あははは、ボッコボコかー。それは頼もしい」
……もしかしなくても、自動人形とやらの数が数であれば、王国は危機に瀕するレベルではないのだろうか。ちょっと不安だが、気になる文言もあったな。
「で、起動すれば、というのはどういう事?」
『……その、申し上げにくいのですが』
「感情無いなら素直に言えるでしょう?」
『先程通貨の偽装を確認した後凍結と同時に自動人形との通信が切れてなにがどうなっているか分からない状況なんですよ本当にありがとうございます』
「なるほど」
なるほど。つまり私達にその確認をして欲しいという事か。しかし投げやりになっているA25は。やっぱり感情あるだろう。
「で、ここが倉庫か?」
『はい。暗号は私が入力いたします』
「出来るのか?」
『はい。端末を近付けて頂ければその程度―――――――。暗号が、書き換えられている……!』
「わー」
「そうか……」
『ふ、ふふふ、許さない。絶対に許しませんよセルフ=ルミノス……!』
「(ねぇヴァイオレットちゃん)」
「(恨みを溜め込んでいますね)」
と、そんな事はあったが、とりあえず暗号を解明し、中に入った私達。
中に入った所で私達が見た光景は……
――怖くなる光景だな。
人形、と聞いてはいたが、そこに居たのはヒトだった。
男、女。主に十代から二十代の年齢の外見が主だが、他の年齢層のヒトも多く並んでいる。誰も彼もが眠っていても分かるほどに整った外見をしている。彼らは250㎝程度の高さを区切りとした箱に眠った状態で入れられて並んで、高さ方面にも五体積まれている。また彼らは既製品のような質の良い従者服を身に纏っており、その揃えられた服装がより異様さを引き立たせている。
そしてなによりヒトだと思わせるのに、命の息吹を感じない。見た目は眠った状態のヒトであるにも関わらず、見渡す限り並んでいる彼らは“死んでいる”と思うような冷たさがあった。
……A25には悪いが、この光景は、怖い。
「……なるほど、これを相手するのは、難しそうだ。相性が悪いね」
マゼンタさんもこの光景を見て怖い……とは少しは思っているようだ。私よりこの人形の事を深く理解しているようであり、警戒をして敵とした時の対処法を思案しているように見える。相性が悪い、というのは精神関連が使えないという事だろうか。
「それでA25、彼らは動きそうか?」
『……駄目ですね。コードが書き換えられています。……一体どうやってこのような事……おのれセルフ=ルミノス。略してオノセフ』
「何故略した」
A25は色々とやったようだが(見えないなにかをしているようである)、彼らを起動させる事は出来ないようだ。
……複雑な気分だ。彼らが起きれば間違いなく戦力になるだろが、それで解決しても後の問題が起きそうだ。
「ではどうする? 申し訳ないが、起動に時間がかかるようならば私達も協力はしにくいのだが」
「だね。私達はもう行きたいし。それとも端末をここにおけば大丈夫な感じかな?」
『…………三分程度お待ちください。唯一私の専用にチューニングしてあるボディがこの場所とは他に存在します。そちらを起動し、運びます。それならばお二方をお手伝いできるかと。また、その間にここの自動人形を起動しないようにロックします』
三分か。その程度なら待つ事は出来そうだな。
相変わらず言っている事は分からないが、個で戦力となるのなら、先程抱いた不安も幾ばくかは大丈夫だろう。
しかし……
「ヒトのように見えるな、この自動人形とやらは」
「だね。命は感じないけど、かといって死んでいるようにも思えない……本当にヒトの人形、って感じ」
最初はロボのような外見とも思ったが、予想外の姿であった。
彼らはずっと眠り続けていたのだろうか。起きたらどのような動きをするのだろうかと、怖さはあるが、少々興味深くもある。だが今は起きていなくて良かった、と思う事にしよう。
――彼らが目を覚まさないように、祈るばかりだ。




