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なったものは仕様がない(:灰)


View.グレイ



「レイ君!」


 私を渾名で呼ぶ声の持ち主は、この数ヵ月でちゃん付けから君付けへと呼び方を変えたシアン様であった。場所と状況が状況だけに、警戒しつつ声の方を見る。

 そして視界の先に居たのは、シアン様と、神父様と、ヴァイスさんの三名。シキの教会関係者であり、会えるのは嬉しくともこの場にはあまり相応しくないとも言える。輪っかは浮いてはいないが先程の光景を思い出すと、申し訳ないが手放しで歓迎は出来ない。他の皆様もそうなのか、洗脳が突然解けた皆様も含めて僅かに警戒態勢をとる。


「神父様、スイ君、ストップ。歓迎されていない……というよりは、情報のすり合わせが必要みたい」


 そして私達の様子を見て、鋭いシアン様が駆け寄ろうとする足を止めて静止を促した。その鋭さと見慣れたシスター服を見るに本物で洗脳はされていないようだが……


「あ、あの、僕――わ、私達は怪しいものではありません。あ、あと、状況はよく分かりませんが、そちらのおじ様の治療をした方が良いのではないでしょうか!」


 と、皆様がどうすべきかと様子を見ている中、ヴァイスさんが知らない相手が居る事に対しやや怯え神父様の後ろに隠れながらも、まずは大変なヒトを助ける必要があるのでは、というように声をあげる。

 おじ様、というのは恐らくレッド様の事だろう。私達の中で一番重症であるし、もし洗脳が解けたのならば治療を優先すべきなのは尤もな事でもある。言った本人は発言から注目を浴び、更に隠れるように小さくなる。まるで見られるのが怖いかのようだ。……シキの時と印象が違うのは、シュバルツ様曰く外見にコンプレックスがあるから、だっただろうか。この状況だと少々区別がつきにくいが。


「スイ君、あの御方国王陛下だから、おじ様呼びはやめようね」

「え!? あ、な、なら、なおさらもっと早く治さないと駄目なのでは……!?」

「えっと、そうなんだけど……」

「……彼の言う通りだね。国王陛下。交戦する気が無いのなら、治療をしますがよろしいでしょうか」

「……そうだな、頼む。の前に安全な場所に移動しよう」

「了解です。……安全な場所があれば、ですがね」


 だがヴェール様を始めとしたこちらの皆様は、ヴァイス君の様子に少なくとも敵意は無いと判断したのか、警戒をやや緩めて安全の確保をする事にした。周囲に敵がいないかを見つつ、近くの部屋へと移動しようとする。


「ま、治療と安全の確認。情報の交換も含めて、話合おうじゃないか。……君達が味方かどうかも含めてね」


 だが、警戒を緩めても無くなった訳ではない。ヴェール様はいつでも敵とみなすという声色を混ぜつつ、シアン様達に警告をしていた。


「俺達が味方かどうか……どう説明すれば良いんだろうな。いわゆる洗脳か変身させられていないか、という事だよな」

「変身の方はこのシスター服を着こなせるのはシスター・シアンしかいない、では無理ですかね?」

「スイ君、それどういう意味?」

「確かに出来そうだが、それだとシアンしか本物の証明が出来ないからな」

「神父様?」


 ただなんとなくだが、彼らは偽物では無いし、洗脳もされていない。そう思った。







 情報を交換し、お互いに調べ合ってひとまず現れたシアン様達は偽物でも洗脳された状態でも無い事を確認した。

 どうやら彼女達はマゼンタ様と一緒にこの箱舟に来たらしい。王都近くまでなにか用事で来ていたのだろうか、と思ったのだが、どうやら違うようだ。


「既にシキの上空にこの箱舟が移動した……?」


 シキ近くにこの箱舟は移動したため、シキからこの箱舟に侵入をしたそうだ。どうやらトウメイ様が先に行き、その後に父上達もこの箱舟に来ているとか。シアン様達は来る予定は無かったのだが、マゼンタ様が単独で侵入しようとしたというのもあって、紆余曲折の末に四名で箱舟に来たそうだ。


「それはおかしい。私達は浮いた後に外を見たが、あの移動速度では、シキに真っ直ぐ向かったとしても一日以上はかかるだろう。そうだな、アプリコット」

「うむ、我とシャトルーズめで見た限りではな。だが浮かんでからそう時間も経っていないぞ……?」

「この箱舟、急に現れたらしいから、瞬間移動的な能力がついていたんじゃない?」

「ふむ、戦闘で外を見ていなかったから景色の流れを見逃したやもしれぬな。ところでシアンさん、シキの方は……」

「うん、大丈夫。被害も無いし、領主代理はソル君……イオちゃんのお兄さん夫婦に任せたし、シキの皆は慌てる事無く避難を開始していたからね」

「それなら良いのだが」


 シキの皆様が無事であり、特に被害が出ていないという事にホッとする。この箱舟は、見ただけでも地上で多大な影響を与えるという事を聞いた時不安ではあり、シキの上空に現れなにかあったら……という不安はとりあえず払拭された。完全に払拭はされていないが、それでもシアン様の言葉は安心をもたらした。


「……むしろ何故慌てないんだ……?」

「……シキの皆さんだと、シアンが私達を安心させるために嘘を言っているとかでないと思うのが怖いですね……」


 ただ、何故かシアン様の言葉にシャトルーズ様を始めとした数名の御方が複雑そうな表情をしていた。何故だろう。


「とにかく、セルフ=ルミノスの能力に関しては理解した。やはり実際に戦った御方だと、情報量が違うな」

「こっちも助かった。侵入したのは良いが、情報が足りなくて下手に手を出せなかったからな」

「それは構わないよ神父君。困った時はお互い様だ。……だが、すまないね。マゼンタ様がこちらの不注意で行方不明になるなど」

「それはそちらの責任ではない。悪いのはセルフ=ルミノスであり、実行犯だ」


 実行犯。ようはカラスバ様だが、神父様は明言は避けていた。カラスバ様の状況が分からない以上は、父上の弟君でもあるという事と、未だに一言も発さずにふさぎ込んでいる、義理の妹であるパールホワイト様の事もあってあまり悪くは言いたくないという事だろう。


「それよりも王妃様と旦那様である騎士団長の事もあります。情報共有と治療も終わりますし、動きましょう」

「それもそうだ。別々に動くか、纏めて動くかだが、作戦を――」


 神父様とヴェール様を始めとした作戦会議が始まる。

 情報共有の際に知ったのだが、どうやらコーラル様とクレール様も操られているらしい。なんでもメアリー様が会議室から出て行った後、実は操られていたクレール様(表情がいつも通りで全く気付かなかったらしい)に隙をつかれ、両陛下共々洗脳されたらしい。その対処をしなければならないし、他の皆様も心配だ。出来れば父上達とも合流したいし、やるべき事が多い。


「…………マゼンタちゃん」

「…………カラスバ」

「…………コーラル、マゼンタ」

「…………カラスバ兄様」

「…………お母様」


 ……この沈んだ表情をなさる皆様のためにも、私に出来る事をするとしよう。私は静かに決意をした。


「ところでシアン様。どのようにしてこの箱舟に乗り込んだのです? 結構高いですよね」

「マーちゃんって少しだけど飛べるし、槍を射出できるの知ってる?」

「はい、確かあの音叉のように使われる槍を、サキュバスパウワーで浮かしているんですよね」

「うん、それ。で、それで浮こうとするマーちゃんを、皆で止めようとしたらそのまま浮いて、全員で抱きしめながら空に浮いてここまで来たの」

「……凄いですね!」

「凄いよねー」

「待ってください、それでよく来れましたね!?」

「なるようになるものだよ、カイちゃん」

「です」

「えー……」


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