禁じられたワード(:淡黄)
View.クリームヒルト
「ええと、錬金魔法で調べる……うん、うん……なるほど、ううん? あ、ここをこうして……」
「…………」
「なるほどこの反応が……魔法陣を構築して、錬金魔法の反応を……グリフィ〇ドール……いや、ハッフ〇パフ……」
「あの、クリームヒルトさん。まだ終わりません? というか本当に調べてる?」
「ちゃんと調べているよ。生憎と私はメアリーちゃんみたいな才能はないから、キチンと念入りに調べているだけだよ。失敗したら大変だしね」
「それはそうだけど……いえ、大変な事だから、念入りにお願いします」
「うん、任せて! ……レイブン〇ロー……C〇-621、大豊〇娘……」
「ねぇ本当にキチンと調べてる!?」
「ネロ君、見つかるかもしれないから静かにね」
「あ、はい。ごめんなさいエクル先輩」
私達は一階に集合し、ネロ君とクレール君を近くの部屋の、そのまた部屋の中に居た。廊下からは入れないが、部屋からは入れるような小部屋、ようは魔法授業とかで使う道具が仕舞われている部屋である。
見つかったら逃げ場がないので出来れば長時間は滞在したくない場所ではあるが、先程の戦闘で誰かが寄って来るかもしれないという事と、洗脳を解く方法を探るための時間も必要という事で緊急避難で使っている。
そして解く方法というのが「メアリーちゃんが錬金魔法を使えば分かると言っていた」という情報のみなので、私が調べている訳である。のだが、解く方法を探している間はネロ君はクレール君を後ろから抱き着くような形で抑え込んでいるので、早く終わって欲しいようである。まぁ私も流石に本気では調べている。なにせ失敗したら大変だからね。
「しかし、私が操られているとはいえ負けるとは。いやはや、若い子の成長が羨ましい。自分の非才を嘆くばかりだ」
「不意打ち、王家に伝わる伝統の剣、なにより四対一。それらを含めてようやく隙を付けた、というのですから、非才という事は無いと思いますよ、クレールさん」
「ありがとうございます、バーガンティー殿下。ですがクリームヒルトちゃんに行った剣技は結構本気に近い動きでしたから、結構悔しくて。……拘束解いてもう一度やりません? よし解こう、頑張って解いてみるぞ、フン!」
「操られているんですよね?」
「まぁ、はい。なんか自分の言葉が全て自分の意志でない感覚はあります。でなければ私は王子のお妃様の肌を傷付けた者として、腕をお詫びとして切り落とします」
「やめてください。絶対にやめてくださいね?」
「…………」
「妹よ。お妃と言われて嬉しいかもしれないけど、集中してね?」
「してるよエクリュウ兄さん。うん、してるよ」
「うん、集中してね」
……してるとも。決してクレール君の言葉を否定しようと思ったけど、否定したら悲しまれるかもと思ったし、わざわざ否定する程のことでもないと思った事に気付いて動揺したとかない。私はずっと洗脳をとくために輪っかを調べている。それ以上でもそれ以下でもない!
「あ」
「え、クリームヒルトちゃん、今“あ”って言わなかった?」
「……大丈夫だよクレール君。キチンと洗脳を解いてあげるからね」
「待って、質問に答えて」
「大丈夫。……うん。……多分」
「クリームヒルトちゃん? ……ネロ君、後ろからなら――」
「クレール卿は知らない方が良かろうナノデス」
「どういう事……!?」
おお、クレール君が慌てている。けど表情は相変わらず真顔だ。
ちなみに本当に大丈夫と言えば大丈夫だ。洗脳を解いていたら、歪な輪っかの一部が欠けただけであり、それは洗脳が解ける過程だと構造から理解しているので、本当に大丈夫である。
「ところでクレール様。気になっていたのですが、メアリー様がこの洗脳の解き方を指示したと聞きます。何処でそのような事を知ったのです? そして知った時貴方はまた洗脳がされていなかったのですか?」
周囲の警戒を行っていたエクル兄さんが、先程から聞きたかったが我慢していたであろう事を聞く。エクル兄さんにとってメアリーちゃんは第一優先事項であるし、私達もそこは気になってはいたので、クレール君の答えを待つ。
「メアリー君と会ったのは――――、…………」
「どうしました?」
「先程からそうだけど、一部の言葉に制限がかかっている。場所と、とある名前が駄目なようだ」
場所と……名前? メアリーちゃんの名前は言えるけど、他の人の名前を言おうとして言えずにいる、という事だろうか。それとも別の名前に制限がかかっているのだろうか?
不思議に思いつつも、クレール君は言える言葉を探しながら説明を続けた。
「メアリー君と会った時に、私は既に洗脳されていた。だが頭上にこのような輪っかは浮かんでいなくてね。出会ってから、その場所で別の洗脳された者との戦闘が起こり、メアリー君が洗脳解除方法を指示して去るまで、ずっと洗脳されていたけど気付かれなかったんだ。……表情で必死に訴えようとしたんだけど、無理だったよ」
「表情……ですか」
「ああ。一定の表情変化を封じられていてね。だから逆に真顔で居ればなにか気付かれるかと思って、真顔にしたみたけど、気付かれなかったよ」
「そ、そうですか」
……普段から真顔で表情が読めないクレール君なので、いつも通りだと思われたのではないか。そんな色々と言いたい事はあるが、黙っていよう。クレール君をあまり知らないネロ君以外は、同じ感想を抱いていた。
「そしてメアリー君だが、なにやら憤った様子で“この事態を解決します!”といった感じに、ヴァーミリオン殿下とアッシュ君と一緒に何処かへ去っていったよ。洗脳はされていない」
「なるほど。……彼らが居るなら、一先ずは安心ですか」
エクル兄さんは今まで張り詰めていた表情を緩ませる。完全な安心は出来ないものの、洗脳されずに頼れる二人が傍に居る事は、固かった表情を崩す程度には安堵できる情報であった。
……でも憤っていた、か。メアリーちゃんは多分今日なにかしようとしていたから、それを台無しにされて怒っているんだろうな。……もしかしたらその怒りのお陰で、私が居ない所で思い切り活躍しており、放っておけばこの事態も解決するかもしれない。なら私達は、少しでも手助けになる様に洗脳された人達の洗脳を解除して回る事に注視した方が良いのではないか。そんな希望的観測をちょっと抱いてしまう。
――っと、ここは……ああ、そういう事か。
「うん、大体分かった。すぐに解くからもうちょっと待ってて」
「分かったんですね。私にも出来そうですか?」
「ティー君には難しい……少なくとも今は無理そうかな。本当錬金魔法の感覚に似ているから、錬金魔法を使えないなら無理だと思う」
「つまり直感的な物による解除方法ですか……了解です。私はこれからクリームヒルトさんを怪我を治したり、守ったりする方向で頑張りますね」
「あはは、ありがとう。さっきみたいに私の肌を遠慮なく触ったり、大事な所も遠慮なく見て良いからね!」
「あ、アレは不可抗力――いえ、遠慮なく頑張ります!」
「あはは、頑張るんだ。……えっち」
「……ぅ……!」
「可愛い妹、殿下を揶揄うのもそこまでにして」
「はーい」
ちなみに先程の事だが、戦闘終了後ティー君は三階から再び穴(最初私が廊下に出る前に開けた穴)から二階、戦闘で開けた穴から一階と降りて、私の様子を見て慌てて治療を施した。
その際私の服装であるパーティードレス(動きやすいようにちょっと改造済み)も斬れていたので、まぁ女としては隠すべき箇所もちょっと見られた。ティー君は慌てはしたが、治療と洗脳解除の事もあり、頑張って気にしないようにしつつ早めに治療を優先して頑張っていた。その様子は、今の照れるティー君のようにちょっと面白かったものである。
「よし、これで大丈夫かな」
面白いと思いつつ、私は輪っかを錬金魔法の応用で砕く事に成功した。輪っかは粉になり、空気に流れ、そしてなにも無かったように消えていく。
「クレール君、洗脳は解け――」
解けて、変な所はないか。と聞こうとした。しかしその言葉は、分かりやすいほどに表情を変えたクレール君の、叫ぶような声によって続く事は無かった。
「頼む、レッド国王とコーラル王妃を探してくれ! ――二人は、洗脳されている!」




