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捨てちまえそんな意地(:偽明茶)


View.フォーン



 私とブラウン君の戦いが始まった。

 眷属達が居るので闘技場の外に出て演習場の森林地区で戦った。私は空に飛べるので闘技場の開いた上部から先に待ち構えようとしていたのだが、観客席に素早く移動(ジャンプ)し、観客席から壁や突起物を利用し、天井部分に出た後そこから勢いよく飛び降りて、そのまま障害物無しに真っ直ぐ飛ぶ私と変わらぬ早さで森林地区へと辿り着いた。私の知るブラウン君より遥かに早く、無駄が無かった。


「その身体能力は元々ですか?」

「元をどっちの意味で言っているかは分からないけど、この状態じゃ無いとここまでは早く来れないよ」

「そうですか。では始めましょう」

「うん」


 その言葉で互いに攻撃が始まる。周囲にヒトが居ない事は確認済みなので、周囲の被害を気にしない攻撃だ。

 私の力は目の力以外も増大している。魔法も身体能力も最低値が今までの最高値になる程度には、力が増している。ハッキリ言うなら目の力無しでも先程のクロさん達には勝てていたという思いがあった。


「【焦熱】」


 ただ、私の力が跳ね上がったと同時に、ブラウン君の力も外れてしまった。

 目は相変わらず黒く、彼が振るう力は何処かシルバ君の力を彷彿とさせる。ただ、シルバ君と比べると濃度が違っていた。


「無窮」


 出所不明の魔力が増えたと同時に、ただでさえ凄まじかったブラウン君の剣技が鋭さと数が増していた。元々一本の刀でやっていたのかと思えるような斬撃を放っていたが、今度はそもそも刀を使ってこの斬撃を放っているのかと疑いたくなる。シャル君も空間を斬ったりと「それは本当に剣術なのです?」と疑いを持ちたくなる剣技であったが、それと違う方向性の剣技である。とにかく、数と威力が強い。この空間の全てを斬るのではと思うレベルである。

 これが全力かどうかは分からないが、傍から見れば私を問答無用で殺そうとしているように見える攻撃だ。


「【薬蜜(アガペー)】」


 だが、彼が私を殺そうとしていないのは分かっている。何故なら今の私はこの絶技と言える剣技と魔を彷彿とさせる魔力を使わなければ、勝てないような魔力と攻撃手段を持っているからだ。


「――生物創生と精神操作」

「よく分かりますね」


 会話をしつつ、互いの攻撃を緩めない。

 私がしたのは魔力で生命体……蜂を作り出し、それらを操作するというもの。そして蜂一匹一匹に地水火風光闇の魔力を持たせ、生命体が命を燃やす事で発揮する魔力の一時増大を誘発している、というもの。

 所詮は小さな体の蜂なので蓄えられる魔力もたかが知れているが、死を覚悟してリミッターを外しているので一匹の攻撃が無視できない威力へとなり、それを数を増やす事で致命へと変貌させる。ひとまずそれを万作っては攻撃させている。


「魔力で作っているのに、その作った蜂で命をかけた決死の攻撃をさせるって卑怯じゃない?」

「かもしれませんが、そのくらいしないと相手出来ませんからね、ブラウン君の卑怯な力は」

「そっか、僕の力は卑怯なんだね」

「私と一緒でね」

「……そっか。でもね、フォーンお姉ちゃん」

「なんですか、ブラウン君」

「これで僕を夢中にさせる事が出来るの? 魅力的なの?」

「まずは私を攻撃して昔に戻そうとする貴方を止めないと駄目ですからね。まずは全力をもって攻撃して、止めなくては、ね」

「フォーンお姉ちゃん」

「なんです」

「それって僕を傷付けて、弱った所を癒すというマッチポンプってやつじゃない?」

「錯覚です」

「そっかー」


 ……決してそんな事はない。ないとも。

 傷付いて弱った所を優しく癒してあげるという作戦があったような気がしないでも無いが、今その発言が出た時点で錯覚となった。多分。


「ともかく、マッチポンプにならないようにしないとね――【無間】」

「っと、【光最上級魔法(レイ)】」

「そんな魔法使えるんだね」

「使わないと負けますからね。だから使っておこう、という感じです」


 元々の私ではとても使えない魔法ではあるが、今の私なら使える魔法。あらゆる闇を祓い周囲を光に染めあげる光の最上級魔法の一つである。ただ問題があると言えば、いくら詠唱破棄の魔法だったとはいえ、それを使わないと闇に染め上げてしまいそうなビームを気軽に放つブラウン君の攻撃だ。本当、この攻撃の源泉はなんだと言うんだ。


――まぁ、どうでも良いですか。


 源泉がなんであれ、私は彼を癒したい。癒しを与えたい、癒してあげたい、望めば望むだけ、快楽という癒しを彼に与えて元の好きな姿に戻したい。

 今の彼も素敵だが、それ以上に素敵な彼を、今の私で愛したい。その想いさえあれば、今の彼の元がなんだって良いんだ。

 私は彼を、愛す。

 そのために、彼に抗って今の私で愛す。


――それが致命的におかしかったとしても良いんです。


 私のこの想いに欠陥がある事は理解できている。


「【等活】【大叫喚】【大焦熱】」

「……血の涙が増えていますが、大丈夫ですか? 無理をせずに倒れれば、私は貴方を愛せます」

「無理をしないとどうにもならない感じだからね。僕の好きなフォーンお姉ちゃんのために、この位はしないと」

「…………」


 彼が何故あの姿になったのか。私が何故この姿で居たいと思ってしまうのか。彼が好きなのは誰なのか。それらを総合すると私の想いは欠陥があり、破綻し、矛盾だらけだと理解しているのに、私は止められない。止める事が出来ない。


「フォーンお姉ちゃんこそ大丈夫? その蜂さん達、皆操っているんでしょう? 疲れるだろうし、大人しくしてくれれば魅力にやられちゃうんだけどな」

「残念ながら、それは無理ですね」

「どうして? やっぱり戻り方が分からないし、あのセルフ=ルミノスに操られているからだったりするの?」

「……それもありますが」

「ありますが?」


 戦いをしなくてもいいはずなのに戦う。その理由は勿論というか、言われて気付いたのだが、あのセルフ=ルミノスが私に攻撃されたり戻されそうだったら迎撃させるような暗示をかけられているというのもある。あるのだが……


「意地です」

「え?」


 ……今の私は、血の影響が強いとはいえ、最高に輝いている状態だ。

 魔法も、目の力も。そして身体や顔も。私が持つあらゆる最高値が今の私にはある。ある、のに。


「前の私の方が良いと言われるのが、今の私は腹立つのです!」


 前の状態をブラウン君が好いてくれているのは嬉しい。なにせそれらが過去のものとなり失われても、まだ術がかからないレベルで私を好いてくれている。

 忌み嫌っているだろうブラウン君の昏い力を使ってでも、そのせいで私に嫌われようとも、好きであった前の私に絶対戻したいという男の想いは、一人の女として嬉しく思う。

 けどそれはそれとして。この最高状態の私が、「なんか嫌だ」みたいな感じに否定されるのが! なんか! 腹立つ!


「とても腹立つので、せめて最高の私をぶつけて、そしてやられて記憶に残ってやりますよ!!!」

「フォーンお姉ちゃん、目的と手段がおかしくなってない!?」

「錯覚ではありません!」

「ないの!?」


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