予想外想定外
アースドラゴンは、ブラウンの一刀により斬首された。
本来胴と頭が切り離されれば生物は絶命するものだが、なにせ相手はドラゴン。脳が複数あるとか、心臓さえあればあとは身体だけでも暴れ回るとか、最悪頭が生えて来るとかいう事があってもおかしくはない。なにせ封印するしかないような生物なんだ。普段であれば「あり得ない」や「考え過ぎ」と思うような事も想定し、警戒し過ぎて損はあるまい。なので細心の注意を払いつつ、念のため追加攻撃をしておいた。もしこれが考え過ぎの場合、ドラゴンという貴重なモンスターの研究とか素材とかが破損される事になって研究所の方々が困るかもしれないが……そこは俺達の安全を考慮して頂くとしよう。
「しかし、死体でも圧力を感じるな……改めて思うが、よく倒せたものだ」
「ワタシ達の連携の賜物デスネ!」
「私はあまり役に立たなかったが……」
「ヴァイオレットクンが居なければ、毒による隙も出来ませんでシタシ、充分な活躍デスヨ。記念撮影イッテオキマス?」
「え、遠慮しよう」
そして現在は、追加攻撃とロボのよく分からない機能によって、アースドラゴンの生命活動は停止している。一応翼とか声帯とか重要な部分は念入りに攻撃したし、ここまで来て後から復活したら流石にどうしようもない。もっと念入りにしようとすると、道具とか魔力とかが先に尽きてしまう。
「ところでクロ。途中槍が背中にぶつかって消えたのはなんだったんだ?」
道具の確認と、ドラゴンで使える素材が無いかを見ながらエメラルドは俺に問う。俺は割と無理をした時もあったので、身体に不調が無いかを確認しながら答える。
「あのドラゴン、持ち前の魔力以外にも周辺の魔力を吸い込んで防御と攻撃に使っていたみたいだからな」
「その吸い込んでいた箇所があの場所で……魔力と一緒に吸い込まれた?」
「恐らくはな。通常だったら弾かれるのだろうけど、寝起きとビーム攻撃でより魔力を取り込もうとしていたのか、創造魔法で作った魔力の塊の槍と粉末の毒が吸い込まれたんだよ」
「なるほど? だが、その場所はどうやって知ったんだ? それにその仕組みをどうやって知った?」
「勘」
「具体的に」
「なんかそんな風に見えた。吸い込む位置は常に移動していたみたいだけど当たって良かったよ」
「了解」
エメラルドは「あ、これは聞いても無駄な奴だ」と思ったのか、持ち前の薬草(組み合わせで毒になる)の在庫確認と、簡潔な調合を行う。
……まぁ自分でもなんで分かったのか、具体的な事は分からない。正直防御が弱い箇所が見えたから攻撃をした、というのが正しいし。あの場所なら最低でも毒の効果が発揮すると、そんな風に見えたのだから仕様がない。
「……まぁ、ドラゴンの首を一刀両断したブラウンの方が凄いけどな」
「お前がやれと言ったんだろう。分かっていたのではないか?」
「いや、流石に斬るとは思わんよ。見ろよこの鱗。剥がれたやつの一枚だけど、めっちゃ固いぞ」
あのやり方なら防御力が弱くなったり、魔力が弱まるだろうとは思った。そこをブラウンなら大ダメージを与えるとは思ったのだが、まさか斬って頭を落とすとは予想外である。
この落ちた鱗でさえ尋常ではない固さを誇っているのに、この鱗が覆っている首を斬るなんて、ブラウンを過小評価していたようである。
「ちなみにこれを見ろ、クロ」
「なんだ? ……割れた鱗?」
「ブラウンが斬ったであろう鱗だ。斬った表面が鏡のようになっているぞ」
「……すげぇな」
「……ああ」
ビームの印象が強いブラウンで、戦闘力は魔境のシキでもトップクラスと認識しているが、もしやそれですら過小評価しているレベルで強いのではないか。そう思うと同時に、頼もしい限りとも思う俺達である。
「さて、そろそろ行こうか。ジッともしていられまい」
ブラウンの強さを再評価した所で、そろそろ闘技場から出ようと提案をする。身体の不調も皆は無いみたいだし、エメラルドの道具の準備も済んだようだし、そろそろ他の場所の確認もしにいかねば。
「このドラゴンの騒ぎと、ロボ達のビームを見てグレイ達が此処に来る、という事はないだろうか?」
「可能性はあるが、ここまで騒いだ戦闘をして誰も来ないし、もしかしたらドラゴンや箱舟を動かしたセルフ=ルミノス? が来るかもしれない」
「あー……確かに、味方だけでなく敵が来る可能性もあるのか。それだとここに居るより動いて情報を収集した方が良いな」
なにが正解なんて分からないので、本当はここでジッとしていた方が良いのかもしれない。だが、ブラウンとかロボとか、此処に留まると言えば単独でフォーンさんやルーシュ殿下を探しに行きそうだしな。出来れば戦力を分けるのは避けたい。
……まぁ個人的な心情として、俺も早くグレイ達を探したい、というのもある。だからそれっぽい事を言って自分の意見を押し通している所もあるのだが。
「よし、では行くか」
「ああ。……ちなみに良い薬の材料はあったのか?」
「ない……というよりは生憎とドラゴンなんて初めて見たからな。効果が分からん」
それもそうか。なんかドラゴンってゲームとかだと貴重な素材で、高い効果が期待される、みたいな印象があるが、よく調べてみないと分からんよな。なにか良い効果を持つ薬になるものを手に入れられるのではないかと期待したが、流石に今調べる時間は無いし、名残惜しいが行くとしよう。
「こんにちは」
そして俺がヴァイオレットさん達に声をかけ、行こうとしたその瞬間に、声が聞こえた。
「じゃ、戦おうか。楽しい楽しい戦いだ」
――歪な輪を浮かべた男が、そこに居た。




