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大人の力?


 相変わらずよく分からないけれど、なんか凄い! とかいう、「根本を理解せず破滅した愚か者」みたいな評価を将来的に受けそうな感想を抱きつつ、魔法砲と弾丸砲の雨を潜り抜けた。そもそもこの砲撃の雨自体が、ブラウンの負担を軽くするためにエメラルドを支えたり、何処から来るかとか指示を出したりで、怖くて抱き着いて来るヴァイオレットさんの事を堪能する余裕のないくらいの代物なんだ。多少分からない力に頼っても良いだろう。


「クロクン、ヴァイオレットクン、エメラルドクン。何処か着陸できそうな所はアリマスカ? 流石にそろそろ厳しいデス」


 とはいっても、そのよく分からない力も無限ではない。ロボもエネルギー切れ(ただしエネルギーの元はよく分からない)はあるし、ブラウンだって今は寝ずに頑張ってくれて寝る気配はないが、体力の限界はある。もちろんロボにもエネルギーだけでなく体力の限界だってある。出来れば二人の体力が余裕ある内に着陸、あるいは内部に侵入したい所だ。それに……


――二人共、まだ子供だ。


 ロボは十三歳、ブラウンは八歳。見た目は大人だが、成人年齢が十五のこの国でもまだ子供。前世日本だと小学校や中学校に通っている年齢。

 二人共好きな相手が箱舟の中に居るからと頑張っている。その気持ちを尊重したいし、好きな人のために頑張る、無理をするという事に年齢は関係無い。子供だからと除け者にするという事はしたくない。だからといって気にしないというのも違うだろう。

 大人としてそんな子供に頼っておいて今更とも思ったり、情けないと思わないでもないが、情けなくともこの二人、そしてエメラルドの精神に気も使わなければならない。俺もこの状況に一杯一杯ではあるものの、年長者としてその部分をしっかりせねばなるまい。冷静に状況を見極めねば。


「この位置だと……第一闘技場が近くにありましたよね、ヴァイオレットさん」

「ああ、あの場所なら上空からも周囲の状況を把握できるし、避難している生徒の集合場所となっているかもしれない。ただ」

「脱出をせがまれる可能性がありますね」

「アア、確カニ。……ドウシマス?」


 アゼリア学園の生徒は実地研修を頻繁に行ったりと現場慣れとまではいかなくても、ある程度の状況には対応出来る力はある。だが、説明も理屈も不明な状況で生徒が不安で怯えているというのは考えられる事だ。

 そしてこの箱舟に侵入出来る存在がいれば、脱出も出来ると思うだろう。それがロボのような説明も理屈も不明な存在でも変わらない。脱出したいと思う生徒達が群がり、それだけで混乱が起きる事も大いにある。

 そうなると出来れば生徒の姿が確認でき次第、混乱が起きないように別の場所にした方が良いかもしれないが、出来れば情報収集もしたい所だし……うん。


「その時は俺に任せろ」

「ナニヲスルンデス?」

「暴力」

「オッケーデス」


 大人としての力。混乱の最中には暴力がきく。うん、グレイ達が心配なのにそんな所に時間は割けないからな!


「じゃあいざとなったらビーム撃つねー」

「ワタシもイザトなればビームを撃チマス」

「頼む。ビームは脅し用で当てたら駄目だから、迫って来た奴らは俺に任せろ」

「いざとなれば私が毒の範囲攻撃で制圧を――」

「それはやめろ」

「それはやめたほうがいいよー」

「ソレハヤメテクダサイ」

「……分かったよ。お前らに任せた」

「ああ、任せろ――どうしました、ヴァイオレットさん?」

「……いや、うん。なにもない。なにも問題無い……!」


 どうしたのだろうか、ヴァイオレットさん。「なにかが間違っているような気がするが、この場では私が間違っているような気がする……いや、自分に自信を持ち、大人として冷静な判断を出来るようにならなくては!」みたいな表情をしている気がするが……この状況に怖くて上手く表情を作れないのかもな。そうに違いない。ヴァイオレットさんだってまだ十六歳だし、色々悩むという事だろう。


「というわけで、ロボ、今から進行方向を……えっと、今ヴァイオレットさんが示している向こうの方に行ってくれ」

「了解デス」


 こういう時に漫画とかであったような「11時の方向に!」とか言葉で言えたら良いのかもしれないが、急に言っても通じないかもしれないし、指をさした方が早いという物だ。……決してなにを基準に○○時の方向と言うのかを俺は分からない、という事ではない。そういう台詞が出て来てもなんとなく雰囲気で読んでいて、今咄嗟に出て来なかったという事はない。……誰に言い訳してるんだ。


――そういえば今って……


 ふと、今が何時かと気になった。

 俺の記憶が確かなら今日は学園の一学期末のパーティーの日で、今は夕方に差し掛かる時間だ。カーマイン曰くセルフ=ルミノスは「パーティー中に仕掛けた」との事だから、仮に昼過ぎに仕掛けたと仮定して……うん、たった数時間で王都からシキまで来たと言うのに、この箱舟はやけに進むのが遅い気がする。目的に近付いて来たから速度を急激に落とした、とかそういうのだろうか……?


「お二人共、アレデあってイマスカ?」

「ん、あ、ああ。そうだ。上空から確認してくれ」

「了解デス」


 ……この疑問は情報交換ついでに言うとしよう。それよりも砲弾の雨を抜けた事だし、箱舟の中がどうなっているかを確認しよう。


――外に被害は無いな。


 この場所から見る限り、校舎にも闘技場にも目立った損害はない。

 そして倒れている人も見当たらない。最悪混乱とセルフ=ルミノスが出来るという操心と変化のせいで負傷者、死傷者が居るかとも思ったが、見当たらない。それがこの場に居ないだけ、という事が無い事を祈りつつ、闘技場の中も確認する。

 中に人は――


「……居ないな」


 誰も人はいない。

 学期末のパーティーは学舎の方で行われているので、そこから逃げるとなると闘技場は遠いという事を考えればおかしくはない。おかしくはないのだが……


――なんか、嫌な予感がする。


 根拠はただの勘。具体的な説明は出来ない。

 だが「ここに誘われている」という感じがする。……考えすぎかもしれないが、大事を取ろう。


「ロボ、中じゃなくって近くに着陸してくれ」

「了解シマシタ」


 人も居ない事であるし、わざわざ中に入る事も無い。

 そう判断した俺はロボにそう言って、闘技場近くの開けた場所に降り立つように指示をだす。そして、


『GRRR』


 ドラゴンが、現れた。


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