It(:灰)
View.グレイ
私を産んだ女性の名前は知らない。
私の元である男性の名前は興味ない。
私にとっての父はクロ様で、母はヴァイオレット様だ。それだけ分かれば、私にとっての家族は充分である。私もそう思っているし、父上も母上もそう思っている。だから私の起源に関しては興味ないし、調べる気も無い。
「馬鹿な、これは■■魔法――!?」
そんな私と血の繋がった男性と女性についてはさして興味ないが、一つ感謝している事はある。それは私の魔法の適正だ。
母上もそうではあるのだが、私は地水火風光闇の基本六種全属性の適性がある。アプリコット様のように火と闇に適性が突出しているという事はなく、オールマイティに優れているそうだ。
私にとって魔法は、属性の関わりなく魔力からスムーズに魔法へと変換できる物なのが当たり前なのでピンとは来ないが、父上とアプリコット様が凄いというのだから凄いのだろう。これはどうやら遺伝によるものが大きかったりするそうなので、その点に関しては素直に感謝する。
――ああ、星が見えます。
そして今、もう一つ感謝している事が増えた。
今見えている光景が、もし私にしか見えないような物であるとしたのなら。
これを使えば、今この状況を打開する術が生まれる。
私の恋人と友人達を――
「守る事が、出来ます」
私の呟いた言葉に対し、ヴェール様、次いでスカイ様が反応を示した。
後ろでアプリコット様が叫んだのは分かったが、内容までは聞き取れなかった。
シャル様が私を止めようとした気がした。止めるよりも早く私は動く事が出来た。
「■■■■■■、■■■■■■■■」
ひとまず動く事出来るので、手近に居た女性の先輩の輪っかを掴んだ。
どうやらこれは頭と連動しているようなので、掴むと頭が引っ張られるようだ。なのでひとまず掴んで遠くに投げてみた。
「■■■、■■■」
投げた直後に私にスカイ様が殴りかかって来た。遅かったので拳を掴み、勢いを殺した所で投げ飛ばそうとしたが、ふと彼女のドレスは思い出の品という事を思い出した。思い出したが、気にせずに光魔法の一撃を腹部に喰らわせた。出来る限り肉体に後遺症は残させないようにはしたが、ドレスは破けたし、スカイ様の鍛えられた腹筋を持ってなお耐えきれずにうずくまる一撃であった。
「■■■。■■■■■■」
私が光魔法を叩きこんだ瞬間を狙って、後頭部を狙ったヴェール様の魔法が複数同時に放たれた。
視界では見えないが、充分に観えたので同威力同性能反性質の魔法をもって相殺をした。
その瞬間に掴んでいたスカイ様の手から妙な魔力が流れ込んだ気がしたが、逆に流入し返した。そこまでやって初めて、スカイ様は私を洗脳しようとしたのだと気付いたが、まぁ細かい事という物だろう。
「■■■■■■■■■」
そこでふと、スカイ様の輪に状態変化が見受けられたので、手を放して輪っかを掴む。
大体金剛石くらいの固さはあったが、砕けない事も無いので無理矢理握力で砕いた。ああ、これが洗脳を解くという奴か、なるほど。するとこの調子で砕いて行けば良いのか。
「■■■■■■」
そうと決まれば話は早い。
先程投げた女性の先輩は――ああ、まだ投げてから放物線を描きながら宙に舞っていて地面に辿り着いても居ないのか。じゃあ彼女は後にしよう、面倒だ。
なら次は、この場で一番強い。
「だぁれ?」
ヴェール様から片付けよう。そしてその後は……
――調子が良いですから、此処に居る皆さんだけではなく、他の皆さんの洗脳を解いていきましょう!
そう思ったが、口には出ず。
私の頭には、彼女達とは違う輪っかが浮かび始めたことに、気が付かなかった。
「グレイ!」
「グレイ君!」
「グレイ!」
そして、私の名前を呼ばれた気がした。
その名前は私にとって大事であり、私がクロ様に与えられた名前であり。
“それ”でも“アレ”でも“五番目”でもない呼ばれると嬉しい私の名前。
「やぁ、ジョン・ドウ、君は実に楽しそうだ」
だけど大好きな名前より、私はその先程聞こえた声と同じ声の男性の言葉の方に反応してしまい。
「うん、彼の切り札には、やはり君が一番だ」
そうして突如現れた男性に、私は胸の傷と同じ場所を、撃たれたのであった。




