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GAME(:灰)


View.グレイ



 ヴェール・カルヴィン子爵。

 シャル様の母にして、歴代最年少にて王国直属の魔道研究兼実働部門総括及び研究室所長を務めた実績を持つ女性。現在王国で大魔導士(アークウィザード)と言ったら、彼女の事を思い浮かべる者が大半であろう御方だ。

 その実力はアプリコット様が「今はまだ及ばないが、いつか彼女を超える」と評される程だ。最大火力に関しては既にアプリコット様の方が上であるとヴェール様は言ってはいたし、必ず実力を抜くという思いはただの願望に終わる事は無いと、私もアプリコット様も思っている。だが現段階では、向こうの方が上だという事は、プライドの高いアプリコット様も認めている事なのである。


「さて、若き肉体を持つ少年少女達。すまないが一緒の仲間になるか、行動不能にしなければならなくてね。この後もどんどんやる必要があるから、早めに降参してくれるとありがたい」


 そして今、そんなヴェール様が頭上に歪な形の輪を浮かべ、私達に杖を向けていた。


「母上、貴女がそのような魔法にやられるなど……!」


 武器を手にする事が出来なかったシャル様が、最悪素手でも対応できるように身構えながら叫ぶ。状況が状況であるが故に、もう逃げ続けてどうにか出来る物で無いと悟ったが故の戦闘態勢だろう。場合によってはシャル様はその身を犠牲にしてでも、この場を切り抜けるような動きをするかもしれない。それほどの相手が、目の前のヴェール様という事だろう。


「そう、やられてしまったんだよ、不思議な事にね」


 そしてヴェール様はシャル様の言葉に対し杖を向けるのをやめ、頭にかぶっているアプリコット様の帽子よりも大きな帽子を杖で小突きなら、不思議そうな表情をする。


――会話に、応じています……?


 理由は分からないが、ヴェール様は攻撃をして来ない。それと同時に、先程熱霧と光で動きを鈍らせたスカイ様達の方も、晴れた後にも関わらず攻撃をせずにこちらの様子を伺っている事に気付いた。

 理由は分からないが、その事に気付いたアプリコット様達も、なにが起きているのかと思いつつも態勢を整えた。


「普通洗脳というのは相手の意志を奪う事が最優先事項だ。催眠は暗示によるもので、洗脳は意志を奪い強制力を用いるからね」

「……ですが、母上はそのように話せています」

「もしくは、貴女が受けているのは洗脳ではなく、催眠という事であろうか。もしくは――」

「私が受けているのは、洗脳の方だ。そして別にかかったふりをしている訳でもないよ」


 アプリコット様の問いかけに、ヴェール様は先んじて回答をする。

 ……やはり普通に話せている。そして歪な輪が無ければ、普段のヴェール様だと言われてもおかしくは無いとすら思える。


「私は突然洗脳を受け、レジストも出来ずにご覧の有様だ。だけど私自身はこの洗脳をしたセルフ=ルミノスとやらに意見も出来るんだよ」

「意見、ですか?」

「ああ、私が優秀だからとか言って計画について話してきたから、その方法で良いのか、と意見出来たんだよ。しかも苦言を呈する内容であったのに、この通り未だに自由に喋れるし、一時的な戦闘中断を彼女達にも含めて行えている」

「……?」

「はは、不思議だろう、私も意味が分からないものだよ」


 ヴェール様はいつものような素敵な笑顔で、過去の事を思い出して笑う。だがその表情は何処か、作られたようにも思える。

 しかし、優秀だから話した……?

 それは少々疑問がある。優秀な相手にそのような事を話すなど、自らの首を絞めるようなものでは無いだろうか。それともセルフ=ルミノスとやらは、話した所で洗脳が解かれない、話せないと確信を得るほどに洗脳が自信があるという事だろうか?


「……その計画とやらは、話せますか?」

「話せるよ。だけど今は無理だ」

「何故?」

「私を倒さないと、話せない事になっている」


 ヴェール様はそう言うと、杖を再び構える。

 魔力は感じられない物の、相手が相手だけに油断は出来ないので、私達は全員が最大級の警戒態勢をとる。

 しかし、ヴェール様を倒さないと、セルフ=ルミノスの計画という重要な話を聞く事が出来ない? なんというか、それはまるで父上が仰っていたような――


「ゲームみたい、だろ?」


 そう、強い敵を倒せば、それに見合う武器や情報が手に入るというような、ゲームのような話のような……え?


「セルフ=ルミノスにとってはゲームなんだよ。わざと君達にチャンスを与えている」

「チャンスというのはつまり」

「ああ。“完璧で介入の余地がない歴史(ものがたり)なんて、わざわざ実体験をする意味が無いだろう? その場にいる皆がこれを逆転できるチャンスをばらまかないとね”……だそうだ」


 その言葉に、ヴェール様は明確に洗脳とは違う、彼女自身の感情であると理解できるような、苦々しい表情を浮かべた。……恐らく、先程言った苦言を呈した言葉に対し、その言葉で返されたのだろう。そしてそれを聞いてなお、自分がそのチャンス扱いにされている上に、こうしてこの場に私達の敵としている事が、耐えられないのだろうと理解した。……私にも、理解できてしまった。


「さて、皆。私達を倒すにはまず戦いである程度消耗させないといけない。すると私達の頭に浮かぶ輪っかが振動するから、それに合わせて一定以上の火力を当てればとりあえずの洗脳はとける。……さて、ここまでだな。これ以上は停止も出来ないようだ」


 その言葉と同時に、ヴェール様は杖に魔力を練り始めた。スカイ様達もそれぞれが構えに入って、戦闘がすぐに始まるのだと理解させられる。


「これから先は私は私の意志で止まれない。――早めに楽にさせてあげるよ」


 その言葉が、私達にとっての戦闘が始まるのだと予感させる言葉であり。


「さぁ行くぞ息子達! ――私の魔法で良い感じに服を割くから、その素晴らしい肉体美を見せつけてみろ!!」

「母上!?」


 次の言葉が、戦闘が始まった言葉であった。

 …………洗脳されると、言葉が支離滅裂になるのだろうか?


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― 新着の感想 ―
[一言] 何も変わって無いな、よしっ!
[一言] 洗脳されることでより欲望に忠実に!?
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