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躊躇いなど無い(:灰)


View.グレイ



「シャル、待ちなさい(んや)! 他のヒトにやられるくらいなら、私に殴られるべきですよ(やざ)!」

「せやせや、グレイたぁあいもしゃしゃりあないわい!」

「アプリコットさぁ、ほやともだんねぇおちょきんなさって観念せえとあかんけの!」

「フューシャ殿下、おじゃらへえっぷんえろようけんとざざめんとひとづまねぇとようふむんきゃいの!」


 なんか増えた。そしてなにを言っているかよく分からない。

 文法からして王国語なのは分かるのだが、追われているという状況で深く考えられないという事を踏まえても、分からなずぎて困惑する。辛うじて分かるのは「大人しくしろ!」とそれぞれが言っている事くらいだろうか。

 スカイ様に追われ、学園内を逃げ始めた私達ではあるのだが、逃げた先に居たのは恐らく先輩の生徒。一緒に逃げるべきか、説明する暇もないのでいっそ協力してスカイ様をどうにかした方が良いのかと悩んだが、頭に浮かんだ輪っかを見て操心状態だと私達は理解した。

 もしかしたらこのまま逃げると、私達と同じ立場の方々と合流できるのではなく敵が増えるのでは、と思い、ならば今の内に……とも思ったのだが、ご覧の通り複数名に追われている状況になった。


「どうしましょう、アプリコット様。叩けば治ると思いますか?」

「一応聞くが、何故そう思った?」

「メアリー様がこういった時はひとまず殴るべきだと仰っていたので……」

「……やるにしても、四人に追われている今はやめておこう」

「……ああ、やるとしたらあの叫んでいる四人の中に入る事になるからな。というよりメアリーはなにを言っているんだ……」


 駄目か。やるとしたら出来れば早めの方が良かったのだが。なにせ体力が少ないアプリコット様は息切れを始めているし、フューシャちゃんはパーティードレス姿で動き辛そうである。あとお胸もとても辛そうだ。

 一応向こうの方々も服装的に動き辛そうなのだが、服が破れたりスカートが捲れるのを一切躊躇われないので、ある意味では私達より動けている。それに操心状態故なのか、体力の限界とかそういうのを気にせずに動いているようにも見える。このままいけばジリ貧であろう。

 かといって対応する……叩くにしても、アプリコット様曰く「手元に妙な魔力を感じる」らしく、シャル様曰く「手に変な“気”を感じる」であり、フューシャちゃん曰く「全体的に地下の扉と同じ感じがする」との事なので、下手に素手で挑むのは良くない。


「シャル様、棒状の物ならば戦えますでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ。なにかあれば言ってくれ」


 なのでこの状況での一番は、シャル様が武器を持って全員を制圧する、という事だ。シャル様ならば相手に触れられる事なく、スカイ様以外なら制圧できるだろう。スカイ様だけになれば、先程は逃げてしまったが後は搦手でどうにかする。いや、してみせる。

 しかしそう簡単に棒状の物など見つからない……


「シャトルーズ、我の下着のワイヤーでは無理か?」

「!? い、いや、流石に小さすぎる――いや、変な意味ではないぞ!」

「それを言うと変な意味に聞こえるぞ。しかし無理か……」

「私めのベルトは無理でしょうか。ワイヤーとベルトを合わせれば……!」

「それなら……私のも……使って……一つの武器に……!」

「だからそういう問題ではない! というかこの状況でどうやって使えるようにする気だ!」

「ベルト外してもズボンは落ちませんし、すぐ外せます」

「危機的状況であるからな。服を破って胸の一つや二つ放り出してでも使えるようにする」

「わ……私も……胸の一つや二つ……!」

「ああ、ありがとう! だが別の方法を考えてくれ!」


 確かに逃げている状態では服の着脱は難しい。これは最終手段としよう。

 しかしそうなると他には――あ、アレは!


「シャル様、あそこに……!」

「あ、アレは……スカイ強化武器!」


 スカイ様強化武器。通称掃除用具入れである。

 スカイ様は掃除の事になるとヒトが変わり、箒などを手にするとシキの皆様方のようになる。そして掃除中は刀を持ったシャル様ですら敗北しそうなレベルで強くなる。原理はよく分からない。多分シキの皆様が趣味の事になると強くなるのと同じだとは思うが。


「アプリコット!」

「五秒稼ぐ!」

「充分だ!」


 そして最小限の会話で、私達はスカイ様達に対応をする態勢を取り、シャル様は掃除用具入れを開くために動く。

 私達は下手に刺激をせず、相手に触れないようにし、逃げには徹するがスカイ様達がシャル様にいかないようにする。


「【水中級魔法(ウォータープール)】!」

「【光初級同時(ライト)多発発動魔法(クインテット)】!」

「【業火劫炎(ハゼロ)】!」


 その共通認識のもと、私達は水と炎で高温の霧の壁を発生させ、光魔法で目を眩ませる。これだけでは倒せるとは思ってはいない。視界を奪わせ、躊躇わせれば良いのだ。それさえできれば良いだけであり、後はシャル様が――


「伏せろ!!」


 その声を聴いた時、私達全員は「何故?」という疑問が湧くよりも早く、可能な限り身を低く、地に伏した。そして次の瞬間私達の上を通ったのは、星空を内包した光の一閃。見た事が物であったが、それが高位の魔法である事は見ただけで理解できてしまった。


「あらー、外してしまったか。今のが当たったら楽だったのに」


 そして聞こえてくる女性の声。彼女の言う楽だった、というのは、彼女が楽を出来たという意味なのか、私達が楽になったのか、というのは分からない。

 ただ一つ、分かる事と言えば。


「まぁ、そこは愛息子の判断が優れていたと、母として喜ぶとしよう。――さぁ、次は避けられるかな?」


 状況はさらに、悪化したという事である。


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