普段と比べて(:灰)
View.グレイ
「さて、これからどうするかだが……」
「何処へ向かうか、だな」
私達の臨時パーティは、基本的にアプリコット様とシャル様が指揮を取る事になった。最初は立場が一番上なフューシャちゃんが指揮を取るべきではという話にはなったが、当人が「基本は現場慣れしている貴方達に任せる」という事で、指揮を執るお二人が意見が割れた際の決定権はフューシャちゃんが持つ、という形になったのである。なお、私は私がこういった場面で御三方より対応出来るとは思えないので、初めから辞退している。
「シャトルーズよ、ひとまず安全な場所を探そうか。あのセルフ=ルミノスとやらの話だと、特定の場所以外は輪っかのついた乗務員に攻撃をされるらしいぞ」
「安全な場所、か。……この国で一番安全のはずの王城は、今一緒に空を飛んでいるな」
「……まぁ、地下によく分からぬ空間が有るし、元々安全かと問われれば悩みどころではあったのだがな。だから空を飛んでいる訳であるし」
確かに王城は騎士や軍の方が多く詰められていて、安全対策もバッチリのはずなのだが、地下にトウメイ様が居たという扉が有ったり、コーラル王妃がメアリー様方と暴れたとか聞くし、絶対に安全かと問われれば悩みどころだ。個人的にはシキの方が安全という感覚がある。
「……パーティ……会場……」
そして安全な場所は何処かと悩んでいると、ふとフューシャちゃんが呟く。
「……そうですね。学園内で今、ヒトが多く集まっている場所でしょう。混乱の渦中でしょうし、まずはそこに行きましょうか」
「うん……ティー兄様や……クリームちゃんも……居るだろうし……」
私達が学園長室に向かう前にクリームヒルトちゃん達は檀上裏でてんやわんやしているのを見た覚えがある。あのタイミングからして会場に居たままの可能性が高い。
後は多少抜け出している方々も居るかもしれないが、空を飛んだ際に生徒や教師の皆様も多く集まっている場所でもある。情報収集も兼ねて目指すのも良いかもしれない。
「問題は混乱が起きていないか、だな」
「……うむ」
メアリー様かヴァーミリオン様が居られれば混乱もさほど起こらないかもしれないが……メアリー様達は別件で何処かへ行ったと聞くので、会場にいるかは怪しい所だ。ティー君やフォーン様、エクル先輩がいればどうにか収まるかもしれないが……
「よし、確認も兼ねて会場に向かおう。皆、それで良いか?」
シャル様の問いかけに、全員が頷く。そしてなにが起きても良いように、戦闘の準備を整えて……あ。
「ところで皆様方。武器などはお持ちで?」
『…………』
……私の問いに、皆様が黙られた。パーティー中でしたし、生徒会の職務中でしたものね。
「シャトルーズ、我は杖が無くともある程度魔法に影響はないが、大丈夫か?」
「そんな目で見るな。戦力は落ちるだろが、私とて無刀や格闘、魔法の心得はある」
「シャトルーズめが魔法を……?」
「シャル様が魔法を……?」
「シャル君が……魔法……?」
「フューシャ殿下まで!? 私は魔法も扱える、研究室所長の母上から教わっているからな!」
……そういえばシャル様は魔法も扱える、武魔両道をこなす御方であった。けど何故でしょう。失礼な話なのですが、こう……
「シャトルーズめは刀以外に興味がない、魔法など邪道! と言いそうな、刀に傾倒し過ぎて次元がおかしくなった脳筋男な感じがして、だな」
「アプリコット、貴様この事態が収まったら覚えておけ。そしてフューシャ殿下、グレイ。……私が刀馬鹿でない事を証明いたしますから、アプリコットに同意するような表情はなさらないでください」
……私とてそこまでは思っていない。そこまでは、ですが。
「では行きましょう。逃げ道を確保しつつ、会場に――」
「シャル?」
そしてシャル様が魔力を練り、魔法の準備もしていると声をかけられた。
急な事に警戒しつつ声のした方を全員が向く。
「スカイ様?」
そこに居たのは、以前のお見合いの際に着られていたドレスを身に纏っていたスカイ様であった。「正直動き辛い。似合わない」とは仰ってはいたが、スマルト様に褒められていた事を私が言うと、「……うん、そうだね」と何処か嬉しそうにしていたドレス。
その服装で私達の前に現れて――
「なんで見つかっちゃうかな」
――頭に、歪な形の輪を、浮かべていた。
「退避!」
そう言ったのはシャル様。
スカイ様が私達に攻撃を仕掛けて来たのと同じタイミングであった。先程まで誰が来ようと迎撃するつもりであったシャル様だが、相手がよく知る幼馴染であると攻撃は躊躇われるのか、あるいは相手もよく分からない内に攻撃をするのは良くないと判断したのか、逃げの一手を私達に指示した。
「――――フッ!」
そして私たちが逃げ出した直後、先程まで私達が居た場所にスカイ様が躊躇わずに攻撃を仕掛けた。
スカイ様の普段使う武器は騎士の剣だ。あと掃除道具。
そして今のスカイ様はどちらも持っておらず、素手でありドレス装備。ならばシャル様同様、普段と比べると戦闘面では弱体化しているはずではある。それにあの声通りならば、意志を奪われているので、繊細な戦闘は出来ないはずだが……
――壁が、砕けてます。
私達が見たのは、スカイ様が拳で学園の壁を粉々に砕かれた姿。アレが私達に直撃していれば、あの壁は私達の骨であった事だろう。
「気をつけろ、スカイはハッキリ言って素手が一番強い! そして繊細さを失えばあのように力が遺憾なく発揮される! 普段より強いと思え!」
「つ、つまり?」
「相手にするな、まず逃げろ!」
『りょ、了解!』
そして私達は、学園内をスカイ様に追われる事になった。




