クリア現象(:灰)
その子供は、人と比べると外れていた。
View.グレイ
私達は、追われていた。
ノワール学園長先生が体調不良と聞き、アプリコット様とフューシャちゃん、シャル様で挨拶の件をどうするかという話をするために学園長室に呼ばれた私達。何故そのような事を生徒会長や副会長ではなく私達なのかとは思いはしたが、生徒会メンバーで偶然その情報を聞いた時がこの四名だったので、そんなものだろうと納得して向かった。
そして生徒会室に来たのは良いのだが、中には誰もおらず、四人でどういう事かと思い、待つべきか誰かを呼びに行くべきかと話し合いをしていると、地面が揺れた。
シャル様が私達を物から庇ってくれたお陰で怪我はせず、混乱も最小限に抑えられた。
なにが起きたのかを確認するため、私達を学園長室においてシャル様が外に出た所で立ち止まったのを、相談も無しに勝手に決めるなと怒っていたアプリコット様が不思議に思いつつ近寄り、私達もそれに付いて行ったところで見えたのは……学園長室前の窓から見える、建物が王都を残して空を飛ぶ光景であった。
『それでは快適な空の旅をご堪能下さい。――楽しい生き証人になろうじゃないか』
私達が唖然としていると、突如響き渡る謎の声。
理解は及ばないが、私達が空の旅をしているというのだけは理解に乏しい私でも理解出来た。なにせ空を飛ぶ光景を実際に見ていたのだから。
「つまり……トウメイ様のように学園と王城が丸裸になったのです?」
「ふむ、なるほど。そのような考えがあるか」
「……アプリコット」
「言っておくがふざけてはいないぞシャトルーズ。我らは今まで見た事も経験もした事も無い事態に見舞われている。そのような状況である以上は、むしろそういった視点こそ大事なのだ」
「……そうだな。すまない、混乱していた」
そして今、私達は本当に空を飛んでいるのかを確認するため……というよりは見た物を否定したいがために、空を飛んでいる端に近い学園校舎内で話し合いをしていた。
私とフューシャちゃんは危険という事で校舎内に残っては居たため間近では見ていないが、間近で下を覗いていたアプリコット様とシャル様曰く、「聞こえて来た声の通りでそのまま行けば命と引き換えに脱出できるだろう」だそうだ。そして既に王都の城壁は越えており、このままいけばあと数分で王都から一番近い山に差し掛かるとの事である。
「それで、どうする。王城も飛び、学園と土地が合体している以上は多くの王族もこの飛行……飛行艦? に居るのではないか?」
「……そうだな。ローズ殿下は分からないが、ルーシュ殿下とスカーレット殿下はシキに旅立つのが遅れていれば王城で職務をしている可能性は充分にある。ですよね、フューシャ殿下」
「うん……私も……姉様達はハッキリとは……分からないけど……でも……お父様達は……いると思う……」
「ふむ、そうなると騎士候補としては王城に行きたいか、シャトルーズ?」
「……いや、最近は父上も母上も王城に行っている事が多い。王城は父上達にまずは任せるとして、この学園内で出来る事をするべきだな」
「ふむ、そうした方が良さそうであるな」
「ああ。……すまない、わざわざ言わせて」
「なんの事か分からぬな」
? 今のはどういう……ああ、そうか。アプリコット様はシャル様に落ち着かせるために、わざとこれからどうするかを言わせたのか。
もしシャル様が慌てて王城に行こう、と言ったり、声の男を見つけて情報を吐かせようと言ってすぐさま動こうとした場合は諫めるつもりであったが、想定よりも冷静だったので必要はなかった。
シャル様も空が飛んだりして混乱していたのだが、これからどうするかと聞かれて、まず自分がすべき事があるのだと落ち着きを取り戻せた。そして取り戻してくれたのはアプリコット様の言葉であり、自分のためにわざわざ言ってくれたのを理解したから感謝をした、という所だろう。一瞬で判断し、実行できるとは、流石はアプリコット様である!
「流石は私めの恋人です!」
「う、うむ。急に何故をそれを言ったか分からぬが、そう、グレイの恋人は素晴らしい女なのである!」
「はい!」
「うむ!」
「(シャトルーズ……君……これって……)」
「(下手に突っ込むとさらなる時間を喰うやつです)」
「(だよね……)」
「(むしろいつもの調子を保てている事に頼もしさを覚えましょう)」
おっといけない。私の恋人(重要)が素晴らしい事の確認も大切だが、今は私に出来る事をするべきだ。私に出来る事など微々たるものかもしれないが、微力でもなにか出来るのならばやらなくては。私だってアプリコット様の恋人なのですから、彼女に相応しい行動をしないと!
「個人的に言わせて貰うなら、私は単独で動いて、二人にはフューシャ殿下の身の安全を保障するために、護衛に付いて安全な場所に避難していて欲しいのだが。人質になる可能性が高いからな」
む、その提案は意気込んだばかりの気持ち的には却下したい所だが、確かにシャル様の言い分も正しくはある。相手がなにを目的としているかは分からないが、目的達成に人質が有効な場合、この中で一番価値があるのは王族であるフューシャちゃんだ。ならば私とアプリコット様で護衛に付いて警戒しつつ安全な場所を探し、最も身体能力が高いシャル様が単独で動いた方が最も動きやすくはある。私達に護衛を頼むのも、私達を信用しているからこそなのだろうが……
「安全な場所が分かれば苦労はせぬし、単独行動は危険である。それにこうして空を飛んでいる以上は、全員既に人質であろう」
「む……」
「それに、我らはシャトルーズめに出来ぬ事を出来、我らには出来ぬ事を貴殿には出来る。であるなら、状況がまだの内に戦力を分散させるのは得策では無かろうと思うが」
アプリコット様の言う通り単独行動は危険であるし、先程の地震の際もすぐに行動できる身体能力を持つシャル様が居ると私達としても助かる。そうすれば私達もシャル様を助ける事が出来るので、出来れば一緒に居て欲しい。もちろん無理とは言わないが……
「…………」
「それに、こういう危機的状況に王女を守るのは騎士らしい在り方、という物ではないか?」
「……このような状況でも相変わらずそのような口を利けるのだな」
「なにせ我! であるからな!」
「……ふ、そうだな。それでこそお前という奴であり、俺のライバルだ」
…………。
「おいグレイ、そういう目で見るな。今のは相手を認めただけで、決して良い女だから奪おう、とかいう意味ではないぞ。だから嫉妬を含むその目で見るな」
「そのような事は思っておりませんが」
「そ、そうか?」
別に奪われるとか、奪おうとする相手を敵として見るとかそんな事を思っていない。いないとも。
「まぁ良い。騎士としての生き方を出されたのでは、私もやらざるを得ない。そして、」
「騎士らしく行動するためには、解決しなくては意味がない。であろう?」
「そうだな。殿下の安全は当然だが、安全を守るためにもまずは大本を解決せねば意味ないからな。フューシャ殿下には申し訳ないですが……」
「大丈夫……私も……出来る事をするから……! グレイ君も……頑張ろう……!」
「はい、私め達にこの飛ぶ魔法がうつり、トウメイ様のように服を弾け飛んでは服を愛する父上が悲しみます。そうならないように頑張りましょう!」
「グレイ、それは少し違う……いや、違わないのであろうか……?」
「そこは……自信を……持とう……?」




