精神的な攻め(:白)
View.メアリー
そこに居たのは虚のような男。現れた、というより、居た、という表現が似合うような、現実味の無い男でした。
「……誰だ、お前は」
「今も言ったけど、セルフ=ルミノス。この国の王様である君が言った、信じられない存在さ」
男は私よりやや高い身長に、額には二つのツノが生えていて、まるで鬼のようです。しかし日本昔話のような恐ろしさはなく、どちらかというと漫画アニメに出て来るツノの生えた人間、と言った方がしっくりくるような男です。
そしてなによりも鬼のような恐ろしさを感じない理由は、頭上に浮かぶ天使のような輪っかでしょうか。天使と言っても丸形蛍光灯のような単純な形状ではなく、禍々しいという言葉が似合うような……いわゆる、堕天した存在の象徴のような輪っかです。
「信じられない事と君達は言うけれど、それは情報だけだからだろうね。こうして向き合って、キチンとお話をすれば信じられるかもしれないよ?」
堕天使のような輪っかを浮かべ、真面目ですが何処か巫山戯ているような存在。それがこの男……クリア神と戦ったとされるセルフ=ルミノスの名乗る、男への感想でした。
「下がって」
そのように言ったのは、この場で唯一私が知らない素手の護衛の方である女性。その静かですが通る声を聴いた私とヴァーミリオン君達は、彼女とセルフ=ルミノスの直線道を開けるように下がります。
「どのような目的でここに来たかは知らないが、許可なく入って良い場所ではない。許可を得てから出直せ」
そして女性はセルフ=ルミノスの前に、瞬間移動のような移動術を使って素早く立ち、警告をします。
「君を倒せば、許可は得られる?」
「警告はした」
そして始まる戦闘。この場に居る存在が最高権力者である以上は、最悪相手を殺してでも、最短時間で制圧にかかるでしょう。
護衛女性の動きは間違いなく一流でした。私が万全の状態で、武器を持ち対応したとしても無傷で済む事はまず無いような、拳法技術。並の相手ならば打たれた事すら気付かぬままに絶命しているような一撃が、牽制感覚で打たれます。一撃一撃が、息づく間もなく打たれます。
「よっと」
そして息づく間もなく打たれる、という表現を使わなければならない程、セルフ=ルミノスは護衛女性の一撃を嘘のように躱し続けます。先が見えているかのように、足を動かさずに上半身だけでその一撃を避け――
「さぁ、ちょっと変わってみようか」
下半身が動いたかと思うと、次の瞬間には護衛女性の顔の前に手をやり――
「っ、がっぁ!!?」
「アイリキュウ!」
コーラル王妃がアイリキュウと名を呼んだ女性は、顔が黒い虚ろのような物に飲まれました。それはすぐに晴れ、晴れた後の顔には怪我をした様子はありませんでしたが……
――頭上に、彼と同じ天使の輪!
アイリキュウさんの頭上には、セルフ=ルミノスと同じ輪っかが浮かび、同時に虚ろな目をするような変化をさせられていました。
洗脳か、操作か、あるいはグールのような別の生物へと変貌させたのか。どれかは分かりませんが、すぐに対応しなければならない事は分かります。
「さて、これで許可は得られたかな? じゃあ話の続きと行こう」
私達はすぐに彼女を救い、セルフ=ルミノスを無力化するために動こうと、彼の手を警戒しつつ動こうとして――
「ああ、その話の続きは監獄な中で話せ」
私達が動く前には、既にセルフ=ルミノスへの攻撃が終わっていました。
「……あれ? いつの、間に……?」
意識の合間を縫うように放たれた攻撃。それはレッド国王が携えていた装飾剣であり、攻撃力はほとんど無くとも、レッド国王の力量により相手に致命を与える一撃ともなりうる、抜身の投擲でした。
「殺しはしない。アイリキュウの治療と、目的を話して貰わなくてはいけないからな」
「こりゃ、まいった、ね……」
装飾剣を腹部に受けたセルフ=ルミノスは、逆流した血を口元から噴き出しながらそのまま仰向けに倒れます。そしてその次の瞬間にはクレールさんがアイリキュウさんがなにかしないように抑え込みます。こちらもいつ動いたかは分かりません。
――流石は、レッド国王陛下。
政治でも戦闘でもあらゆる逸話を持つ生きる伝説。冷静に対応し、誰よりも早く冷静に動くその姿はまさに強き王国が誇る国王と言えましょう。
「アッシュ、いますぐこの者を連行する人員を呼べ。単独犯でない可能性もあるから、メアリー・スーと共に警戒しつつ呼びに行くように」
「は――はい、承知いたしました」
「ヴァーミリオン、コイツが起き上がらないように魔力で封じ込めろ。話せるようにだけはしておけ」
「は、はい!」
レッド国王は冷静に指示を出しつつ、倒れたセルフ=ルミノスへと近付いていきます。近付く事にコーラル王妃は不安そうにしていましたが、止めても意味が無いと思ったのか、いつでも対応できるように警戒をしつつ後ろに付いて行きます。
「さて、話は出来るか、セルフ=ルミノスを名乗る男よ」
倒れたセルフ=ルミノスを見下ろしつつ、レッド国王は問いかけます。その御姿はヴァーミリオン君のお父さんなんだな、と思わせる迫力と、ヴァーミリオン君にはまだ出せない年月を伴った貫禄がありました。
「メアリー、私達も行きましょう」
「……そうですね」
彼らの様子は気になりますが、今は誰か呼ぶのを優先しなければなりません。まずは安全を確認するためにも、人員を――
「話は出来るよ。なにせこの通り僕は無傷だからね」
そして出ようとした先に見たのは、傷など負っていない、会議室の前に立つ、セルフ=ルミノスの姿でした。
――え、二人……!?
先程攻撃を受けたセルフ=ルミノスは、まだ血を流した状態でヴァーミリオン君に抑えられています。
ですが目の前に居るのは、無傷のセルフ=ルミノスで……?
「あー倒しちゃったか、その子。可哀想に。まさか国王によって攻撃を受けるなんてね」
無傷のセルフ=ルミノスは、まるで「やってしまったねー」と他人事のように言いつつ、右腕を真横にやり掲げ、指を鳴らします。
すると倒れていたセルフ=ルミノスの頭上に浮かんでいた輪っかにヒビが入り、そして姿が――姿、が……
「マダー宰相!?」
倒れたセルフ=ルミノスは、ローズ殿下の夫であり若き宰相、マダー・ランドルフへと姿を変えたのです。
「どう、素敵でしょ、僕の力。大抵の人はそうやって姿を変えられるんだ」
「貴様っ――!」
まるで子供がイタズラを成功させたかのように嗤うセルフ=ルミノス。その姿にレッド国王は攻撃をぶつけようとして――
「どうぞ。君が国民を殺す気があるのなら、僕を遠慮なく攻撃すれば良い」
その言葉に、攻撃する手を止めました。
「おや、止めるんだね。国のトップに君臨するというのならば、多少の犠牲は許容しなくてはいけないんじゃないかな。偽物でも“本物である可能性がある以上は、殺す”くらいでないと、僕を止められないかもしれないよ?」
「……黙れ」
「やだ。だって君、僕の話を遮るんだもの。折角君の疑いを確信に代えようとしてあげたというのにね」
そう言いながらセルフ=ルミノスは両腕を広げ、なにかを歓迎するようなポーズを取ります。そして再び指を鳴らします。
「まぁまずは、空、飛んでみようか」




