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手記


-ある王国民の手記-



 世界が壊れた。

 私が見た光景は、そうとしか言いようがない。


 今もこうして文字を書く事で気を落ち着かせようとしているが、書くだけ書いて誤字脱字をしても消して修正する余裕がないほどに混乱している。

 なんだあれは。

 あれはなんだ。

 私が常識だと思っていた物は非常識だったのか。

 非常識が常識だったのか。

 分からない。


 ただ分かるのは、遠くから眺めるだけの存在だった■■が、私の知らない動きをして何処かへ吹っ飛んだ事だ。

 それだけは分かる。

 いや、分かりたくない。


 もう一つ分かった事と言えば、ヒトは規格外の事を目の当たりにすると、混乱するより前になにも出来ずに規格外を見ているしか出来ない、という事か。

 それを理解する程に、あの時の私は無力で無価値だった。

 だが今振り返っても思う。

 あんなものに対して、私になにが出来るというのか。

 一度経験し、振り返った所で、あの時私はなにも出来なかったと言える。断言できる。


 歴史の勉強をして「何故これをしなかったのだろう、当時は分からないものなのか」と思うことがあったが、なるほど、当時のヒトはこんな感じだったのか。

 この出来事が歴史として記された時、将来の学ぶ子供達はどう思うのだろうか。

 対策もせず、抗う事もせず、対応もせず。

 ただこんな風に文字を書く事しか出来ない私を知ったら、馬鹿にするだろうか。

 もっとも、これが歴史と記されるような未来が来ればの話だが。


 ……いや、流石に言い過ぎだろうか。

 確かに規格外ではあったが、アレが世界を滅ぼすほどとは思えない。

 精々王国の一部を破壊するくらいでは無いだろうか。

 規模としてはその程度だ。恐らく。


 問題は、アレの中でなにか問題が起きれば、国の主要人物が揃っていなくなるので、大混乱は免れないという事か。

 その場合はウィスタリア公爵様あたりが王国を指導してくれるのだろうか。

 だとしたらまだ国に未来はあるが……


 ……いや、この考え自体が不敬か。

 文字も書いていて少し落ち着いて来た。

 私は将来の歴史を学ぶ子達に馬鹿にされないように、今出来る事を探して、やれる事をやろうと思う。

 それが無力な私に出来る、生きた証と言えよう。


 さぁ、行こう






-ある学園生の手記-



 怖い。

 僕はこれからどうなるのだろう。


 僕より年下の男の子が懸命に頑張っている。

 僕より華奢な女の子が解決策を模索している。

 それなのに僕は、なにもせずにただ安全な所でうずくまっていた。


 いや、そもそもここに安全な所なんて有るのだろうか。

 なにかが起きれば僕の命なんて、網にかかった魚のように為すすべなく失うというのに。


 こんな事なら、学園に来なければ良かった。

 死にたくない。

 死にたくない。

 こんな場所に、居たくない。

 こんな場所から早く脱出したい。


 けど無理だ。

 脱出するのは簡単だ。

 なにせアイツは僕たちが居なくなったところでどうでも良いはずだし、脱出の方法も教えてくれた。

 あれは嘘ではなく、本当に脱出できるのだろう。

 けど出来ない。

 してはいけない。

 誰もがその方法を、可能だが不可能だと恐れた。


 ああ、でも。

 価値のない僕は、証明できるのではないか。

 この一歩を踏み出す事で、本当に脱出できるのかを――






-ある研究員の手記-



 所長が行なっていた研究結果。

 そこから導き出される歴史。

 計算されるエネルギー。

 そして今回起きた事。


 これらを総合し、計算してみた。

 私が実行者として、最大効率で利用すればどうなるか。

 結果、王国どころかこの星の半分が破壊されると分かった。


 私にも出来るのだ。

 こんな事をやってのけた者なら、容易く出来るだろう。


 ただ分からない事と言えば、何故しないのか。

 やろうと思えばとっくに出来るはずなのに、まだその前兆すらない。


 とりあえず世界がまだ無事ならば。

 私は徹夜明けに見る朝日の美しさをもう一度拝むためにも、世界のために頑張ってみようと思う。


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