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恋人紹介_7(:黒)


View.ネロ



「へい、フューシャ殿下。気になるようであれば付き合いません?」

「え……」


 フューシャ殿下は何処に居るだろうと適当にうろついていると、丁度中庭にてクリームヒルトさんと一緒にいるのを見つけたので、早速話をした。

 クリームヒルトさんの前で言うのはどうかな、と思ったけど、俺が話しかける前に話していた内容が丁度「触れてもネロ君()にはなにも起こらなかった」という話題であったので、素直に言う事にしたのである。


「気付いてたの……!?」

「一応は。それで、もしかして触れて運が云々という奴を気にしているのなら、なにも無かった俺なら大丈夫かなーって思いまして。勿論フューシャ殿下がよろしければ、ですけど」

「ええと……良いの……上手くいかずに……ううん……上手くいっていたらと思っていたら……実は……遅れていただけで……まとめて……」


 フューシャ殿下の言いたい事はなんとなく分かる。

 仮に幸運、不運、触れた相手に災厄が降りかかるとして。俺には効かないのではなく、実は許容値が大きかっただけで蓄積はしているのではないかという事。本来なら十の災厄は許容オーバーですぐに降りかかるのに対し、百まで許容できる俺が許容オーバーしたら今までの比ではないくらいの災厄がふりかかり、俺を不幸にするのではないか。仔細は違うかもだが、おおよそそんな感じだろう。


「気にされなくて結構ですよ。フューシャ殿下がそれは気にされる事ではありませんので」

「ううん……駄目……! もしそれで……ネロ君が最悪命を……!」

「フューシャちゃん、それは――」

「クリームヒルトさん、先に言わせて貰っても良いですか?」

「……うん」


 フューシャ殿下が今までの事を思い出すように、未来を悲観し情緒が不安定になりかける。それをクリームヒルトさんは落ち着かせようとするが、俺が止める。俺の言葉か視線のどちらかに一時は納得してくれたのか、引き下がってくれた。

 俺はその事に身振りで感謝の意を示すと、少し屈んで目線をフューシャ殿下に合わせた。


「フューシャ殿下。……いえ、フューシャさん」

「な……に……?」

「仮にそれで俺が死んだら、それは俺が弱いだけの話なんで、気にされなくて良いんですよ?」

「……え?」


 俺の発言にフューシャ殿下、そしてクリームヒルトさんも少しだけだが困惑する表情になった。


「偶然が起き、俺が死んだ……うん、それはその偶然で死ぬ俺が弱かったんです。仮に天井が崩落して瓦礫に潰されても、マグマが噴き出て直撃しても、突然悪魔が復活して命を奪いに来たとしても、それで死んでしまう俺が弱いかったという話になるんです」

「なる……のかな……?」

「なるんですよ。俺が瓦礫を持ちあげられれば、マグマの熱さに耐えられれば、悪魔が命を刈り取っても“破ッ!”で取り戻す事が出来るほど強ければ問題無い話なんです」


 うむ、つまり筋肉が強さだ。大抵の事は筋肉があれば解決する。破ッ! も多分筋肉があれば出来るだろうし。クリ姉さんとか出来そうだ。


「まぁ俺にはそこまではまだ出来ませんけど、これでも結構強い男なんです。フューシャさんの心配された事は大抵“暴”と“力”で解決しましょう。あぁ、でも」

「でも……?」

「フューシャさんが悪意を持って“不幸を証明するためにお前を不幸にしてやる……!”という事ならば流石に無理ですが……しませんよね?」

「しない……!」

「よし、ならば問題無しです。気になる事が解決したので、後はフューシャさんの意志一つですよ! どうでしょう!」

「え……え……!?」


 俺が「良いのなら手を握ってください!」とでも言わんばかりに手を前に出すと、フューシャ殿下は戸惑いつつ俺と手を交互に見る。大分無理矢理に言っている自覚はあるが、まぁ大丈夫だろう。


「クリームちゃん……!」

「あはは、うん、そういう事だから頑張ってフューシャちゃん!」

「クリームちゃん……!?」


 そして「なにかおかしいよね」と視線で訴えたフューシャ殿下であったが、親友のクリームちゃんことクリームヒルトさんにはあっさりと肯定されてしまった。ナイスアシスト!


「ネロ君は……それで……良いの……?」

「はい?」

「私のせいで……嫌な事があっても……」

「あー……そうですね。別に構わないと言いますか、それに……」

「それに……?」


 このような可愛くて良い子な女性と触れ合えるというのなら、むしろ役得という物だ。……なんて事を言うのは良くないだろう。乙女ゲームの攻略対象(ヒーロー)達のようなイケメンが言うのならともかく、俺が言ってもお笑い芸人のネタのようになってしまいそうだ。というか気持ち悪いだろう。

 ……むしろ今の俺って相手が引っ込み思案な事を良い事に、無理に迫っている勘違い男っぽかったりしないよな? 大丈夫だよな? ……ふ、不安になって来た。


「俺にとってはこのような機会を得られて幸運なんですよ。フューシャさんのような綺麗な女性に近付ける機会を得られて幸運ですから、その運まで奪わないでくれると嬉しいです」


 あ。

 不安になっていたら、つい言ってしまった。しかも思っていた事より大分……だ、大丈夫だろうか。


「…………」

「…………」

「…………」


 流れる無言の間。近くに人は居ないが、遠くの喧騒がやけに大きく聞こえてくる。

 俺は歯の浮くような台詞の返答がまだない事に、今までにないくらい心臓が跳ねているのが分かる。……なにか声をかけた方が良いだろうか。


「……前ね」


 と、俺が声をかけるよりも早く、フューシャ殿下が口を開く。良かった、早まらなくて。


「クリームちゃんに……“私に賭けてみないか”と……言われた事があるの……」

「賭ける、ですか」

「うん……運とか平気だから……私に賭けて……一緒に遠くへ行ってみないか……って」

「あったね。私は強いから不運とかあっても大丈夫、って言ったっけ」

「俺と似たような事を言っていたんですね。それでどうなったんです?」

「クリームちゃんが……ティー兄様と……イチャついて……有耶無耶になった」

「……あはは、あったねぇ。イチャつきかは分からないけどねぇ」


 なにがあったのだろうか。気になる。クリームヒルトさんの反応からイチャつきだったのは確かっぽいが。


「あの時は……迷って踏み出せなかったけど……今回は……」


 フューシャ殿下はそう言うと、俺の差し出したままの手を恐る恐るだが取る。


「ええと……よろしく……お願いします……」


 顔はこちらを見ていないが、確実に一歩を踏み出したであろうフューシャ殿下を見て。俺は「こちらこそ」と言葉を返す。俺の身に不幸は起きず、幸運も起きなかったが、幸運をその手から受け取る事は出来た。

 そんな、放課後の出来事であった。


「うーん、本当になにも起きないね。……ラッキースケベイなくて、残念だったね、ネロ君!」


 ……若干残念なのは否定しないけど、あっても困るのでなくて良かったです。そんな本音の言葉は、何故か言えなかった俺である。


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― 新着の感想 ―
[一言] 恋人成立?
[一言] やはり暴力…暴力はすべてを解決する
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