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婚前の作戦?_6(:紺)


View.シアン



 恥ずかしいと思うから恥ずかしい。

 アンちゃんにそう言ったのは平静を保つための言葉であると同時に、本音でもある。私からすれば、シスター服も襦袢も、どちらも己がクリア神様に仕えるための心の在り方を示したものであり、恥ずべきものではない。

 だからといって全く恥ずかしくない訳ではない。

 例えば超可愛いシスター服にいれているスリットだが、そこから覗く足の肌部分を見られる分には構わないのだが、足を凝視されれば恥ずかしくもなる。もし捲れてお尻とか見られたら羞恥することだってある。

 それを出会ったばかりのコットちゃんは「恥ずかしいならば何故そのような深いスリットを……?」と疑問顔ではあった。その疑問に対しては何故かクロが「人に見られる事も大切だけど、自分らしく表現出来る格好がその格好で、そこから生じる不意に関しては別問題というだけだ」と答えたが(今から思うと服飾に携わるクロだから言えたのだろう。とはいえ、クロはスリットに関してはなにか思う所があるようである)、私にとってはその通りであり、シスター服にスリットを入れた私が可愛く、“らしい”と表現出来るのだ。つまり自分の格好に自信を持って堂々としている。


――だから、今も自信をもって接すれば大丈夫……!


 神父様おおらかな性格だ。

 鈍いとも言えるが、シキの皆の奇行も個性だといってのほほんとしているし、私の格好についても「シアンらしくと良いと思うぞ」と言ってくれた。

 そして彼は私と同じ、クリア教の神父様だ。ならばクリア教の教会関係者ならば必ず身に纏う、精神修行用のこの襦袢についても馴染み深い。

 これらの事を踏まえ、いつもの様子で接すればなにも問題は無いし、「修行中か、精が出るな」で片付く。私も褒められて良い事しかない。だから堂々としよう。


「奇遇ですね、神父様。私はアンちゃんと――」

「すすすすす、すまないシアン! 声が聞こえたから近付いただけで、シアンがそういった格好をしているとは思わなかったんだ!」


 そっちが動揺するのですか神父様――!?

 折角私はにこやかに、表向きは冷静に対応できたというのに、そちらが動揺していてはなんかこう……こう……! こっちまで恥ずかしくなるじゃないですか!


「神父様、お気を確かに。私は修行でよく使う格好なだけで、変な格好はしておりませんよ」

「それは、そうだが……!」

「動揺していてはまるで異性を不埒な目で見ているように思われてしまいます。冷静に、いつもの神父様として振舞われてください」

「…………」

「神父様、何故あらぬ方向を見るのです」

「……すまない、シアン。今の格好のシアンを視界に収めて、冷静でいられる俺ではない」


 それはどういう意味ですか神父様――!!

 え、なんだこれ。なんなんだこれ。スノー君はなにを言っているんだ。それではまるで私の格好が神父様の劣情を煽っているようでは無いだろうか。ははは、そんな事あるはずがない。だってあの神父様だ。鈍くてどんなにアピールをしても「これは鈍いという言葉で済ませて良いのだろうか」というレベルの鈍さを示していたスノー君で神父様だ。そんなスノー君で神父様な神父様が、今更この格好で動揺するはずがない! なにか理由があるはずだ!


「シアン様、シアン様」

「なにアンちゃん小声で」

「ある程度乾かしたとはいえ、襦袢は私達……シアン様の身体に張り付くような形になっているのです。それを結婚間近な恋人が身に纏い、劣情を抱かない男性はおられません」

「……そういうもの?」

「はい、むしろ全裸より興奮する事がある、という感じですらあります」


 そうか、ありますのか。

 ………………………………。


「ねぇアンちゃん。攻め時だと思う?」

「シアン様!?」


 神父様は現在私の格好を見て、目を逸らして恥ずかしがっている。

 正直言うと私はその様子を見てさらに恥ずかしいと思っている。なにせ大好きな異性に「お前は恥ずかしがられるような格好をしている」と言われているようなものなのだ。恥ずかしいと思うのも無理はない。

 だからその羞恥心を払拭するため、いっそのこと攻めるのが良いのではないかと思った。むしろ攻め時だ。そうに違いない。


「お、落ち着かれてくださいシアン様。仮に攻めて上手くいく……この場合の上手くいくがなにになるかは私では分かりかねますが……ともかく、婚前の今におけるメリットとデメリットはなにかを冷静にお考え下さい」

「メリットは新たな一面の私で攻める事により、神父様の心をより掴めるかもしれない」

「な、なるほど。デメリットはなんでしょう」

「私の羞恥心の閾が崩壊する」

「分かっているならやめましょう?」

「だけどアンちゃん、むしろこう考えたら良いんだよ。――むしろ壊せてお得なのだと。一歩進めるのだと」

「落ち着かれてくださいシアン様!」


 ええい止めるなアンちゃん。今ならいける気がするんだ。二度目になれば神父様のこのような反応は望めないかもしれないし、照れに照れている今攻める事が出来れば私も結婚前に一皮むけたり、一歩先へと進めるかもしれない! だったらこの作戦を実行するしかない!


「その一歩進んだ先が崖の可能性もあるのです! 折角積み重ねて登ったものから墜落しても良いのですか!?」

「うぐ」


 ……そう言われると、確かにそうかもしれない。

 だが、この時を逃すともう……だけどアンちゃんの言う通り……ええと、ああ、もう!


「そ、そもそもスノー君が何故照れるのですか! この修行用の服を着ている私を見て冷静でいられないなんて事、おかしいでしょう!」


 私がこんな風に動揺したり、羞恥を誤魔化すために行動を起こさなければやっていられないとなっているのも、彼が私の格好を見て恥ずかしがっているからだ。

 私が彼の前でこの格好するのは初めてでは無いし、他の教会関係者も着るこの格好を見て照れるなど、まるでこの格好をした女性なら誰でも良いようで言語道断である。

 だから私はそこを問い質さねばならない。そしていつもの神父様に戻って貰わねばならない!


「大好きな女の子がそんな格好をして平静を保ててたまるか!」


 ぐふっ。……きゅぅ。


「シアン様? ……シアン様ー!?」

「な、なにがあった? と、とりあえずそちらを見られるように俺の服を貸してから――」

「神父様、落ち着かれてください! 下着もなにも無い貴方様が服を貸せば全裸になりますよ!?」

「シアンのためなら平気だ!」

「シアン様のためにもおやめください!!」


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