婚前の作戦?_2(:紺)
View.シアン
――とはいえ、ダイエットをする……はなんか違うよね。
ウェディングドレスの試着を終え、自分の身体を見直しつつクロの所へ再び向かいながら考える。
自身の身体を触った限り、増えたのは筋肉と贅肉半々だ。ようは食べる量を見直すものであり、食事制限と運動をして痩せるのを目指す――という物とは違う気がする。
「ちなみにクロ、ダイエットには詳しい?」
だが、一応クロの意見……というか、クロの知識を聞いておこう。
クロの前世はローちゃんみたいな古代技術――科学とやらが発展した世界だったみたいだし、私の知らない知識があるかもしれない。私の状況にピッタリの方法とかあるかもだし、あっていなくても今後の参考になるかもしれないので、この機会は丁度良い。
「と言われても、いくつかダイエット方法は知っているけど、俺が試した訳ではないからな」
「まぁクロってダイエット必要なさそうだもんね……」
「……羨ましい」
なんだか若干恨み節が聞こえた気がするが……ともかく、クロの前世は知らないが、クロは体重が増えても筋肉が増えたという事になりそうである。あと性格的に一定以上の量は食べない節制の出来るタイプだろうし。
「じゃあイオちゃんとか……あるいはクーちゃんがやってたのとかない?」
「ヴァイオレットさんはまだ肉が足りないのにダイエットはさせられないというか、公爵家に居た頃の彼女のダイエットって、ようは食べない、だからな。おすすめは出来ん」
「あー……」
「…………」
イオちゃんは精神的に駄目で、一定以上食べたら吐いちゃう子だったからね……うん、彼女に聞く前にクロに聞いておいてよかった。
「あと、クリームヒルトは分からんが、白も太らないタイプ……というか、筋肉にいくタイプというのと、自分の体重を気にしないタイプだからダイエットはしてなかったな」
「そっかー。近くでやっているのを見てたらなにか参考になるかもと思ったんだけど」
「まぁ身近には居なかったけど、テレビ……専門知識のようで意外と脚色して世界に宣伝をして居る番組が色々言っているのを聞いたから、その知識は教えられるよ」
「それ、大丈夫なの?」
「……まぁ、うん、大丈夫」
「不安なんかい」
そんなクロの様子に不安を覚えつつも、食事の時間とか、食べる順番とか、チートデイなるものの話とかを聞いた。……私より隣で聞いていたアンちゃんの方が必死に効いていた気はするけど、ともかくこれを参考にし、意識して身体のキレを取り戻そうと思う。
ダイエットとまではいかないが、いつも以上に運動もしておこう。
……結婚式に堂々とした私で神父様の前に立ち、その後の事も含めキチンと身体は手入れをしておかないとね……!
「しかしシアン様。神父様は“ダイエットなんて無理にする事は無い。むしろ肉がついてくれた方が安心する!”……とか言いそうですが、大丈夫ですか」
「うん、わりと言いそうではあるし、それが理由でむしろ作る量を増やしてくるのが神父様な感じはある」
「では内緒でされるのでしょうか。……早朝トレーニングなどなら付き合えますよ?」
「うーん、でも食事に関係する以上は内緒という訳にもいかないし……」
出されたからにはキチンと好き嫌いせず残さず食べる。というのが教義的にも心情的にもする事ではある。
「まぁそこは適当に言って納得させるとして、トレーニングかぁ。……うん、今回は精神的緩みだし、アレしようかな」
「あれ、ですか」
「うん、よければアンちゃんもやる? ただ、普段からクロの屋敷で従者やってるアンちゃんには時間的に厳しいかもだけど」
「ええと……」
「俺は大丈夫ですよ。普段の業務に差支えが出ると困りますが、アンバーさんは優秀な御方ですしその程度は問題ありません」
「では、よろしくお願いします、シアン様。そのトレーニングに必要な物は有りますか?」
「大体はこっちで用意できるから、強いて言うなら……」
「言うならば?」
「……替えの下着か、下着無しでも問題無い服、かな」
「はい?」
◆
「シアン様、これはダイエットになるのですか!?」
「そもそも精神を鍛える――整えるものだから、ダイエットではないよ! まぁ少しはあるだろうけどね!」
「あるんですか、この滝行は!?」
それはもうあるとも。多分。そもそも此処に来るまでで充分な運動にはなる。
シキから走って三十分。舗装はされていないが、道とは呼べる山道を登った先にある滝。勢いはそこまで激しくないが、こうしてクリア教の関係者の修行として滝行をするには充分な場所である。スイ君が来たての頃は、他の修道士見習い(スパイで強制送還)も含めて神父様が修行をさせたものである。今でもスイ君は週一で通ってはいる場所だ。道から外れにあるのでヒト通りも無いし、モンスターも居ない。そんな穴場スポットである。
「ふぅ、暑くもなってきているし、この季節の滝行は気持ちいいね!」
「水はまだまだ冷たいですけどね!」
「冬場よりはマシだと思おう!」
「そうかもしれませんが……!」
そんな場所で私とアンちゃんは滝行をしている。先程の試着の後、善は急げということで早速お試しタイムなのである。
服装は濡れても良い服である襦袢……ようは滝行衣である。アンちゃんも教会関係者である私に倣い、下着の類は着ていない(襦袢そのものは下着には含まれない)。最初は恥ずかしそうにしていたが、もうここまで来ればやってやるとの事である。
「ちなみに最終的な修行の仕上げだと、クリア神様に倣い全裸でうたれるんだけど、そこまでやってみる?」
「申し訳ございません、流石に遠慮願いたいです!」
「おっけー」
まぁ他に誰も見ていないとはいえ、外で裸になるのは恥ずかしいのだろう。そりゃそうだと言える。……今のはクリア神様を貶めるものではない。決してない。
「今日はそろそろ終わろうか。慣れない内から長時間やってもよくないだろうし」
「も、申し訳ございません……」
「謝らなくて良いって。最初からできる方が珍しいんだから」
アンちゃんはなにかと出来るヒトだが、流石に慣れない事なのか、これ以上は厳しそうに見えたので今日はもう終える事にした。
明日以降も続けられるかは、彼女の意思次第であろう。無理そうなら今後は私一人でやるし、無理にでもやろうとしていたら止めるとしよう。そう思いつつ、私達は滝に打たれるのをやめ、水から上がる。
「ふぅうぅぅう……服があるからこそ寒いですね」
「そうだろうね。風邪ひかない内に身体を拭いて早めに着替えようか」
「はい……しかし、シアン様は平気そうですね。なにかコツがあるのでしょうか」
「慣れだよ慣れ。経験値が違うって」
「経験値……そうですね。経験を積むしかないですのに、安易なコツに走る所でした。申し訳ございません」
「気にしなくて良いよ。私も似たような――あれ?」
私も最初の頃は似たような事を言っていたなと、懐かしく思っているとふと違和感を覚える。その違和感は私達に対するものではなく、別の物で……あれ?
「あれ、私達の服……ここに置いていなかったっけ?」
「はい、私の記憶でもここであったと思いますが」
「……ないよね」
「……ないですね」
「…………」
「…………」
『あれ?』




