周囲と自分の恋_8(:灰)
View.グレイ
要するに私は怖くなった。
今まで身近な存在過ぎて意識をしていなかった彼女を、女性として意識してしまった事に気付いたから。
そしてそれを“男”として彼女が好きという事ならば、前領主と同じだという自制で蓋をしようとした。
蓋をしなければ、あふれてしまうから。
未熟な私が、この気持ちを気付いてしまえば、周囲が見えなくなるほど抑えきれなくなる事が分かったから、抑えようとした。分かってはいても気付かぬ内ならば、アプリコット様に迷惑が掛からないだろうと、蓋をしようとしたんだ。
私がアプリコット様が好きという感情を。
女性として好きになってしまった感情を。
羨望から恋へと変わってしまった感情を。
今まで知らなかった感情を理解するのが、怖かったのだ。
「アプリコット様、大好きです!」
しかし怖いという感情はもう過ぎ去り過去だ。
なにせもう分かり、気付き、理解したのだ。
私はアプリコット様を女性として好き、OK。
ならば後はこの溢れんばかりの感情を伝えるだけです!
結婚や夫婦にこだわったが、そもそもお付き合いをしていないのだから、そこから始めないといけませんからね!!
「う、うむ!? も、もちろん我も好きであるぞ。先程も言ったが、当たり前の事を忘れずに言の葉にする姿勢が素晴らし――」
「いえ、今までとは違います。私めは男として! 女性であるアプリコット様が! 大好きです!!」
「!!!??!?」
私は立ち上がり、アプリコット様の前に立つ。
先程までは見せるのも見るのも恥ずかしかったが、今はそれよりもこの想いを伝える事が重要だ。彼女の手を取り、一歩近づく。
細くしなやかで、日頃から手入れをされているためお綺麗であり、柔らかいが手のひらは杖やペンを握る事が多いせいか、少々張りがある。今までであれば握った所で緊張はしなかったその手は、今は触れるだけで少し緊張し、どうしても照れてしまう。
その感情の変化がアプリコット様への想いが変わったのだと改めて自覚するのと同時に、変化を言い訳にヘタレる訳にはいかないと強く、しかし優しく、体温と想いを伝えるかのように握る。
「あ、グレイ、急にどうして……」
「もうアプリコット様の事を女性として好いていると改めて認識してしまいまして。今までは羨望という名の好きだった前提が崩れた瞬間、それはもう溢れんばかりのLoveが噴き出すかのように衝動を駆り立てているのです。責任を取って貰います」
「責任!?」
胸が苦しい。心臓は今にも張り裂けそうだが、手は離したくないし、全身全霊でこの想いをぶつけたい。
怖いし恐い。けど止める事は出来ない。
苦しいし辛い。けれど止まる事はあり得ない。
「アプリコット様」
「う、うむ?」
何故なら、そうするべきだと私の本能が告げているから。
だから、止められない。
「私は、貴女の事が誰よりも大好きです」
私は真っ直ぐ、目を逸らさずにアプリコット様に告白をする。
準備をすればもう少し気の利いた言葉を言えたかもしれない。もっと良いシチュエーションで告白が出来たかもしれない。
けれど止められない私の感情と言葉は、今自分が紡げる嘘偽りのない真っ直ぐな言葉である。
「アプリコット様は、如何でしょうか」
そして伝えたからには後は返事を聞くだけだ。
言った事による達成感に溢れながらも、言ってしまった恥ずかしさや、返事を待つまでの緊張が相まってなにがなんだか分からなくなる。
アプリコット様の白い肌が、お湯に浸かっていた事によるものとは違うであろう赤みがかかっているのは、どういった理由で赤くなっているのか。肯定的か、否定的か。感情が入り混じった今の私では判断がつかない。
「…………だ」
「え?」
そして沈黙がこのまま永遠に続くのではないかと思ったその瞬間、ようやくアプリコット様が口を開き、なにかを言う。
しかしハッキリとは聞き取れない。私が聞き逃したのではなく、そもそも最初の方を上手く発生出来なかったようである。
「――――~~っ、良いか、グレイ! 僕は一度しか言わないからな!」
そして私の聞き返した言葉に対し、アプリコット様は覚悟を決めたかのような表情になると、先程まで目を合わせようとしていなかった目を真っ直ぐ見返してきて、決意を込めて言う。
「僕も、前から、グレイの事が好、き、で……」
そして途切れ途切れの言葉に一度「そうではないだろうと」言うように下を向いた後、再び真っ直ぐこちらを見る。
「僕もグレイの事が誰よりも大好きである!」
その言葉はなによりも望んだ言葉であり。今まで感じた事の無い、幸福に満ちた感情を溢れさせる言葉でもあった。
「なによりも、誰よりも僕はグレイの事が好きだ!」
「はい、私もです!」
「ならば僕と共に歩む気はあるな!」
「もちろんです!」
「その歩く先が世界一、歴代一の魔法使いへの道でもか!」
「はい、何処までも共に歩んで行きます!」
「ならばよし! ――グレイ」
「――はい、アプリコット様」
そして私達は、一つの秘め事を交わした。
数秒程度の秘め事。しかしそれは一生忘れる事が無いと確信できる、一つの証。
誰かに自慢したいけど、自分達だけの物にもしておきたいような、とてもとても愛おしい物。
ただ言える事があるとすれば。
私は過去を振りきれて、未来を見る事が出来た、という事である。




