周囲と自分の恋_3(:灰)
View.グレイ
「どうぞ、ハンカチです。汚れるのを気にせずお使いください」
「あ、ありがとうグレイ。けど持っているから大丈夫だ」
「わ……私も……あるから大丈夫……ありがとう……!」
何故か動揺をなされ、噴き出すまではいかなかったモノの口元が少々汚れたお二人。自らハンカチをだし、口元を優雅に拭き、しまう。その間に冷静さを取り戻すと、私の方を向いて問い質してくる。
「あ、愛の告白って、どういう事だグレイ?」
「ですから、アプリコット様に愛の告白をしようと決めたのですが、いつ、どのようにしようかとここ数日思ってはいたのですが……あ、確かに言葉にすると悩み事のように思えますね。ネロ君の仰る通りです!」
「そ、そうか」
アプリコット様に愛の告白をしようとは思っていたのだが、ここ数日は会長引き継ぎ関連でゴタゴタしていて機会が無かった。その事に関して悩んでいたかと問われれば悩んでいた、というのは確かだ。そして悩んでいた事に気付いた以上は、悩みの内容――愛の告白をキチンと熟すために、客観的なアドバイスを貰うのも良いだろう。
「まず悩みについて整理しよう。その愛の告白とやらは……えっと、家族だから、家族愛という名の愛――感謝を伝えるとかでは無いだろうか」
「そうですね。アプリコット様とは将来的に父上と母上のような関係性になりたいと思っているので、家族愛を伝えるという言葉ではあるかと思います」
そもそもアプリコット様は立場的には一応私の姉である。私と違って“家名を貸している”だけなので微妙かもしれないが……既に家族ではあるのだ。
つまり私とアプリコット様の間には、家族愛と師弟愛が溢れている事にはなる。そして此度はふとアプリコット様に私の普段の感謝の気持ちなどを伝えたくなった。好きと言う感情を伝える――つまり愛。ならば私のしたい事は愛の告白に違いないのである。
「なるほど」
「なるほど……」
と、いう事を説明すると、何故かフューシャちゃんもネロ君も頭に手を当てて悩むような仕草を取る。何故だろう。
「あー……確認なんだが、グレイはアプリコットが好き、なんだよな?」
「はい、大好きです!」
「そうかそうか。じゃあ俺は?」
「? はい、ネロ君も好きです」
「ありがとう。じゃあフューシャさんは?」
「当然好きです!」
「え……あ……ありがとう……?」
「……では、アプリコットの事を家族として好きなのか? それとも、恋人として好きなのか?」
「それは――」
当然、家族だろう。
アプリコット様とは父上と母上のように――つまり、夫婦のようになりたい。
夫婦とは家族である。ならば私がアプリコット様と望む関係は家族関係であり、家族として好きと答えるべきであろう。
私はアプリコット様の事を妻として――妻として?
――あれ、なにか大事な事が抜けていないでしょうか。
……抜けてはいない。おかしくはない。だが、なにかが引っかかる。
なんというかこう、もっと違う関係性を望んでいるように思える。
でもそれはおかしい話だ。好きな相手と一緒に過ごす関係性で、一番親密になれるのが家族のはずだ。当然家族だから必ずしも親密になれるわけではないのだが、先程私やネロ君が言っていた周囲の恋愛の雰囲気に溢れている方々は、結婚し夫婦になり、家族になるのを目標としているはずだ。
「…………」
「グレイ君……?」
だから私はアプリコット様と恋人ではなく、家族に……
「なぁグレイ。もしかしてだけど、アプリコットの事を女の子として見ていないんじゃないか?」
と、ネロ君に突然言われる。
しかし言っている意味が分からない。いつもの“意味がよく分からない”ではなく、意味を理解した上「そんな事は無い」と断言する類の意味の不明さだ。
私はアプリコット様を女性として好いている。
初めて会った時から何処か惹かれた強い女性。
共に歩みたいと思った女性。
その事に疑いはなく、だから私はアプリコット様と家族になりたいと思っている。
女性として見ていないなんて事は、あるはずが……
「――そんな事はありえません。私めは、彼女を女性として好きなのですから」
あるはずが、ない。それは断言できる。
「そうか、すまない、変な事を言ってしまった」
「いえ、構いませんよ」
ネロ君はアプリコット様への告白の際に健全男子故の欲求を持て余していると言っていた事もあるので、まだ混乱されているのだろう。あるいは実年齢は0歳なのが影響しているのかもしれない。
今回の事は、私が改めてアプリコット様への気持ちを再認識した機会を得たという事にしておこう。うん、それでこれはもう――
「てっきり俺は、女の子として意識していないんだと思ったんだが、勘違いだったよ」
「ところで何故ネロ君はそう思われたのです?」
「ん、だって……グレイがアプリコットを、アプリコットという尊敬する人、としか見ていないように見えた、というだけだよ」
……?
あれ、そういえば私は……




