とある少年の失恋_6(:銀)
View.シルバ
「という訳でやって来ました王都外れにあるちょっとした森」
「急だな」
「という訳で現れました討伐依頼のモンスター!」
「急だな!?」
「行くよシルバ、親子初の共同作業だ! 思いっきり動いてスッキリしよう!」
「それなにか違わないかうぉぉおおおお!!」
僕は気が付けば連れ出され王都の門をあれよあれよという間に潜り。そしてハクの謎パワーによって近くの森まで来ていた。出発する頃には夕方であったため、時刻は当然日も沈んだ夜。いくら王都の近くとは言え、冒険者も軽々に入ろうとはしない時間帯である。
何故僕はこんな所でモンスターを討伐しているのだろうと思いつつ、油断をすれば怪我をするので、頑張ってハクと一緒にモンスターと戦っていた。
「というか、討伐依頼ってなんだよ、いつそんなものを受けたんだ!?」
「こんな事もあろうかと、依頼を受けておいたんだよ、そっち行ったよ!」
「どうすればそんな予想が出来るんだよ【闇呪上級魔法】!!」
「学園に来た時点で予想し、受けておいたと言うだけだよ。来なくても単独で討伐すれば良いしね!」
「大体なんで依頼を受けられるんだよ。冒険者登録か騎士や軍みたいな仕事じゃない限り受けられないはずだろう!」
「あはは、あらかじめ登録していたのさ!」
……学園に来れていた事といい、随分と手回しの良い話だ。なんとなくだけど“どちらでも大丈夫”というよりは、“こうなるだろう”と割合の方が多い気がする。ここまで読んでいるとなると、やはりハクの奴を呼んだのはエクルかもしれない。……メアリーさんかもとはちょっと思ってはいたけど、彼女はこういう事はあまりできないタイプだからね。
「という訳で、シルバ、合わせるよ! 全力でぶっ飛ばす!」
「ああ、もう分かったよ! いち、にの――」
「さん!!」
それよりも今は目の前のモンスターを倒さなくてはと切り替え、合図をもって魔力を練り。そして、互いのこのタイミングで使える一番強い魔法をぶつける。
『GRyaaaaaa!!』
しかし魔法耐性がある討伐モンスターはこの程度では倒れない。しかし効いていないという事は無く、怯み、痛みによりあげる雄たけびを威嚇代わりに使う程度には喰らっている。
僕は武器は使う事は使うが、筋力不足の影響でナイフや棒手裏剣といった軽い物しか使わず、基本的に魔法で圧倒するタイプだ。そのため今回のような相手だと、武器を持った仲間に留めをさして貰う事が多い。
「ハク、追撃を――」
そのため、いつの間にか槍を持っているハクに留めをさして貰おうと思い、名前を呼んで追撃、あるいはトドメの指示を出そうとすると。
「栄華秀英、枯樹生華、華胥之夢、華亭鶴唳、絢爛豪華、枯樹生華、才華爛発、蓮華宝土」
呪文のような、祝詞のような。あるいは響きだけの美辞麗句を並べたような言葉を紡ぐハクが見えた。
前世のクリームヒルトの外見だというその姿は何処となく神秘めいた美しさと、歴史の重さを感じる尊さが垣間見えた。
「乱れを繚りし、末広がりの華――」
ハクの周囲に、手に持つ槍と似たような槍が七つ出現し、上に向かって放たれたかと思うと討伐モンスターの周囲を囲むように降り注ぐ。降り注いだ順番に線を結ぶように魔力のラインのような物が引かれ、七つ目が地面に突き刺さると同時に魔法陣が形成される。
「――【八華繚乱】」
最後の仕上げというように、手に持つ槍を討伐モンスターに向けて放つ。
まるで防御力が無いかのように討伐モンスターの皮膚に槍が突き刺さったかと思うと、それが仕上げだったのかさらに魔法陣が光り出す。
「シルバ、今なら魔法耐性が奴には無い! 抑えている内に、トドメを!」
「お、おう!」
つい見惚れてしまったが、ハクの言葉にハッとし、魔力を練ってトドメをさそうとする。このモンスターは魔力耐性が高く、物理防御もそれなりに高い。だが一ヵ所、魔法をぶつけ続けていると、闇属性に対し酷く脆くなる部分が喉元に存在する。
そこを狙えば一発で倒す事が――
『シルバ君のお陰で助かりました。ありがとうございますっ!』
……っ!
考えるな、敵は動いているんだ。昔の事を思い出して動揺していては、狙いが外れてしまう事もある。昔の嬉しかった事など、僕が彼女を意識し始めた時の事などすぐに忘れろ。あの時と同じモンスターだからといって、あの時の事を思い出しているんじゃない。
忘れろ、忘れろ、忘れて――
――いっそ、思い出ごと殺してやる。
そうやって自分の気持ちを静めて、魔力を練る。
僕の特殊な魔力を混ぜた、闇の一矢。不思議なほどにこの一撃に、僕の魔力の特殊性が込められている事を感じる。
ハクの発動している魔法が白く覆われている聖ならば、僕は黒く沈んでいる呪。
そうだ、僕の魔法の強さはこうやって相手を呪えば呪うほど――いや、自分を呪えば呪うほど、強くなる。
――それに気付きさえすれば、こんなモンスターなどすぐに倒せるんだ。
その証明を、この一撃を持って行う。
だから僕は最大、最強の魔法をこの一条の闇を持って完成させて、なにもかも殺すんだ――
「シルバ、こっちを見て!」
そして放つ直前、ハクの言葉が耳に届く。
なにをもってそう言うかは分からないが、一瞬だけその声に従い声の方を向いた所で。
「見ろ、これが――多くの男が望み、見る事が叶わなかった姿だ!!」
――上半身の制服を脱ぎ捨て、僕に堂々と見せるハクの姿だった。
「え、あ、ス、【闇呪最小最上級魔法】!!」
『GRyaaaaaa!!?』
そして既に放たれる直前だった僕の魔法は、突然の出来事に動揺しつつも放たれ、真っ直ぐに飛んで狙いからちょっとズレはしたモノの、討伐モンスターの喉元を見事に貫いた。
『G、Rya、aaaaa……』
そして討伐モンスターは僕達を見ながら、なんだか「そんなんでやられたくない……」みたいな事を言っているかのようにしつつ、そのまま倒れた。……実際には言っていないのだけど、倒れた。って、それ所じゃない。
「な、なにやってんだお前!?」
ハクは割と突拍子もない事をするが、今回はいつもより意味が分からない。あと堂々とするな。隠せ。
「ふ、クリームヒルト曰く、この外見の美しさは数多の男を誘惑せしめしものという。実際今世でもそうだし、身体の綺麗さは身体だけで男を手玉にし、一財産築けそうな勢いだ」
「だ、だから……?」
「だから見せた」
「なんでだよ!?」
「男は皆おっぱいが大好きだろう!!」
「堂々と言うな! せめて胸と言え!」
「変な所で恥ずかしがるな、堂々と好きと言え! そうやっておっぱいという単語をいけないものと思うから余計恥ずかしいんだ!」
「どうでも良いから隠せこの変態が!」
「やだね!」
「やだね!?」
「息子が闇落ちするところだったのを防ぐために、こうして男が大好きなものを見せてあげて闇落ち回避しているという事が何故分からん!」
「分かってたまるか!」
「事実先程の一撃、見惚れて呪が込められなかった――つまり成功しているという事。やはりスケベイは闇を祓うのだな!」
違う。絶対に違う。
確かに動揺した上に呪も込められなかったかもしれないが、それだけは違うと言いたい。……いや、うん。違うよ、うん。違うとも。
「い、良いから隠せ。討伐も終わったんだから、証拠として持ち帰る準備をしないと駄目だし、早く帰らないと……」
「なにを言う。もう夜だし、下手に歩くのは危険だし、既に外泊許可はとってあるんだ。――後は、分かるな」
「分からない寄るな近寄るなにじり寄るな捕獲しようとするな!」
「はっはっはっ。これぞ据え膳というやつだ」
「意味分かって言っているのかお前!」
「危機的状況を脱した後は、生存本能が刺激されるし、興奮も冷めやらぬと聞くぞ!」
「意味分かって言っているのかお前! お、お前、普段母親を名乗っているくせに、僕になにをしようというんだ!」
「まぁ男にしようかと」
「意味分かって言っているのかお前――ちょ、来るなー!!」
いけない、このままだと僕の色んな物が失われそうな気がする。抵抗しようにも場所が場所だし、相手も相手だ。このままでは半裸のハクに色々とされてしまうし、こんな所を誰かに見られでもしたらあらぬ誤解を――
「…………」
「…………」
「……こんばんは、シルバ」
「……こんばんは、アッシュ」
そして、アッシュと出会った。こんな所でなにをしているんだろう。
…………どうしよう。
「へぇ、あれが人間男女のまぐわいってやつかー。アッシュ、お前も経験ないんだから、今後の参考のために見学して行ったら?」
「しない」
あと、あの浮いている少女のような存在はなんなのだろう。……そういう趣味になったのかな、アッシュは。




