とある少年の失恋_4(:銀)
View.シルバ
僕はどうやら、フラれたようだ。
その事実を人目のない学園の屋上で寝転び、空を見上げながら反芻していた。
自分の容姿が整っているという自覚はある。
とはいえ、これは可愛がられるタイプの整い方だ。親子ほど年上の異性に可愛がられるような、同級生でも年下に思わるような外見。それでも魔力のせいで昔のように外見で差別も受けないし、“良い”と評価されている事には違いないから恵まれてはいるのだろう。ただ、僕がライバルだと思っている奴らのような男性的……女性から異性として意識されるような外見でないのは、ちょっと思う所がある。
能力はハッキリ言えば劣っている。
ヴァーミリオン、アッシュ、シャトルーズ、エクル。
王族・貴族という立場に胡坐をかかずに、才能という原石を環境と意志を持って磨き続けた超人達。
勉学では追い付かない。基礎が違い、追いつくのがやっとだ。
運動では及ばない。逃げる事に執心していた自分では、戦い守る事に最適化された身体能力には負ける。
交渉と世渡りは下手すぎる。あいつらは面倒な僕とも接する事が出来る上に、貴族としての駆け引きは僕が理解が及ばない程に上手い。
立ち居振る舞いは、ふとした時に“育ちが違う”と感じるほどに、アイツらは優雅だ。そういう事に疎そうなシャルの奴でさえ、気品を覚えさせする事もある。
魔法は僕の中の、認めたくない力を使ってやっと五分であった。今では認めたくない力を認める事が出来る力となって、アイツらの中でも上位には必ず食い込むほどにはなりはした。
――総合を考えると、アイツらに勝てる要素が無いな。
恋愛において相手のスペックを見る時によく使われる、外見、身体能力、身分、お金。……僕がアイツらの中で勝てている要素なんて、せいぜい「同じ平民という身分だから、気軽に接する事が出来る」というものくらいだ。それも場合によってはプラスに作用しない時もある。
だけど、勝てないからと言って諦める気はなかった。
好きという感情はそんな理屈では通じない、抑えきれないものであり、僕は僕なりに必死に頑張って、頑張って、頑張って――
「頑張るだけじゃ、駄目だったかぁ」
僕の好きな女性、メアリーさんはヴァーミリオンに恋している。
それは必死に目を逸らそうにも、逸らしきれないほどハッキリとした事実として僕の前に存在していた。
“それ”はもう覆す事が出来ない代物だ。
何故なら僕が“そう”だと知っているから。
僕が今フラれて諦めきれていない事と同様に、早々覆る物ではない。
……僕自身が、彼女の感情を認めてしまっている。
「あ゛ー……うぁー……」
そして今日何度目か。ここ数日で何十回目か分からないうめき声をあげる。本当はもっと直接的に害意のある言葉を言ってしまいそうなのだが、どうにか我慢出来ているのは、それを言ってしまうと昔の自分に戻ってしまうと思っているからだ。
入学当初の荒れていた頃。メアリーさんに、「害意の強い言葉を使うと、自分の弱さに飲まれてしまいますよ」と言われ、出来る限り使わないようになった強い言葉。あの時のように周囲全てを敵と思って使っていた強い言葉を今呟くと、昔に戻ってしまい、僕はメアリーさんに嫌われそうだと思った。
「……嫌われた方が楽かなぁ」
……いやもういっそ嫌われた方が良いだろうか。
僕はフラれた。ならばいっそ彼女に嫌われた方が諦めもつくという物だ。むしろ今のように叶わぬ恋だというのに、目を逸らしたフリをして、表ではいつも通りに振舞って、勝てるかもしれないと泡沫の夢に追いすがるよりはマシかもしれない。
今のように好感度を稼いで、恋人は無理でも友人なら近くに居る事が出来るからと、理解のある男を振舞うよりは良いかもしれない。
けど、そんな事をすれば彼女が悲しむからしない方が良いかもしれない。
ここでそうやって止まろうとする意志を見せている辺り、僕は心優しいのかもしれない。
心優しい奴はそんな事を考えない。けど止まらないよりはマシだ。マシではあって良い事ではない。悪い事でないのなら良い。結局どっちつかずだ。このまま行動しない方が楽ではないか。行動しなければ行動して失敗した奴を笑う事が出来るぞ。あるいはそのように笑う奴を馬鹿に出来るかもしれないぞ。あるいは――
「……なんだこれ」
自分の思考が、やけに酷い事になっている事を何処か他人事のように思いながら、これ以上は脳を疲れさせるだけだと考えるのをやめて、空に浮かぶ雲の流れを見る。
「僕は一体、なにがしたいんだか」
そう思いつつ、仰向けのまま届かない雲をつかむ様に手を上空に掲げた所で。
「息子が悲しんでいる――これは母として慰めなくちゃいけないな。という訳でどうだいシルバ。その掲げた手を私の谷間に入れてみないかい?」
「入れない」
自称母である、ハクが現れた。
……なにやってんだか、コイツは。
「じゃあ揉む?」
「揉まない」
「揉めよ、据え膳だぞ!」
「意味分かってるのかお前!」




