生徒会女子恋愛事情_5(:淡黄)
View.クリームヒルト
「ヴァーミリオン君の触れると意外とガッシリとしている腕が――」
「ブラウン君の無垢で天使のような笑顔に癒されて――」
「グレイの時折見せる穏やかな表情が――」
そして私達の討論は、料理教室を終えて作った物を食べる時になっても終わらなかった。
なんかもう討論というよりは別のなにかになっているような気もするが、特にギスギスする事は無く、互いの想い人の自慢をして居る。
「えっと……ヒトそれぞれで……世界一が……違うという事じゃ……駄目なのかな……?」
「分かっていますよ」
「しかしそれはそれとしてだね」
「互いの想い人が世界一であると」
「自慢したい訳だよ!」
「えっと……つまり……今みたいに言い合うのが……楽しいからやっている……?」
『そういう事ですね!』
「これが……恋する乙女の……恋話……!」
「フューシャ殿下、合ってはいますがあまり参考にされないように。」
「合っては……いるんだ……?」
「恋のお話としては間違ってはいないとは思いますので……」
「スカイは……参加しないの……?」
「……スマルト君は間違いなく内外共に素晴らしい男の子なんですが、どうもそういう事を話すのが苦手で……」
「スカイ、やはり腕とかに浮かぶ血管って良いと思うんです。色っぽく思えて」
「はい?」
「普段手袋などの装飾品で隠れている部位が露出されるのは良いと思うぞ」
「瞳って良いよね。真っ直ぐ見る事が出来て初めて綺麗なんだと知れたよ」
「あはは――手に浮かぶ骨のごつさ」
「な、なんです皆さん急に」
「さぁスカイ。皆が言ったのですから、言わずに切り抜けるなんて事はしないですよね! さぁ、スカイのフェチを言うのです!」
「当たり屋かなんかですか!?」
「わ……私は……真剣になると……スッと細められる鋭い目が……!」
「無理されなくて結構ですからフューシャ殿下!」
「さぁ言うのです」
「主に言わせておいて」
「まさか従者の貴女が」
「言わないなんて事は無いよね!」
「打ち合わせでもしているんですか!? え、えっと……舌……?」
「舌?」
「その、ぺろって唇を舐めたりする時に一瞬見える舌とかが良い、でしょうか……?」
「おお、結構フェチな所行くねスカイ君」
「良いじゃないですか。ベーッとやっているのとか見ると、普段隠れて見せない物を見ている感じがして良いんですよ」
「スカイ、タンがありますけど食べます?」
「そこでそれ勧めて来ますか……食べます」
「食べるんだね」
「触感良いですし肉厚で好きなんですよ。……ところで魔牛の舌ってどんな感じなんです? 確か以前討伐した時は、結構長かった、というのは見ましたが……」
「舌を鞭のようにしならせて、下手すればそれでやられる程度には筋肉の塊です」
「美味しいんですかそれ」
「前衛的です」
「それ評価に困った時にとりあえずいう言葉じゃないですか!? というか味の評価じゃ無いですし! ――パクッ」
「この流れで食べるのかい!? ど、どうかな、スカイ君?」
「……あ、美味しいですね。前衛的です」
「どういう味なんだ……!?」
「…………」
「それで、クリームヒルトさん。納得いく話は聞けたのであるか?」
「あはは、なんの事かな?」
「我にあのような事を聞いておいて、知らぬ存ぜぬでは通さんぞ」
「え……え……なんの事……? もしかして私……向こうでスカイ達と……お肉の……批評やってた方が……良い感じ……?」
「あはは、気にしないで良いよ。まぁなんと言うか……恋と好きについて知りたかった、という感じかな」
「恋と……好き……?」
「別に深い意味があるんじゃないよ。……私は正直言うと、ティー君の事が最初は好きでもなんでも無かったんだ」
「それは……ある意味当たり前だよね……?」
「一目惚れでも無い限りは、大抵そうであろうな」
「あはは、そうだけどね。まぁ正直言うとさ。私イケメンというかティー君みたいなザ・王子様タイプ美形! みたいなは苦手でねー」
「そうなの……?」
「遠くから見る分には良いけど、近くに居られると光属性でやられそうだし」
「クリームちゃんは……闇属性か……なにか……?」
「良いよな闇属性。我も闇に生きる者であるし、ティーめの光は確かに眩しい」
「そういう事では……ない気がする……」
「……ま、とにかく私は光属性の彼を苦手だな、と思う事はあっても、好きだとは思ってなかったの。けどいつの間にか恋しちゃった」
「しちゃった」
「うん、しちゃった。ふ、私は皆が私を避ける中、ただ受け入れられただけで相手に恋しちゃうチョロい女……通称チョロイン」
「言葉の意味は分からぬが、違うという事は分かるぞ」
「まぁともかくそんな感じでね。思い返せばあの時に私は彼に恋したんだと思うんだけど、苦手であって好きで無かったはずなのに、恋をするなんて有るのかな、と思ってね」
「我がなにを以てグレイを好きになり、恋へと変わったのかを聞きたかった、という事であるか。もしかしたら他のヒトも似たような感じだったのかもしれない、と」
「あはは、そんな感じ。不安になっちゃったんだぜ!」
「だが、我に聞くのは間違えているであろう、その質問」
「あはは、そうだね。聞くとしたらスカイちゃんがよさそうな質問だったかもね」
「でもつい聞かずにはいられなかった、か」
「そんな感じだよー。恋に焦って媚薬に頼ろうとするくらいの恋愛初心者だからね。どうすれば良いか分からないから、同じような境遇の人が居るんだーって安心したかったんだよ!」
「それで、どうなのだ?」
「どう、って?」
「その安心は満たす事が出来たのであるか?」
「うーん、と。それは……」
「ところでこのハンバーグですが、中にチーズをインすると美味しくなりますよ」
「あ、良いねそのアイデア。ブラウン君とか喜びそうだ」
「スマルト君には……微妙そうですね」
「そうなんですか?」
「牛乳が苦手らしく、それに準ずるチーズも苦手みたいなんですよ」
「あー、なるほど。苦手な物を無理に食べさせるわけにもいかないですからね。ヴァーミリオン君も確か貝類の中でも――」
「……まぁ、境遇は違くとも、皆が好きな人を思う姿を見ると、別に最初がどうだったかとかどうでも良いかな、って思うかな」
「ふ、そうであるな。皆が皆、恋の相手を自分の方法で振り向かせるために、今、頑張っている。それで充分である」
「あはは、そうだね!」
「うむ。ではクリームヒルトさん、我達も頑張ろうな!」
「うん!」
「…………」
「む、どうしたフューシャ。なにやら言いたそうな表情であるが」
「……あまり言わない方が……良いと……思って……いたんだけどね」
「うむ、どうした?」
「もしかして……この中に居るメンバーは……スカイを除いて……誰一人……正式に付き合ってはいないのに……まるで彼氏を話すように――」
「ストップだフューシャ。それ以上はいけない」




