生徒会女子恋愛事情_4(:淡黄)
View.クリームヒルト
「クリームヒルト先輩、もしや我に怪我をさせたいのであろうか」
私の発言に動揺し手元が狂いそうになったアプリコットちゃんが、困ったように、だが気丈に振舞おうとしつつ見てきた。
「そんな事は無いよ。ふとやりたくなった乙女――女同士の会話だよ」
「何故言い直した」
「自分で自分を乙女というのが恥ずかしくて……男の子と付き合った事は無いけど、かといって私が“お前は乙女のように清らかだと思うか……?”と問うと、どうも名乗り辛くなるんだよ」
前世では結構モテはしたけど、男性経験は無い私ではある。けど四十年近く生きて自分を「清らかな乙女だぜい、イエイ!」というのは、冗談ならともかく大真面目に自称できるほど私は純粋じゃない。なにせ寄って来る男の子達をバッタバッタと殴り倒したからね。
「気にし過ぎであると思うがな。……そこはクロさんと似ているな」
「どういう意味?」
「技術以外の自己評価が低い所、だ」
技術以外……ああ、戦闘とか服飾といった生業としているような、自分が時間をかけて手に入れる事が出来たモノ以外、という事か。そしてアプリコットちゃんの言い方は黒兄だと男として、私だと女として良いと素直に言えない捻くれた所が似ている、と言っているように見える。
「怠惰を貪っている訳でもなし、我と同じように自己評価を高めれば良いと思うがな」
そういえばアプリコットちゃんって自己評価高いよね。外見に関しても顔、髪、体躯において素晴らしいものだと誇っている。私と同じで小ぶりな胸に関しても、「いや、大きければ良いという訳でもないし、邪魔であるし……むしろ我の身体にはこのサイズが美しい」と言っている。多分アレはサイズがもっと大きくても似たような事を言って誇っているだろう。
「それに、ティーめには一目惚れをされるような外見の持ち主なのだ。もっと誇ると良いぞ」
「あはは、一目惚れだったのは分かっているけど……」
ちょっと複雑ではあるが、彼は私に一目惚れをした。それは素直に嬉しくはある。ただ何故複雑かと言うと、私の外見は私が手に入れた物ではなく、あのカサスにおける主人公と同じ外見だからだ。
なんの因果でこの外見を手に入れたかは分からない。が、この外見に一目惚れしてくれたお陰でティー君と恋出来たのは嬉しく思う。ラッキーだったとも言えるが、ちょっとだけ複雑なのである。……もし私が黒兄やメアリーちゃんのように、別の誰かの外見になっていたら、今のようになっていたのか、とね。
「クリームヒルトさん、貴女のそれは知っているだけで、分かってはいないと思うぞ」
「へ?」
「……まぁそこは我の関するべき事ではないか。で、我がグレイの好きな所、であったか」
自分が言える所はここまで。そう言外に言っているように、手元で合いびき肉を手際よく作るアプリコットちゃんは話を切り替えた。
……気にはなるが、今は私が気になる事について聞くとしよう。
「我がグレイを好きな理由は、一緒に居る事が出来て、高め合う事が出来るからであるよ」
「高め合うについては分かるけど、一緒に居る事が出来る?」
「自分が自分らしく居られるときに、傍に居て疲れない所か、居て欲しいと願える相手なぞどれほど希少であると思う?」
「ああ、なるほどね」
私にとっての黒兄みたいな感じか。エクル兄さんも一緒に居て疲れはしないけど、何処か遠慮しちゃうもんね。しかしそれだと……
「それだと黒兄に対しても恋しちゃったりしたんじゃない?」
その理屈だと、奴隷商から脱走して弱っている所を衣食住を与えてくれた上に、アプリコットちゃんの自分らしく居られる振る舞い……ようは中二病的振る舞いの源泉は黒兄だ。素でいられて、助けてくれて、優しくしてくれる年上のお兄さん相手。……ある意味では初恋の相手のシチュエーションとして相応し過ぎやしないかな、黒兄。
「否定はせぬよ」
「え、しないんだ」
「そうであったかもしれぬ、という感じである。なにせクロさんとも風呂に入った仲であるしな」
「ただ、普通に気にせず入れていた辺り、恋と言うよりも家族愛に近い感じかな?」
「そうである。……クク、もしかすると、グレイに対してもそうであったように、我はクロさんへの想いが家族愛から恋へと代わっていたやもしれぬ」
黒兄とアプリコットちゃんか。お似合いそうな二人ではあるけど、彼女自身「それはないだろうな」と思っているからこそ言えている感じもある。
「だけど、そうなると黒兄とグレイ君との違いは……外見? あの今はショタ好きの皆様に尊いと崇め奉られているけど、いずれは背も伸びてめっちゃ美少年になりそうな外見に惹かれたの?」
「グレイが素晴らしい外見である事は否定はせぬ」
「しないんだ」
「なにせ世界一素晴らしい外見であるからな。否定する要素が何処にある」
わぁ、なんという惚気。……惚気なのかな?
黒兄とヴァイオレットちゃんも似たような感じだし、惚気だね、うん。けど……
「聞き捨てなりませんねアプリコット。――世界一はヴァーミリオン君です」
「はは、面白い事言うね、二人共。――世界一はブラウン君だよ」
「ははは、先輩方は冗談が上手いのですな。ははは」
わぁ、怖い。これが女のバトル……!
「へい、スカイちゃん。スカイちゃんも参加しないの? うちのスマルト君が世界一です! って」
「彼が私に勿体ないくらい格好良い……可愛い? のは確かですが、アレに参加するのはちょっと……」
「あはは、そっか」
「クリームヒルトは参加しないんですか?」
「それはもちろん――参加するよ」
「あ、するんですね」
バーガンティーの一目惚れに関して
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白 → 一目惚れする




