生徒会女子恋愛事情_1(:淡黄)
「しかし私は精のつく料理を避けた結果妻に惹かれ、義弟は精のつく料理を最初に振舞われた……」
「共通しているようで全く共通していませんからね」
「どちらも相手を思っての食べ物を差し出した、という事だな」
「共通点を作りやがりましたね。……まぁそうなりますかね」
「自分のために作るという点では私の料理を作る料理人とそう変わらないはずなのだが、どうもあれは……」
「特別を感じますからね。ですがそれを無理に言語化するのは良くないかもしれません」
「……確かにな。言語化して相手に嬉しいと伝えるのも重要だが、この感情は自分の中で大切にすべき事だろうとも思うな」
「はい。好きな相手から頂けるこの感情は、得難い、独占したいものですから。……まぁ自慢はしたいとも思いますが」
「くく、なるほどな。この気持ちを陳腐な言葉にしたくはなく、自分の中で独占したい。私はこんなに幸せなのだと周囲に知らしめたい。私もその二つの気持ちがある。不思議だ」
「不思議です。ただ、思う事があるのですが……」
「なんだ?」
「相手が特別になったからこそ、あの時の出来事が特別へと昇華した気がするんです」
「時を経て何気なかった事が特別だったと自覚する……そのような感じか」
「ええ、そうですね。何事も積み重ねが大切、という事なのでしょうね――」
◆
View.クリームヒルト
「手っ取り早く料理で相手を陥落させたい」
「突然どうしたクリームヒルト先輩」
「しかも内容が割と酷い事言っていますね」
放課後の生徒会室にて。
夢世界やら生徒会の引継ぎやらでここ最近ゴタゴタして忙しい中。私は休憩時間にここに居るのが生徒会女性陣しか居ないという事を見計らい、とりあえず相談しようと思っていた事を口にしてみた。
「一応話を聞こうかクリームヒルト君。何故急にそのような事を?」
「生徒会長さん――じゃなくって、フォーン先輩。これには深い理由があるんだよ」
「その割には浅はかな相談内容だった気がするけど、その理由とは?」
「なんかこう、胃袋を掴んでおけば恋愛においてのイニシアチブを取れて自尊心が満たされるかな、って」
「うん、ある意味最初に思った事に間違いはなかったようだ」
ここ最近、色々と問題があったせいで生徒会長の引継ぎが遅れに遅れたが、ようやく任を解かれて開放感に包まれているフォーン先輩が私の発言に溜息を吐く。溜息と言っても失望をされた溜息ではなく、気軽な間柄だからこそされるような物だ。私の発言に「相変わらずだけど、会話を打ち切るほどでも無いな」というような雰囲気で、話を勧めようとしている。これは他の生徒会女子メンバーも同様である。
「しかし、クリームヒルト先輩は本当に吹っ切れたのだな」
「なんの事アプリコットちゃん?」
「そのように言うという事は恋愛絡みである。つまりティー殿下めに対する好意を隠さなくなったという事であろう?」
「あはは、まぁティー君の事好きだからね。男の子として」
「お、おお、そうである、か……?」
しかし次の発言に、今度は皆が戸惑ったような雰囲気へと変わった。まるで相変わらずだと思っていたら、違う方向から殴られたかのような狼狽えぶりである。
「今まであんなにも否定したり誤魔化したりしていたのに、あっさりと認めるんですね」
「私にも色々あるんだよスカイちゃん」
私はもう自分の気持ちに嘘を吐くのはやめた。
自分には恋愛感情はない。恋愛に不向き。人として大事ななにかが欠落している。私よりいい女の子なんて大勢いるし、私と一緒になったら不幸になる。
そんな思いを胸に、何処か一歩を踏み出せずにいた私なのであるが、先日ちょっとした事があって、もう吹っ切れる事にした。私はバーガンティー・ランドルフが大好きである。例えそれを周囲が偽者だとか壊れているとか言われても、私にとっての今感じている気持ちは本物である、と。
「と、まぁ私が好きなのはどうでも良いんだけど」
「良いんだ」
「けど、正直言うなら私はこの気持ちを直接言うのはまだ恥ずかしく思ってる」
「うん……ティー兄様の……前では……攻められっぱなし……だよね……」
「そうなんだよフューシャちゃん! 今の私は……主導権を握られた恋愛クソ雑魚女!」
「恋愛クソ雑魚……?」
だが問題は認めた所で攻められるという点はなんら変わり無いのだ。むしろ自覚して認めてしまった分、過剰なまでのティー君からの攻撃(多分彼にとっては無自覚な奴)を受けるとそれはもうダイレクトに受けてしまう。
今までであれば誤魔化す事でなんとかしていたものを、すべて受けるはめになるのだ。どうなるかなんて火を見るよりも明らかと言えよう。
「ああ、だから最近、ティー殿下との仕事を一緒にしていないのですね。てっきり忙しいのですれ違いを起こしているのだと思っていましたが……嫌われて避けられているのではと不安がっていましたが、むしろ好かれていたんですね」
「え。……そんな事思ってたの彼?」
「はい、護衛として、このままではいけないと思うほどには」
「そっかー。……そっかー……」
そういえば最近攻撃を受けてばかりで、相手の様子を確認する余裕が無かった気がする。……申し訳ないし、どうにかしたいが……どうしよう。
「(メアリーさん、今のクリームヒルトさんはなんというか……)」
「(どうにかしたいと今すぐ行動に移したいけれど、原因が自分に合ってまだ解決できていないので歯がゆい、という感じですかね)」
「(ふむぅ……なんとなくだが、あの姿を見るとクロさんは喜びそうであるな)」
「(そうなの……? なんで……?)」
「(恋愛で人並みに悩む、というのがクロさんにとっては妹の成長であると喜ぶからであるよ、フューシャ)」
「(なるほど……)」
……ともかく、そのせいで今の私は今まで以上にティー君との恋愛が負けが続いているのである。恋愛が勝ち負けなのかとかはどうでも良い。このままではいけない。そう思った私は、恋愛のイニシアチブを取る事で心の余裕を得ようと考えた。その結果思い付いたのが、先の言葉である。
「ともかく私は、手っ取り早く料理で相手を陥落させたい。そしてティー君に勝ってみせる!」
「ようは……自分が上だという事を思い知らせて、自尊心を満たしたい、という事だね」
「あはは。……正論は時に人を傷付けるだけなんだよ、フォーン会長さん」
「もう会長じゃないよ。というか元は君が言ったんだろう」
「……もういっそ媚薬を盛って、“料理を食べるとドキドキする……この料理は私にとって特別であるのでは!? 得難い、独占したいものだ!”という感じにするとか出来ないかな……」
「戻って来るんだクリームヒルト君。それで得られたものよりも、喪う物の方が多いからやめなさい」
……そうだろうね。流石の私もそれはやめておきたい事である。




