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初期からあった設定_7


「んじゃ、すまないが後はよろしく頼むアプリコット。デザインに関しては既にブライさんに伝えてあるから、渡すだけで大丈夫だ」

「了解した。……しかし、デザインか。クロさんが考えたのであろうか」

「ある意味そうだが……まぁ、装飾の無い簡素なものだよ。彼女の手にはそういった物の方が似合うからな」

「うむ? まぁ分かった。ともかく渡してくる」

「おう、頼んだ」


 指輪のデザインに関しては、前世で考えた代物だ。先生にも友人にも「特別褒めるべき所も無く、駄目だしするような内容も無い」というような評価を受ける簡素で特徴のない、装飾もなにも無い金色の指輪。

 ただ、もし俺が結婚するとして、俺が贈るとしたらこういった指輪が似合うような女性が良いなと夢想したような、若かりし頃の未熟なデザインの指輪。……先生にも友人にも、「褒めるべき所はなくとも、お前が相手につけさせたいという思いは伝わる」と言われた、今回の指輪を作るにあたって真っ先に思い浮かんだデザインである。


――多分あれ、俺にだけ相応しい指輪だ、という意味だったんだろうな。


 ただそれがウェディングドレスとその装飾をデザインする、という授業のお題に相応しくなかっただけであろう。そしてしばらくすれば“褒められなかった、特徴のないデザインだった”という評価を受けたと思い、それ以上の感想が湧かなかったモノでもあるのだが……今更になってその事を思い出して、その時の評価の真意に気付いた俺である。


「でもなんで急に思い出したんだろうな」


 元々結婚指輪に関しては、結婚の話が決まった時に考えていた事ではある。だからアプリコットに依頼をした。

 そしてヴァイオレットさんと会った後、指輪の事を思うと、昔作ったデザインについて思い出した。

 思い出すとすぐにしなくてはならないと行動を開始し、ブライさんに頼み込み、渋るブライさんに必死にお願いをした。その後どうにか了承を得て、グレイがやって来て、やる気を出してくれた。その時も何故そんなにも必死になるのか、と言われたっけ。俺は答えられなかったが、なんでだろうか。

 ……そういえば昔、菫色の髪で所作の綺麗な女の子を見た事があるような――


――……さて、そろそろ帰るか。


 指輪の話から、関係のない記憶を連想させるという思考の迷路に陥っている。そう判断した俺は、思考を打ち切り屋敷に帰る事にした。


「かえりたーい、かえりたーい。あたたかな家族が待っているー。……家族、か。なんだろうな、それ」


 思考を打ち切るために無理に前世にあったような気がしない事も無い歌を歌ってみたが、今度は違う思考に迷い込んでしまった。

 どうなれば家族になるのか、とか。なにをすれば家族になるのか、とか。血の繋がりはそこまで大切か、とか。

 シアンとアプリコットに言われた事により、どうも思考が変な方向に向いているようだ。切り替えねば。


「家族なんて、気が付けばなっているものですよー、っと」


 そんな適当に思いついた答えを結論とし、俺は屋敷の帰路につく。例えそれが今の俺には間違っていたとしても、今の俺には必要な答えでもあるのだから。

 と、答えを見つけた所で考えるべき事は……今日の夕食はなんだろうな。という事だ。

 今日はグレイが当番だし、シキの領民に結婚祝いとして貰った野菜やお肉もまだ有るからしばらくは豪勢にいけるしで夕食が本当に楽しみである! ……あれ、なにか忘れているような……うん、気のせいだな!


「ただいまー」


 そんな風に楽しみにしつつ、屋敷に帰ると早速キッチンの方から良い香りが漂ってくる――うん? あまり嗅いだ事の無い香りだな……?


「おかえりなさいませ、クロ様」


 香りに誘われるがまま、キッチンへと行くとエプロン姿のグレイが出迎えてくれた。調理中のようなので顔をこちらに向けての出迎えの挨拶だけであるが……おや?


「お、おかえりクロ殿」


 と、意外というべきなのか、グレイだけでなく、エプロン姿のヴァイオレットさんもキッチンに立っていた。少し気恥ずかしそうにする姿は、シキに来てから初めて見る姿でもある。……意外だな。まさか彼女がこんなにも早く料理を――ん? 料理、を……?


「クロ様、今日はヴァイオレット様がメニューから考えられた夕食になります。出来た時に呼びますので、それまでお待ちください!」

「ああ、うん、分かったよ。分かったけど……」


 それはとても嬉しい事なのだが、キッチンにある材料の数々が気になる所である。

 ニラ、ショウガ、アボカド、ウナギ。どれもこれも珍しくはない食品だ。……なのだが、先程の事もあってかとても不安な感じがする。

 ……これでスッポンとかあったら、色んな意味で不安に――む、この植物は確か……?


「あ、それはシアンさんに教わり、エメラルドから貰ったサテュリオンという植物だ。珍しい植物らしいが、新婚祝いという事でプレゼントしてくれたんだ」


 くそ、一段階飛ばして媚薬の原材料として真っ先に挙げられる植物が普通にあるじゃねぇか!


「これらを使った精のつく料理をつくるから、楽しみにしていてくれ、クロ殿!」

「あ、はい。ありがとうございますね、ヴァイオレットさん……」







「……それで、どうなったんだ、その日の夕食は?」

「とりあえずサテュリオンについての説明をして、それだけは外して貰いました。貰いましたが……」

「が?」

「……料理に不慣れなヴァイオレットさんの配分ミスにより、一口食べれば相撲で発散せざるを得ない程の精力を得るような料理になったのです」

「何故SUMOU……? ともかく、それほどまでだったのか?」

「はい」

「……下世話な話になるが、大丈夫だったのか――というのも夫婦の間で変な話ではあるが、精力にうなされて欲望の赴くまま、という事は無かったのか?」

「俺の理性を舐めないで頂きたい。なにせその後もシキの領民に夫婦らしい事をしないと揶揄われ続けるはめになるほどには、俺の理性は強固なんです」

「その理性はヘタレと読むものではないか?」

「ソルフェリノ義兄さん。……正論は時に人を傷付けるだけなんです」

「……そうか」


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― 新着の感想 ―
[一言] 理性は壊していくものだZe☆
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