初期からあった設定_5
「まぁ事情は分かった。次からは気を付けてくれ」
「あれ、それだけで良いの?」
「別に悪意を持っていた訳では無いし、むしろシアンでも相手の事を読み違える事があるという一面が見れて驚いて、そして楽しんでいるよ」
先程も言ったが、シアンはなにかと相手を心情を見抜く事が上手い。上手いというよりは見え過ぎてよく人間不信にならないな、と思う程度には1から10を知る事が出来る。
「そりゃ私だって全部見える訳じゃ無いし、見えた上で勘違いする事もあるし……」
「今みたいにか」
「そ。クロだって本を読んでヒトと違う感想を登場人物に抱いたりするでしょ? そんな感じで私の解釈で色々間違えるからなぁ……」
小説とかだと本に書いてある以上の事は作者しか分からない。分からないが、読者は与えられた情報を元に色々と楽しむものだけど……それをどう思うか、評価するかは千差万別。俺が誠実だと思っても、別の人は責任感が無い奴だ、と思う事もある。そんな感じで読み取っても作者が思った事をそのまま読み取れるかは別である、という事か。
……多分そんな感じで、シアンは神父様の事も読める事は読めるのだろうけど、恋心が邪魔して読み取った所で正常に判断が出来ていないから読めないんだろうな。情報の共有に対して大いに喜んで、満たされるから読み取れない的な。……それだけ聞くとシアンが厄介オタクみたいだな。
「クロ、私を変な扱いしていない?」
「その格好の時点で俺は常に変な扱いをしているよ」
「つまり可愛いから特別扱いって事?」
「そういう事で良いよ」
あと、シアンは自分に向けられる感情にも疎いな。正確には悪意や敵意などには敏感で、性的意識にちょっと疎い。多分太腿を大胆に露出する程の自信はあっても、女性としての評価は低めなんだろうな。だからこそ神父様への恋愛がまごついているというのもあるんだろうが……まぁそこは俺がとやかく言える問題でも無いか。
俺だって男としての魅力があるかと問われれば、自信を持ってあると答えられないし、ヴァイオレットさんという魅力的な女性に相応しいとは言えないもんな。仮に俺が学園生で彼女を好きになり、彼女がフリーでも「もっと良い相手が居るだろう」と身を引くだろうし。……そこを考えれば、神父様を狙い続けるシアンの姿勢は、俺の羨望の対象でもあるな。
「どしたのクロ。私をそんな視線で――はっ、まさかクロもスリットを入れたくなった!?」
「俺基本ズボンスタイルなんだけど、何処に入れるんだ」
「ズボンも入れられるし、シャツの方に入れても良いんじゃない。腹斜筋が見えてキュートになるよ!」
「せん」
そういった服があるのは確かだし、デザインとして格好良いのもあるのだが……うん、俺は露出する程自分の身体には自信ないな。そういう意味でもこの露出が出来るシアンは羨望の対象である。真似したくはないが。
「ところで、あー……一つ聞きたいんだが」
「スリットの角度と深さのバランス?」
「ちゃうわ。件のヴァイオレットさんなんだけど、どんな感じだった?」
「どんな感じと言うと……」
「料理に前向きかどうかとか、シキに慣れようとして変な方向に行こうとしていないかとか」
先日のシキの領民紹介ではキャパオーバーしかけていたが、どうにか受け入れようと必死であり、何処か諦めにも似た表情が混じっていた。それがどういった意味を持ち、今のシアンに相談を持ち掛けたかが気になる。……なにせ今のシキには“冒険者ではない余所者”が居る訳だし、その人達の目線を気にしての行動なのか、気にしないようにしての行動なのか。同じように普段とは違う視線を感じているシアンならばなにか分かるかと思い、質問してみた。
「んー……無理はしていないけど、追い詰められている感じはしたね」
「追い詰められている?」
「そ。とはいっても慣れていない環境に逃げ道とか、どう行けばいいかの道が分からない、って感じ」
「初めての場所で、今までにない事ばかりだから今までの常識が通用せず、崖っぷちな心情になっている、という感じか?」
「そんな感じ。だからクロは気にしてやりなよー」
……気にしてはいる。どうにかしようともしているし、【悪役令嬢】である彼女が俺の所に嫁いできた事によるあの乙女ゲームの進行状況や、シキの巻き込まれ被害も気になっている。
もちろん俺の妻としてシキに来た以上は出来る限りの事はしたいと思うが、まずは――
「ていっ」
「あいたっ!? ……え、なんだシアン」
シアンが突然俺の頭にチョップを仕掛けて来た。別に痛くはないのだが、突然の事に、つい痛いと言ってしまうほどには不意打ちであった。
「なんか詳細は分からないけど、変な事考えてない、クロ」
「そのつもりはないが……」
「……ふーん?」
俺の返答に対し、シアンは今までされた事の無いような表情でまじまじと俺を見る。……なんだ?
「クロがなに考えているかは分からない。けど、優先順位を間違えたら駄目だよ」
「優先順位?」
「クロが公爵家の御令嬢を妻にして、その影響で貴族の立場とか気にしているのかもしれないけど、まず大切なのはなにか、って話」
どうやらシアンは俺のあの乙女ゲーム関連の思考について、貴族云々について悩んでいると判断したようだ。それも心配であると言えば心配であるが。
だが、大切な事と言うと……?
「イオちゃんも新しい婚約者――家族のために変わろうとしているんだから、クロもそれをキチンと見ないと駄目からね。そうだなぁ、例えば……」
シアンはそう言いつつ、俺の左手を見る。
「なにか新しい門出の物をプレゼントでもしたら? そうしないと、いつまでも結婚しているだけの他人のままだよ?」
……シアンが言いたい事は、なんとなく分かった。
俺の左手にはなにも装飾品がついていない。婚約者……夫婦であれば本来つけているはずの装飾品の輝きは、俺の左手薬指には無い。
――他人のまま、か。
俺は結婚に良いイメージはあまりない。ただこれは全ての結婚という訳ではなく、自分に対する結婚である。
前世でウェディングドレスを作った時は、素晴しい結婚式にしたいと必死で仕上げたし、白の結婚式のウェディングドレス、ないしは白無垢を作るのは俺の一つの夢だった。
ただ、どうしても自分の結婚となると……あまり、良いイメージを浮かべる事が出来なかった。
もしかしたら俺は彼女の事を……
「……俺の心配をする前に、神父様と他人じゃなくなるように頑張れよ」
「男女が同じ屋根の下だから、いずれは……!」
「そう言って何年経つ」
「クロ、正論は時にヒトを傷付けるだけなんだ」
「はいはい」




