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自覚してしまったせいで


 グレイ達の紹介をヴェールさんにして、その場に居る全員で受付を済ませた。

 名前を書いて招待状を渡すと、笑顔で事務的に接している受付の女性の笑顔が一瞬だけ崩れかけていたが、特に気にすることなく会場へと向かう。

 本当に学園の施設なのかと疑いたくなる豪華な廊下を歩くと、すぐさま扉が開かれた大きなパーティー会場へと辿り着いた。


「今夜メアリーと共にあるのは俺だ!」

「いいえ、私です! 私は今宵彼女と共に過ごすのですよ!」

「僕の愛は殿下達であろうと負けはしない! 此処は引けません!」

「ふ、愛は勝ち負けではない、その基準を持っている時点でキミは負けなのだ!」

「おい一文で矛盾しているぞ!」

「メアリーに相応しき相手(パートナー)は俺だ!」

「いや、私だ!」


 本当に争奪戦繰り広げているよアイツら。

 しかも争奪対象である当事者(メアリーさん)が見当たらない中で、だ。

 確かにメアリーさんが居たら居たで博愛主義であるから、皆の相手をする事になって個別で相手する事は出来ない、みたいにはなりそうだが。


「スーは相変わらず人気だな」

「人気みたいですね。あそこまで行くと誰と結ばれても一悶着ありそうです」

「だろうな」


 場合によっては何処かの言霊改造変態貴族のように愛が暴走して変な方向に進む輩が現れそうだ。……あの状態が変な方向と言われたら否定できないが。


「…………」

「どうしました?」


 ふとヴァイオレットさんを見ると、ヴァイオレットさんが騒動とは違う場所を見ていた。というか探していた。殿下はあの愛の告白合戦の中心で発言する度に女性陣にキャーキャー言われているから目立つし、殿下を探している訳では無いだろう。


「いや、少々気になることがあったのだが……そういえばクロ殿には弟君と妹君が居たと聞くが、学園には通っていないのか? 会った様子が無いが」

「ああ、カラスバとクリですか。一応学園には通っていますよ。ただ、俺が会うと親が五月蠅いので会わない……というか会えないだけです」

「……そうか」


 実際は俺が闘技場に出場した時に観客席で目は合ったのだが、それ以上は無い。

 俺はカーマイン(アレ)を殴ったお陰で親に嫌われているので、カラスバ()クリ()が俺に会わないようにと言われているだけだ。

 向こうから接触すれば俺も答えるが、向こうも面倒と分かっているのかあまり接触はしてこない。目が合った時は面倒くさそうに手は振ってはいたが。

 ……ここで急に俺の弟と妹の名前が出たという事は、もしかして探していたのはヴァイオレットさんの家族だろうか?

 一応は多くの貴族も招待されているし、ヴァイオレットさんの父母や兄が居ないかを探したのだろうか。俺は顔とかは知らないけれど、似たような特徴を持つ方を探して――ん? あれは……


「すいませんヴァイオレットさん。ちょっと外させてもらいます」

「ん? ――ああ、了解したクロ殿。私達はあの辺りで話しているからな」


 俺が唐突に外れることに疑問を持ったヴァイオレットさんであったが、俺が会場の方ではなく先の廊下の方へと行こうとしているのを見て、俺がトイレに行こうとしているのだと思ったのだろう。すぐに何処へ行こうとしているのかを察し、適当な場所を示した。

 こういう時にクリームヒルトさんが居てくれてよかった。クリームヒルトさんも目立つかもしれないが、彼女の明るさは周囲の視線を少し緩和してくれるだろう。

 俺は一つ礼をすると、ヴァイオレットさん達と別れ、トイレもある廊下へと向かっていく。


「今付き添えばクロ様の音を独占出来るのでは……?」

「今付き添えばクロ様の香りを補充できるのでは……?」

「よし、追おうかな。肉体を触る機会があるやもしれん……」


 …………。

 俺は一旦引き返し、グレイの所へと行く。


「グレイ、すまない。バーントさんやアンバーさん。そしてレディ・ヴェールの話し相手を頼む。絶対に逃がすな」

「はい。承りましたが……何故急に?」

「詳細は言えない。本当に頼む」

「……?」


 俺はグレイに割と本気でお願いをした。







「で、なにをやっているんです?」

「……クロ、さん。良く見つけられましたね……認識阻害をしていたんですが……」

「まぁ偶々見かけまして」


 俺はトイレに行くふりをして、人通りの少ない廊下の隅で頭を抱えて蹲って居るメアリーさんに話しかけていた。

 服装は先程まで闘技場で来ていた服ではなく白いドレスであった。質の良い布で装飾を大人しめにする事で着ている素材(当事者)の良さを引き立たせるタイプのドレスであり、メアリーさんによくハマっている。


「と言うより、私なんて無視すれば良いじゃないですか……ふっ、私は所詮クロさんの最愛なるお嫁さんのヴァイオレットをゲーム感覚で学園から追い出した悪女なんですから……」

「なんで卑屈になっているんです」


 メアリーさんは急にどうしたんだ。

 ついさっきの戦闘ではアプリコットとハイテンションで戦闘していると思ったのだが、やけに今はローテンションである。


「浮気と思われても知りませんよ……」

「それを踏まえても、知っている方が頭を抱えて蹲っている所を無視してのうのうと会話していたら、ヴァイオレットさんにも申し訳ないですから」

「……そうですか。ありがとうございます、私に気をかけてくださって……」


 感謝の言葉を言うが、メアリーさんは相変わらず顔をあげない。

 ……体調が悪いのだろうか?  よく見ると顔、というか耳まで赤い気がするし、熱でも……あ。


「もしかしてここに居るのって、会場内がメアリーさんの愛を叫んでいるから、恥ずかしくて入れないだけだったり……?」

「……ふふ、えぐざくとまん……」


 何故フランス語。

 ……まぁあそこまで好意を包み隠さず叫んでいたら、逃げたくもなるか。もし俺もメアリーさんの立場であったら……うん、終わるまでこうしているかもしれない。


カラスバ・ハートフィールド 

烏羽(くろ)色髪碧目

ハートフィールド家四男(末弟)。十八歳。学生。婚約者有。

クロのせいで親の監視がきつくなった事によく愚痴る弟。

会うと親が面倒なので会わないだけで、仲が悪い訳では無い。


クリ・ハートフィールド 

(くろ)色髪碧目

ハートフィールド家三女(末妹)。十六歳。学生。婚約者無し。

母に可愛がられているので若干卑屈になっているが、友達は多い妹。

会うと母が癇癪を起すので会わないようにしているが、仲が悪い訳では無い。

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[良い点] 読破しました。 とても素晴らしい作品です。
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