慰安旅行_4(:金糸雀)
View.カナリア
そうして私達はとても遊んだ。
絶品キノコ料理を食べた後は、シキに繰り出し散策し。
子供達がなにやら「大人っぽさとはなにか」と悩んでいたので、私達で相談に乗った後楽しく会話したり。
シュバルツちゃんが新しい商品を仕入れたと言うので商品を見たり、「装飾品に興味は無いですか」と問われたので、悪いとは思ったが「装飾品はキノコを傷付けたりするからあまり興味は無いね!」と言った。どうやら私に綺麗なモノをプレゼントをしたかったようだが、受け取るのは気が引けるし、なにより腕輪とか首輪、耳にタグなどは昔を思い出すから好きではない。しかしそれを言うのは彼を悲しませるのでしたくない。
しかしシュバルツちゃんがならばこちらはどうかと靴を紹介してきたので、丁度良い機会と見比べて悩みつつ、三つに絞った所で最終的な決定をシロガネ君に任せて購入した。
払うと言ってくれたが、「これが好きだと貴方が選んでくれた物を自分で買う事に意味がある」と言うと、しどろもどろになりつつも「そ、そうですか」と納得してくれた。……何故顔を赤くしたのだろう。単に自分の物は自分で買うと言っただけなのだが。
という訳で早速購入した靴を履いて山へキノコ狩りに向かった。
地を駆け木々を抜け時に木に登り。キノコの声を聞いておやつのお弁当を一緒に食べて、見つけたキノコの知識を披露し、キャンプにおけるマメ知識の教習をシロガネ君から受けた。
そしてある時歩いていると足に痛みが走り、気付かれないように振舞ったのだけどすぐに気付かれ、靴擦れしている事を見抜かれた。
男の子に歩きまわった足を触れられるのは恥ずかしかったので断ろうとしたけど、強気な彼に押されて見事な手際で治療をして貰った。
その後は今日の所は帰ろうという話になったので、治療して貰いすっかり治った足で帰ろうとしたが、靴擦れをしているのなら無理に歩くべきでは無いと言われて、おんぶされそうになった。
流石にそれは恥ずかしいと言うと「ではお姫様抱っこで」と、真剣な表情で言われた。私は(あ、これ邪まな目的じゃなく純粋に心配して言っている)と気付き、素直におんぶされる事にした。お姫様抱っこだと顔見られて恥ずかしいからね。
私をおんぶしつつ、戦利品のキノコを持ちながらも態勢が安定して一定のリズムでシキに向かう、という地味だが間違いなく凄い事をされつつ談笑をしていた。
そしてそこで私はふと、気付く。
――あれ、私って彼との距離感に悩んでいたんじゃなかったっけ。
確かにそんな事を悩んでいたはずなのだが、いつの間にかそれを忘れていた。
おかしい、いつだ。いつから思考が入れ替わった。
確か私は家でキノコの紹介をしている間は考えていたはずだ。その後となると……はっ、あのキノコ料理の時か!
キノコ料理の香りにやられて私は悩みを何処かへ置き去ったんだった!
なら仕様がない、なにせキノコだもんね!
「ところでシロガネ君。何処となく心あらずな所があったけど、どうしたんですかいな」
「なんですその口調?」
「エルフだからだよ」
「なるほど」
決してこのままいい感じに談笑していると「あれ、今日の彼と一連の行動って遊びというよりデートでは?」と思ったから話を逸らそうとしたので変な口調になった訳ではない。……決してないけど、顔が見られないおんぶにしてよかった。
「しかし気付かれていましたか、流石ですねカナリアさんは」
よし、話がそらせた。彼が心ここにあらずだったのは確かだったし、遊んでいる最中も何処か気がかりそうだったもんね。
「実は――」
聞く所によると、シロガネ君の家は現在、主さんがシキに家族旅行ついでに従業員の慰安旅行に来ていると聞いた。とはいえ、その旅行中も主さん仕事をするので、何人かは傍で控えて仕事をするそうである。
予定では滞在中のほとんどは傍に居るつもりだったシロガネ君(ちょっと不貞腐れてた)曰く、主さんは現在起きている実家のごたごたが静まるまで、シキに逃げて来たとか。主さんとしては半月から一ヶ月で終わるそうである。
シロガネ君は「本当にその程度で終わるのだろうか。だとしても本拠を離れて良いのか」という気持ちが二と、「主のお考えは自分には及ばないほど高度であり、今回も上手くいくだろうから信じるのみ」という気持ちが八ほどの感情が混じっているようであった。余程主さんを信じているようである。……だからこそ、いきなり自分が傍に居なくて良いと言われた事に不貞腐れているようであるが。普段はザ・大人という感じなのに、彼の表情は何処か子供じみていた。
「……申し訳ございません、愚痴ってしまって」
「あはは、構わないよ。意外な一面見れてラッキーという感じだし」
「そうですか。では、そのように好感度を稼げたので良しとしましょう」
「そうそう、それで良いんだよ。でも主さんがシキに逃げて来た、かー。うーん、やっぱり丁度良いからかなー?」
「丁度良い、と言うと?」
「単純に手を出せないんだよ、今の時期に。半月から一月以内に領主の結婚式がある今のシキにはね」
「……教会と王族が関わる二人の結婚式には、バレンタイン家であろうと手を出し辛いという事ですか?」
「そうそう。それなら仕事しやすくなるからねー」
正式に婚約を果たしたのは書類上ではもう一年も前だが、初めて結婚式をあげるのはもうちょっと後。
褒賞で【教会最高権力者からの婚姻確認状】を貰い、友人として自主的に王族も参加しようとしている噂はたっているのがクロ達のダブル結婚式だ。そんなものを前にしたシキに来た主さん達に関わろうとすればトラブルが避けらない可能性もあるので、高位貴族であればあるほど関わりたくない。ましてやバレンタイン家……ウィスタリア公爵さんは今までのヴァイオレットちゃんへの対応もある。半月から一ヶ月という短期間でトラブルを避ける手段を作るくらいなら、シキに居る間は大人しくさせる。ただ、長期間シキに居る用なら対策には出るだろうが。
ようは主さんはクロの結婚式を利用しているのだろうが……
「――まぁ、妹の結婚式を素直に祝いたいのは確かみたいだから、いっか」
……よし、この件についてはこれ以上考えないでおこう。
難しい事を考えた所で、私にはなにか出来る訳でもないからね。考えるだけでなにも出来ないのが私なのである。精々キノコでクロ達を喜ばせるくらいだよ!
「……カナリアさんは、本質を見抜く目に優れているのですね」
「そうかな? でも、優れていた所でなにも出来なければ――はっ、まさかこの目のお陰で私はキノコに優れている!? なんかちょっと違う感じがする!」
「え、何故です?」
「なんだかエルフって目より耳が優れているイメージない? だから耳の方が優れていて欲しいんだよ、エルフだし!」
「確かに耳が特徴的ですが……その欲求はなにか違いません?」
「え、そうかな。エルフだよ?」
「……確かに、エルフですからね」
「うん、だよね!」
「ですね!」
「……ところでシロガネ君」
「なんです?」
「私の胸部装甲は優れていなくてゴメンね? エルフってそこは豊かじゃない傾向にあるから……」
「? ……?? カナリアさんに優れていない所なんて無いですよ……?」
「わー、本当に分かってないー。でもその分かっていない事こそが、気付かれにくい胸部装甲って事なんだね!」
「? ?? え、本当にどういう事……?」




