慰安旅行_2
「ともかく、シキに歓迎いたしますよソルフェリノ義兄さん方。私がライラック義兄さんと会った件については、旅の疲れを癒してからどうぞ」
「気遣いはありがたいが、流石に兄様と義弟が殴り合った事を聞かずに癒されるほど私は無神経ではないぞ……?」
「……それもそうですね。ですがその件について話すとなると長くなるので、ムラサキ義姉さん達は……」
そこで俺は甥っ子と遊んでいるムラサキ義姉さん達の方を見る。ハッキリとは口にしないが、子供にあまり聞かせるべき内容でも無いだろうから、その辺りをそちらでどうにかして欲しいという事を視線で伝えた。
「……ふむ、そうだな。まずは別荘を整えている従者達に改めて指示を出してから再び来るとしよう。クロよ、今日の予定は?」
「基本的に屋敷に居る予定ですので、来ていただければいつでも」
「分かった。では一旦失礼するが……その前に息子を抱いてみるか?」
「先程抱き上げて、“クロおじちゃん!”と呼ばせる事に成功させたので、大丈夫ですよ」
「いつの間に!? というよりそんなに早く打ち解けたのか!?」
「ソルフェリノ義兄様。私がこうして遊べているのも、クロ殿が打ち解けてくれたからなのですよ。だよねー?」
「うん、クロおじちゃん、イエイ!」
「イエーイ!」
「俺だってハイタッチした事無いのに!?」
可愛らしく手をあげた甥っ子の前に屈んで手を置き、向こうからハイタッチさせるようにすると、まるで目標を叩くかのようにハイタッチしてきた。うむ、可愛い。以前この子の教育方針で揉めたと聞いた時は不安であったが、どうやらこうやって元気に動くくらいには子供らしくいられているようである。
あと、だよねー? と子供に同意を求めるヴァイオレットさん可愛くないか? とても可愛いな。可愛いに違いない。可愛い!
「ソルフェリノ様、出てます出てます。素が出てますよー。落ち着かれてください」
「す、すまないムラサキ。……クロは子供に好かれやすいのか……?」
「いえ、子供に同類と思われやすいだけです」
「それはどうなのだろうか、クロ殿」
俺は子供に好かれるかどうかは分からないが、子供服を作る上で前世では何度か子供と触れ合った事は有るし、白の面倒を見ていた際にも触れ合う事は多かったので、それなりに慣れてはいるのは確かである。同類云々は、その際に友人兼社長に言われた言葉である。
「……なるほど」
「ソルフェリノ様、真似をされようだなんて思わないでくださいね?」
「だが、ムラサ――」
「クロ君が言うのは、目線を合わせるという事であり、幼児のように無邪気に遊んで精神年齢を下げる事ではありませんよ?」
「…………」
「配下の者達の心情もありますから、絶対に、おやめ、ください、ね?」
「……はい」
おお、ムラサキ義姉さんが強い。というかソルフェリノ義兄さんはそんな事をしようとしていたのか。事前に気付いてくれてよかった。
シキの領民でさえ手一杯なのに、ここに来て「御主人様がシキに来て変になった!」とかいうソルフェリノ義兄さん従者達が苦情を入れに来ても困るしな。
「コホン、では私は一旦これで――ああ、その前に」
と、ソルフェリノ義兄さんがわざとらしい咳払いをしつつ、部屋を出て行こうとした所で、なにかを思い出したかのような仕草に見える、自然な、事情を知っている俺やヴァイオレットさんからすれば不自然な仕草を取る。
その様子にムラサキ義姉さんや、秘書兼右腕でもあるシロガネも不思議そうに見ている。
「ヴァイオレット、彼女はいつ頃来る?」
「そろそろうちのアンバーが連れて来る頃かと――おや、丁度よいタイミングのようです」
「そうか。相変わらずアンバーは優秀だな。恐らく時間を合わせたのであろうな」
「ソルフェリノ様、一体なにを仰っているのです?」
「シロガネ、此度の私達のシキに来た目的は避難であるが、従者にとっては慰安旅行だ」
「はい。とはいえ、ソルフェリノ様もムラサキ様も仕事はなされるので、その補助も必要ですから交代制の休みではありますが……」
というか今更だが、従者達はこのシキで慰安旅行として安らいだ生活は出来るのだろうか。……大丈夫だろう、多分。きっと。めいびー。
「ようは、お前にとっても慰安旅行な訳だ。普段の働きを労う必要がある訳であり、プレゼントがある訳だ」
「はい? それは一体――」
「へい、ここにシロガネ君がいると聞いて、私、エルフ的に惨状だよ!」
「!!!???」
おお、シロガネが凄い表情をしている。
やってくれたな、心の準備をさせろ、会えて嬉しい、ドキドキする、お前らもグルか、やったー! と、色々な感情が混じった面白百面相である。
「カナリア、いらっしゃい。そしてここに居るシロガネさんは今から休暇時間らしい。ですよねソルフェリノ義兄さん?」
「その通りだ。という訳でカナリア嬢。うちのシロガネと遊んでやってくれ」
「エルフ的に了解でっす!」
「じゃあ、いってらっしゃーい」
「はーい、いってきますだよクロ! じゃ、行こうシロガネ君。キノコをキノコしてキノコしに行こう!」
「カ、カナリアさん、あ、ちょ、待っ、そ、ソルフェリノ様! ムラサキ様!」
「頑張れ」
「頑張るのですよー」
「よくわからないけど、がんばれシロガネおにいちゃんー!」
三人の主に見送られ、シロガネはカナリアに連れていかれて何処かへ行くのであった。
うんうん、人の恋路を勝手に応援するという、余計なお世話な事をしているなぁ、俺達。でもシロガネはあのくらいしないと「いえ、彼女に直に会うにはクロ様を倒すまで持ち越しです……!」と言って会おうとしないからなぁ。努力の方向が間違っているんだよね。
「ところでソルフェリノ様」
「どうしたムラサキ」
「未だに手紙のやり取りをして居るカナリアちゃんとシロガネは、あんな感じな訳ですよね」
「ああ、仲良い男女だな」
「あれでカナリアちゃんからのシロガネへの感情は、仲のいい男友達であるとか本当ですか?」
「……らしいな。だろう、クロ」
「ええ、そうですね。……なのでシロガネは頑張って欲しい所ですね」
「クロ殿、クロ殿。敵意が出てるぞ。落ち着け」
「すみません。つい」
「……シロガネの恋の成就には障害が多そうですね……」




