慰安旅行_1
「ところでヴァーミリオン、メアリー。王城にはどのような用件で?」
「はい、先日の夢世界と校外学習に関しての……ヴァイオレットの実家の件で少々」
「バレンタイン家で、となると……」
「ええ。本来ならなにかする必要はないのですが、元婚約者としての義理を果たそうかと」
「私はそれのお手伝いですね。ヴァイオレットの友人として。そう、友人として!」
「なるほど。……確かに大変でしょうからね。私も手伝ってはいるので、なにかあれば言って下さい」
「ありがとうございます。そういえばローズ姉さんは、ヴァイオレットの兄君と……」
「ええ、ソルフェリノとは同級生ですね。そのよしみで手紙のやり取りをしているのですが、中々大変そうですよ。ライラック公爵子息の件はやはり辛くはあるでしょうが……彼自身は責任感の強い男性ですから、やれる事を今もやっているでしょうね」
◆
「というわけで妹達よ。しばらく家族でシキに厄介になるからよろしく頼む」
「えー」
シキの屋敷にて。俺とヴァイオレットさんは久方ぶり……というほどでもない、むしろそこまで間が開いてないまま再会を果たしたソルフェリノ義兄さん達を出迎えていた。
突然の速達。そして手紙の内容通りに本当にすぐに来たソルフェリノ義兄さん御一行。ソルフェリノさん夫妻とその息子さん、そしてシロガネに、前回来た時よりは準備をしていたのか、前回より多く居る従者達。ただぱっと見、前回来た人達とはメンバーが違っていた。その従者達はシロガネを除いて今頃シキにある彼らの別荘にて色々な準備をしているためここにはいないのだが……それはともかく、俺はソルフェリノ義兄さんを応接室で相手している訳である。
ちなみにヴァイオレットさんはムラサキさんと一緒に甥っ子を可愛がっている。可愛がっているヴァイオレットさんが可愛いので見ていたいのだが、今はソルフェリノ義兄さんの件が重要だ。
「ええと、ソルフェリノ義兄さん。シキでしばらく厄介になりたいのは分かりました。分かりましたが、理由をお聞かせ願っても良いでしょうか」
「良いだろう。私とて無計画・無責任に妹達の治める場所に来た訳でもないからな。キチンと語ろう」
貴方は前回、無計画気味にシキに来たという前科がありますからね。今回はムラサキ義姉さんがいるから無計画だとは思っていないが、わざわざ来るとは一体なにがあったのだろうか。
理由によっては力になりたいのだが、なにせ義兄さん達はバレンタイン家。ライラック義兄さん達の事や、お子さんの教育方針についてなにか言われたとかなると俺もどうこうするのは難しい。いくら俺が国王陛下夫妻の後ろ盾のような物を持っていたとしても、バレンタイン家はそれを“そのようなもの”として扱う事すら可能なのかもしれないのだから。
「まず、ライラック兄様の件は知っていると思う」
「ええ」
「クロは何処までライラック兄様の事をヴァイオレットから聞いている?」
「彼とは空中で殴り合った仲ですから良く知っています。良い笑顔で“諦めなければ必ず夢は叶う!”とか、言うような割とノリで生きてますよね、彼」
「おい、いきなり私の知らない情報が出て来たんだが」
俺の発言にあまり表情を崩さないソルフェリノ義兄さんとシロガネが困惑の表情を見せた。……彼らは夢世界については知らないのか。その辺りは王都に居る方々に任せているので、何処まで知っているかは分からないんだよな。
「まぁ出会った詳細については後日お話します。そういう事もあった、という事であって、俺はライラック義兄さんの事はある程度はどういう御方かは知っていますし、なにをしたかも聞いています」
「……そうか。後日というより私の説明の後に必ず聞かせてもらうが……ともかく、そのライラック義兄さんの件だ。性格を知っているのなら話が早い」
聞くと、ライラック義兄さんの校外学習の襲撃事件に関しては、封印とか過去の遺産についての精査などもあって詳細については未だに伏せられている事が多い。そしてバレンタイン家としての情報統制も行われている。とはいえ、貴族で諜報に力を入れている家は首謀者が誰なのかは把握しているし、封印を暴くという事をやったのも知っている。そういった事情に疎い貴族でも、「バレンタイン家の長子がなにかやった」という事は把握しているようだ。
「それでいてライラック兄様は……ウィスタリア公爵の言葉など無視し、自分のやっている事をすべて認めて、情状酌量や取引の類を一切行おうとはしていない」
ああ、確かにそんな感じの事しそうではあるな、と思う。
ただロボに乗って王都まで行っていたエメラルドが今朝持ち帰ったメアリーさんからの手紙によると、夢魔法でのクチナシ義姉さんとの事もあってか今は動きがあるようだが……その事は後で話すとしよう。……というか父親の事をウィスタリア公爵と呼ぶんだな、ソルフェリノ義兄さんは。
「その件もあってかバレンタイン家はごたついていて、私の所にもウィスタリア公爵やフェルメールブルー公爵からの連絡や処理などが多く来ている」
……母の事も名前と役職で呼ぶんだな。以前もそうだっただろうか。
それはともかく、ソルフェリノ義兄さんは「思い出しただけでも頭が痛い……」という表情だな。以前と比べると表情が豊かになっている。出来れば喜と楽の表情に豊かになって欲しかったが。
「いくら情があまりない私とて、自分の家系が大変ならば温情をかけたいとは思っている。だから私は頑張った。しかし、ある時思ったんだ」
「なんです?」
恐らくその思った事が今回来た理由になるのだろう。
俺はその来た理由がどのようなものかと、覚悟して聞く。
「めんどい。よし、しばらく避難しよう」
「急にぶっちゃけましたね」
「私の見立てでは半月から一ヶ月放置しておけば後は勝手にライラック兄様達が解決してくれる。だったら私は余計な事をせずに、その間従者達と慰安旅行に出かけようと思ったんだ!!」
なるほど。……なるほど。
「そういう所は、ソルフェリノ義兄さんとヴァイオレットさんって、御兄妹なんだな、と思いますよ」
「待てクロ殿、それはどういう意味だ」
「そうだぞ義弟、どういう意味かを教えて貰おうか」
「テンションが高い時の周囲への気遣い方が、ちょっと明後日の方向に向かっている所です。多分“一般的にはこういう事をすると言うし、ならば私達も真似をしよう!”という感じで来ているでしょう」
「妹よ。お前が普段からそういう所を見せているから私もズバリ言い当てられているではないか」
「兄様、ズバリ言い当てられたからと私の責任にしないでください」




