リクエスト話:騎士団員クロIF_2
※この話は活動報告にて募集いたしましたリクエスト話(ifなど)になります。細かな設定などに差異があるかもしれませんが、気にせずにお楽しみ頂ければ幸いです。
※時期は本編開始時と似た年代(クロが19~20歳)で、クロが退学する事無く騎士になりました。
リクエスト内容「騎士団に入団し騎士となっていたらというIF_2」
俺、クロ・ハートフィールドは騎士である。
騎士は魔法も評価されるが、どちらかと言うと身体能力に重きを置いているため、魔法が苦手な俺でも戦闘における評価は割と高めだ。ただ、剣、刀、槍、楯等の武器を使った方が評価される中、素手での戦いは“泥臭い”という事で、戦い方の評価は低めである。そんな【ちょっと変わった、使い方を間違えなければ使える騎士】が、俺の騎士団での評価である。
「というわけで結婚しようぜ、クロ君!」
「なにがしようぜ、ですかスカーレット殿下」
そんな変わった騎士である俺は、只今求婚されていた。
お相手はスカーレット殿下。学園での二年上の先輩であり、この国の第二王女。なのだが、結婚もせず冒険者稼業をして何処かで旅をしている、といようなお転婆王女である。
そんな彼女とはちょっとしたキッカケで戦いをした後、卒業までなにかと絡まれたり、偶に王都に帰って来た時に絡まれたり、騎士団に入ってからも「残業してるんなら部屋に匿いつつ構って!」と絡まれたりした。……絡まれてばかりだな、俺。
まぁともかく、そんな彼女と俺は仲は悪くない。むしろ良いと言っても良いのではあるが……
「あの、スカーレット殿下。俺と貴女とでは身分に差が有り、こうして話すだけでもあらぬ誤解を受け、御身に不都合が生じるのです。そのような事は冗談でも控えて下さるとありがたいです」
俺は準男爵家の三男坊。家督を継ぐような立場でも無いし、政略結婚でも相手方にお願いして婚約を結ぶような地位の男だ。
対して相手は、いくら冒険者稼業をやって行動力溢れる噂や逸話があるとはいえ、現国王の三人目の子、二人目の娘だ。
……まぁ親の件でちょっとしたことがあるとは言え、そのような相手と釣り合う訳ないし、本人が認めたとしても周囲がまず認めないだろう。
というか多分本気じゃ無いだろう。多分結婚の話題を聞いたので、俺を揶揄っているだけなんだと思う。
「いいや、私は本気だよクロ君。私とロイヤル結婚しよう!」
そう言うとスカーレット殿下は俺の手を取り、胸の前に持ってくるとそのまま両手で包み込む。
「も、申し訳ございませんが私は王に仕え、国民に奉仕する王国の騎士です。守るべき立場の者が、そのような誘惑を受ける事は出来ません」
予想外の行動に戸惑いつつ、出来るだけ平静を装いつつ、あくまで騎士として接する。
彼女がどのような理由でこの奇行に走っているのかは分からないが、キチンと断りを入れて場を流さないと、下手したら俺だけの問題ですまないので頑張らなければ……!
「余計な事を考えなくても良いの。クロ君は国の騎士だけど、今後は私のロイヤルバストやロイヤルヴァージンを守護する上に自由に出来る専属騎士になればいいの」
え、これ下ネタ? それとも身近で身も心も守護してくれという本気のお誘い?
「……あの、なにがあったんです?」
「あったと言えばあったよ。それはともかく結婚しようクロ君!」
すげぇ、なにかあった事を認めた上でごり押しして来やがる。
「タン君。ほら、貴方からもクロ君を説得して!」
「え、あ、お――私からですか?」
「うん。この、王族からの結婚というロイヤルラッキーな申し出を遠慮しようとしている親友を説得してあげて!」
「え、ええと……クロ、たいへんめいよなことだぞ。それをことわるなんてきしとしてそれでいいのか」
もうちょっと演技頑張ろうぜ親友。あと立場上断れないだろうけど、こっちの味方をして欲しかったぜ。
ちなみにタンはスカーレット殿下が俺に絡んでくる際に何度も傍に居たため、スカーレット殿下からも割と気安く呼ばれている仲である。あまり表立っては接しないが。
「も、申し訳ございません。大変名誉でロイヤルラッキー? な事ですが、唐突にそのような事を言われても私は受ける事は出来ないのです」
「そっか……急な事だもんね。結婚の話が聞こえたから、これ幸いと話をしたけど、流石にいきなり過ぎたか」
「分かって頂けたのならば嬉しい限りで――」
「じゃあいきなりじゃないくらいに、これから何度も求婚するからよろしくね」
「はい?」
「それじゃ、よろしくね!」
「え、あ、スカーレット殿下!?」
スカーレット殿下はそう言うと、俺の手を放して部屋を出て行ったのであった。
……なんだったんだろうか。
「……なんだったと思う、タン?」
「普通に王族からのプロポーズじゃね? 良かったなクロ、相手の家格が全く問題無い女性からの求婚だぞ!」
「それだけ不敬で捕まりそうな言葉だな……」
「というかクロは嫌なのか、スカーレット殿下は」
「評価する立場にはないが……まぁ綺麗な御方だし、性格も明るくてなにかと話は合うし、俺には勿体無いほどの女性だよ。だから俺には不釣り合いだ」
「不釣り合いについては、流石に卑下し過ぎとは言えないな。だからこそ一世一代のチャンスを逃したかもしれんぞ」
「うるせ。余計な事を話す前に、今日の仕事を終わらせるぞ」
「うぃーす」
と、タンとそんな会話をしつつ仕事に戻る。仕事が終わったのはちょっと遅めの夕食を摂れる程度の時間であり、タンと一緒に夕食を摂って、一旦テラコッタに挨拶をした後そのまま飲みに行くのであった。
◆
「ハートフィールド第三騎士団シュバリエ。スカーレット殿下推薦の元、クレールコマンドール及びギンシュサブコマンドール両名による、下命だ。スカーレット殿下の護衛につけ」
「アイサー! ……断れませんかね、我が第三騎士団団長」
「気持ちは分かるが、無茶言うな」
「俺が居ないとまだ第三騎士団の会計や書類関連が面倒になりますよ!」
「それも困るが、俺が殿下と総合団長達に逆らえる訳ないだろう! 安心しろ、前みたいに戻るだけだ! むしろお前が流れを作ってくれたお陰で前より楽になってるからな! 居なくても安心できるさ!」
「くそぅ、これが長引いたら勤務実態を暴露してやるからな!」
「その気持ちを今回の命令にぶつけて行け!」
と、いう訳で休み明けに第一騎士団がしそうな仕事を急に俺に命令されて。
「さぁ、今日から護衛よろしくクロ君。私の私生活を知って、仲を深めて結婚しよう」
「勤務中です」
スカーレット殿下の護衛になって、再び求婚された。なんでや。
「ところでクロ君」
「はっ。何用でございましょうか、スカーレット殿下」
「クロ君って街外とかで討伐仕事をする第三騎士団所属だよね」
「はい。そうですが」
「じゃあ一緒に仕事しにいこっか!」
「はい? ――あ、待って下されスカーレット殿下!?」
そして護衛をしているのに第三騎士団の仕事をしたりした。なんでや。
「で、どういう事するの?」
「ええと、情報収集と情報のすり合わせ。生態系の調査と、痕跡採集。モンスターまでの道の確保とかをしますが……」
「ふーん、その辺りは冒険者と変わらないね。よーし、討伐しよう!」
「……おいクロ」
「なんだタン」
「なんで特務を受けてるお前と俺が一緒に仕事しているんだ?」
「知らん」
そして俺とスカーレット殿下は、第三騎士団と一緒に依頼にあったモンスターを討伐した。なんでや!
「騎士団の仕事ってこんな感じなんだねー。……姫騎士か。良いね」
「お願いしますからおやめください」
姫騎士なんて前世の物語に出て来る存在だけで充分だ。そんなスカーレット殿下の思い付きのような言葉と行動に振り回されつつも、俺は騎士として仕事をこなしていった。
「……スカーレット殿下、何故私と結婚したいなどと言いだしたのです?」
そして護衛として仕事をしていたある時、他に誰も居ないのを見計らってそんな事を聞いてみた。
人目がある時に求婚はしないが、相変わらず結婚しようとは言って来るし、俺個人を急に護衛に連れて回せば「もしやあの者と……?」というようなあらぬ噂も立つ。その噂も分かって……というより、狙っているのが分かる。
つまり俺が認めれば本気で結婚を進めようとしている。……何故、俺なんだろうか。
「なんとも思わない男と結婚するくらいなら、騎士になった、仲の良い君と一緒になりたいと思った。……それじゃ、駄目?」
「では、俺に求婚した日、それが目的であの部屋に来たんですか?」
「最初はちょっと結婚話を進められたから、ストレス発散に話に付き合って貰おうとしただけだったんだけど……」
「けど?」
「君の“俺と結婚する相手が可哀想”という話を聞いたら、目的が変わっただけだよ」
「……何故です? 自信のない男なんて、貴女からしたら鬱陶しいだけだと思うのですが」
「それはそうかもだけど……私だって、別に誰でも良いから結婚したいと思う訳じゃ無いんだよ?」
「そんなに想われる程の事を、俺はしましたっけ?」
「そうだね、それは……騎士の君が格好良かった、からかな」
「熱があるのです?」
「ないよ。誰かのために、国民のために、間違っている事を許せず、例え表に出なくとも、誰かが笑顔になればそれで良い。……そんな騎士の姿の君を、良いなと思った。それだけだよ」
「…………そう、ですか」
「あれ、照れてる? ロイヤルな褒め殺しに照れてるクロ君!」
「はい。……現殿下の中で、一番褒められたら嬉しい殿下に褒められ、認められたのです。騎士としても、個人としても嬉しいですよ」
「そ、そう。じゃあ結婚しよう!」
「それとこれとは話が別です」
「なんで!? あらゆるロイヤルを味わえるのに、なにが駄目なの!?」
「私が騎士で、貴女がロイヤルだからですよ」
「じゃあ一緒に身分を捨てて逃避行&結婚しよう!」
「弟達に迷惑がかかりそうなので遠慮します」
「くっ、この分からず屋め……!」
「……いずれ騎士として貴女に相応しい活躍をした時、貴女の気持ちが変わらないでいたら、その時にお願いします」
「いや、待てない。ちゃっちゃと結婚しよう」
「折角格好つけたのに、無視せんでください!」
「ただでさえ行き遅れになりかけているのに、そんなに待てないよ! ええい、こうなったらロイヤルロストヴァージンをここでしてやる!」
「やめんか!!!」
……俺の騎士としての物語は、まだまだ波乱と困惑に満ちてそうである。




