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母性相談_1(:菫)


View.ヴァイオレット



「恋愛相談をしたい?」

「ハイ」


 クロ殿がトウメイにほぐされて、今までにない表情をして癒された後に、羞恥を隠しつつ外へと仕事に向かった日の午後。トウメイに簡単なマッサージのコツを教えて貰い、ついでに私やバーントとアンバーに肩もみをした後。突如窓から現れたロボは、私が中に招き入れるなり来訪の要件を言ってきた。


「スミマセン、突然このような事を言うナンテ」


 そのように言うロボは、年齢相応の表情をしながら、照れつつも何処か申し訳なさそうにしていた。顔を見せるようになり、私にも見せるのを慣れ始めたロボは表情が読み易くて可愛いらしい。こうして見ると私より年下なんだな、と改めて思う。


「突然で驚きはしたが、構わない。喫緊の仕事がある訳でもないからな。バーント、紅茶を淹れて来てくれ」

「こちらです」

「……早いな」


 ロボが来てから部屋を出て行った気配がないバーントは、既に私の分も含めた紅茶を淹れていた。予見していなければありえない速度であったが……いや、今はそれよりもロボの相談だ。この、今までとは違う表情をしているロボの話を聞かねば。


――恥ずかしい、という様子だが、なんだか……


 ロボの表情は、照れつつも何処か申し訳なさそうだ。申し訳ないのは急に来た事に対する、私に対する感情だろう。そして照れに関しては、恋愛の話をするから……というのもあるが、なにか違う意味も含まれているように見える。


「エット……ソノ……」

「ゆっくりで良い。紅茶もあるのだから、飲み干すまでに言いたい言葉を考えてくれ」

「ありがとう、ゴザイマス……」


 その証拠というべきなのか、ロボは向こうから来たにも関わらず、なにを話せば良いか、そもそも話すべきなのかと悩んでいる。それは恋愛の相談の対象であろうルーシュ殿下を想っての事……も含まれるだろうが。


――自分の行動に関する事、か?


 恋愛において自分が変わろうとしているから、このように言い淀んでいる。相談なのだからそれ自体は不思議ではないのだが、何処となく……勢いで来てしまった、と言うように見えるのである。これから話す事は本当に自分に出来る事なのだろうか、というような不思議な感じが……?


「実は……ヴァイオレットクンには、相談というか、アドバイスを頂きタクテ……」


 と、観察もここまでだ。ロボが紅茶を一口飲み、決意を持って私への相談を始めた。


「私に答えられる事があるのなら、遠慮なく言ってくれ」


 ロボにはシキに来た当初から世話になっている友人であり、恋を応援する立場でもある。決意に対しては応えたいし、求めるものが私の出来るアドバイスというのなら喜んで力を貸すとしよう。


「ハイ、では遠慮なく聞かせてクダサイ」

「うむ」

「ヴァイオレットクン――どうすれば母性を持つ女性になれマスカ」

「うむ?」


 ……おかしい。私は恋愛相談を受けていたのではなかろうか。


「まずはそのように思った理由を聞かせて貰って良いだろうか」


 だが、私が知らないだけで、実は恋愛相談というものには母性を相談するというのはおかしい事ではないかもしれない。そう思った私は紅茶を一口飲んで平静を保ちつつ、何故そう思ったのか理由を聞く。


「ハイ、実は先程――」


 聞くと、先程ロボは突如母性が増したマゼンタさんによる、母性の海に沈んだそうだ。それだけでもよく分からないのだが、ともかくマゼンタさんの母性には抗いがたい安心感と誘惑があったとの事。その安心感と誘惑を自分も得る事が出来ないのか。そのようにロボは思ったようだ。


――その場にヴァイスでも居たのだろうか。


 ロボはハッキリとは言わないが、そのマゼンタさんの……母性の海? の場にヴァイスもいたように思える。自分にとっても抗いがたい安心感があったのは確かだが、同じように安心感を得ていたであろうヴァイスの様子を見て、“これは男の子に有効なのでは……?”と思い、ならばルーシュ殿下にも有効だと思い、居ても立っても居られなかった。

 だが、すぐに学ぼうと勢いに任せて来たまでは良かったのだが、来た所で「この内容は話すのは恥ずかしいのでは……?」と冷静になってしまった。という所か。


――微笑ましいな。


 私の予想が全部当たってるわけでは無いだろうが、似たような状況であった事は確かだろう。それはロボにとって“居ても立っても居られなくなる”ほどの感情を有していたという事になる。その恋に対して積極的になった事が私にとって微笑ましく、そして嬉しかった。


――微笑ましく、嬉しいが……


 しかしここで一つ疑問がある。それは……


「なるほど、理由は分かった。だが何故私なんだ?」


 母性であれば子が五人いるブルーさんや、それこそマゼンタさんに聞いた方が良いアドバイスを聞けると思う。

 だが、ロボは私の所に来ている。他の者の所に来る事なく、私の所に真っ先に来ているように見える。……何故私なんだ? 年齢が近くて相談しやすかった、とかだろうか。それなら悪い気はしないが。


「エ。だってヴァイオレットクン、最近母性が溢れて――ナンデモアリマセン、年齢ガ近クテ相談シヤスイノデ」

「よし、ロボ。相談の前にそれについて詳しく聞かせてくれ」


 確かに私にはグレイという愛息子は居る。母親ではある。

 ……けど、なんだろう。今の私がそれを言われるのは、十六歳という実年齢より遥かに年上だと言われているような複雑さがあった。


ヴァイオレット・ハートフィールド

十六歳

女性の平均身長より高く、胸が多きめで成長も早く、凛とした佇まいのお陰で昔から大人びて見られる事が多かった。

今も息子を持つ母親であるので、母性があるのは良い事だとは思うのだが、それはそれとして今回の相談内容で真っ先に相談対象として思い浮かべられるのは複雑な年頃のようである。

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[一言] みんな迷走しすぎだべさ
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