恋愛相談?_5
「ねぇ、さっきまで私達を覗いて楽しんでいた覗き癖があるクロ君」
「なんでしょう、先程まで甘えさせる事に喜びを覚えていたマゼンタさん」
「恋愛相談しても良いかな」
「俺でよければ喜んで。ただし俺の恋愛遍歴はヴァイオレットさんと物語上のものになりますが」
「あははは、私の恋も愛も、失ってから“私にもあったかもしれない”と思うような女だから、私よりは大丈夫だよ」
「……反応に困ります」
「実は私ねー」
「進めるんですね。なんですか?」
「今だから言うけど、シキに来た当初はクロ君を寝取ろうとしたんだ」
「はぁ」
「反応薄いね」
「散々閨へ誘って貞操を狙っておきながら“ええ!?”とかいう反応を貰えるとでも?」
「そこは“マゼンタさんは実は清純ですからね。アレは本気で無いと思っていましたよ!”くらいの反応が欲しかったよ」
「自分で清純って言うのって既に清純じゃないですよね」
「そうだねー」
「……まぁ、誘いはしても、口で言うよりは身持ちは軽くないとは思っていましたよ」
「ほう、それはなんでかな?」
「それは……今は良いでしょう。話がそれます」
「あははは、そうだね。私がクロ君を寝取ろうとした理由はね、単純に知りたかったから。今までの好意が息子に伝わっていなくて、娘にも伝わっていなくて。というか私なりに愛を捧げていたと思っていた国には、国を担う上層部に厄介者扱いされた事に気付かずにいたから私の夫と息子を殺されて、いなくなった途端に連れ戻そうとしている動きがあると兄さんに聞いて虚無感に包まれるとはこういう事かと――」
「ストップ」
「おっとごめんね。まぁともかく、虚無感を募らせながらも私の中には、私なりの“好き”があった。けど、今まで通じていなかったから、学び直さないといけない」
「……もしかしてですけど、俺を寝取れば、ヴァイオレットさんに伝えた様にマゼンタさんにも愛の伝え方を教えてくれる! ……みたいに思ったんですか」
「あははは、そんな感じだね! 身をもって私を止めに来てくれたクロ君なら教えてくれる! と思ったよ」
「……そうですか。ですが今は違うんですよね」
「まぁね。シアンちゃんとかスノーホワイト神父君とかと話して、奪うだけでは駄目だと分かったよ」
「そして与えるだけも駄目だと分かったんですね」
「そういう事。正直寝取る云々思ったのは、本当に初日とかだけ。……自分の気持ちを伝えるためには対話が必要だと学んだよ。言葉では表面上を理解していても、経験として学んだのはシキに来てから。……そんな簡単な事をシキに来てから学んだ。そして……」
「そして?」
「私に好意を抱いてくれる少年に、狙いを定めたの。好きを伝える方法の相手としてね」
「一応言っておきますが、同意が無いと分かった瞬間に俺は全力で止めますからね」
「同意にさせれば良いという事だよね」
「ニュアンスがめっちゃ気になりますが、まぁそうです、かね?」
「ハッキリ言って彼には最初の方はそんな感じだった訳。後は、まぁ……好意を持ってくれるなら返したい、と思った感じかな。だから私はまず伝え合う手段として性的に交流をしようとした」
「……はい」
「なにせ失ってから気付いた私の愛だけど、夫との間には愛があったと思う。愛していたと思う。他の男性と夫の好きとで明確に違うのは、性的交流。ならば、少年相手にそれをすれば愛を伝える手段が分かるのだと思ったの!」
「同意が無いと分かったら俺は全力で止めますからね」
「大丈夫、同意だよ同意。なにせ彼は私を“エッチな目で見ている!”と断言したからね」
「確かにそうかもですが」
「というかシアンちゃん達に止められたから、隙が無ければ元々しないようにはしてたけど……」
「隙があってもしないでください。ですが、けど、なんです」
「時が経つにつれて、段々彼と簡単にするのはなにか違うなーって思ったの」
「ほう?」
「もっと違う所で親睦を深めて、仲良くお互いを知りたいなーってね」
「ほほう」
「もしやこれがシアンちゃんや、クロ君が味わっている恋に近い感情なのか、やった私も恋を手に入れたぜ! って思ったの」
「そこでそう思うのはなんか違う気もしますが、一緒に“彼”と過ごす事自体が楽しくなって来た訳ですね」
「そういう事。そして私もこれなら今までのように間違えない! ……と思ったんだけど」
「また、けど、ですか。今度はなにが?」
「……夢世界でさ」
「はい?」
「……夢世界でさ、スカーレットと会ったんだ。クロ君と出会っていない成長をしたであろう、娘とね。クロ君は会った?」
「いえ、会ってはいないですね。そのスカーレット殿下はあの世界でどのような感じで?」
「虚無ってた」
「きょ……?」
「スカーレット、凄く虚無ってたの。所詮、人間がやる全ての事は無に帰するのになんで皆は楽しそうに生きているんだろう、的な感じだった」
「え、ええ……? あの俺に笑顔で“殴り合おうぜ!”とか言って来るスカーレット殿下が、そんな……?」
「あははは、驚くよね。でもクロ君も無関係じゃないんだよ」
「はい?」
「クロ君と出会ってなかったらああなっていた。そう思わざるを得ない感じだったよ」
「俺の影響を買いかぶり過ぎじゃありません?」
「適正評価と言って欲しいよ。悪いけど、これはいくらクロ君が否定しても、私は肯定を崩さない」
「は、はぁ。ではその評価は受け取らせて頂きます。……そしてそんなスカーレット殿下と会って、なにかあったんですか?」
「……私って、甘えてたんだな、ってね」
「甘えてた?」
「スカーレットが今みたいに明るくなって、エメラルドちゃんに恋をしたのはクロ君がいたから。ヴァーミリオンが今みたいに王族として前を向けたのは、メアリーちゃんがいたから。……そこに親としての私は、関与していない。あははは、むしろ救う前の足枷要素にしかなって無かったよ。だから私は、…………」
「そんな私が、恋をする資格は無いと思った、ですか」
「……うん」
「失敗した自分は若い子達の傍に立つ資格はない。だから受け入れて甘えさせてくれる……いざという時に逃げ場になれるような、本当の意味での受け入れられる存在になろうとした、と」
「……そうだね。今更ながら、少しでも皆の母のようになりたいと思ったよ」
「それで、ブラウン君にあのように言われた訳ですか」
「そうだね。まさか敵意まで見せられるとは思わなかったよ。怖かったなー。……でも、逃げてたのは事実かな」
「なにから逃げてたんですか?」
「あははは、クロ君。分かっていて言わせるのは趣味が悪いぞー」
「…………」
「あははは……そうだね。私は逃げた。心の何処かで、私なんかが彼と恋をするなんて、今更ムシが良いと思ったていた。夫を愛していると言ったのに新しい恋なんておかしいと思った。愛しい息子の代替として見ているんじゃないかと思った。そんな言い訳が、逃げる後押しをした。……今思えば、理由を見つけたんだろうけどね」
「……だからブラウン君の問いかけに、なにも言えなかった訳ですか」
「そういう事。私は五分の一以下の年数しか生きていない子に言い負かされちゃった。あははは、過去の清算、か。そこは全く自覚なかったよ。自覚なかっただけで、言われたらグサッと刺さっちゃったけどね!」
「……マゼンタさん」
「なにー?」
「恋愛相談というのは、自分が恋に生きるべきなのか、夫と子への愛を貫き皆の母のようになるべきなのか、という事ですか?」
「後は逃げるべきか、今決める事でも無いのか、とか色々あるけど、大まかにはそうだね」
「なるほど」
「言っておくけど、自分の気持ちに従えーとか、自分で考えろーだとクロ君の貞操をこの場で狙います」
「やめんか」
「あははは、私は自分の気持ちがよく分からないのに、そんな事言われたらそうもしたくなるよ!」
「そうですか。……まぁ意見の一つだと思って聞いてくださいね」
「うんうん、なにかな。私の人生初の、恋愛相談の答えを聞かせて!」
「ヴァイス君への恋を優先すれば良いと思いますよ」
「…………」
「どうしたんです」
「いや、まさかそう言われるとは……ちょっと意外だったかな、って」
「そうですか?」
「うん、クロ君ってもしヴァイオレットちゃんと死に別れとかしたら、一生その愛を引き摺って誰とも恋愛しそうになさそうなくらい、愛に重くて、一途な愛を良しとしていると思っていたからね」
「どういう印象ですか。というか、その言い方だと、愛の方を優先するべきだと言うと思っていたみたいですね」
「あるいは曖昧な回答にするかなーって。最後の一押しは自分で決めろ、的な?」
「貞操が大事なもんでね。思った事はハッキリと言いますよ」
「あははは、そっか。……でも聞いて良いかな、なんでそう思ったのか」
「先程マゼンタさんは口で言うほど身持ちは軽くないと言いましたよね」
「うん」
「その理由は、貴女は夫の事を愛していた、というのは伝わっていたからなんですよ」
「……それだけ?」
「はい。“それだけ”で貴女は充分ですから」
「……そう見えた?」
「とても」
「……そう見えると、身持ちが軽くない?」
「貴女は自覚がないだけで、好きと言う感情は重いんですよ。なにせ貴女は夢魔族なのに、性的交流とやらで、栄養補給をせずに子供を身籠れるんですから」
「……あははは、そういえばクロ君も聞いたんだっけ。それ」
「はい。そんな貴女が新しい恋を見つけそうになっている。そしてそれは過去の愛を忘れた訳でなく、忘れない上での恋なんです。そのようなものは、俺としては応援したくなるものですよ」
「……そっか」
「はい。ですが」
「意見の一つにすぎない、でしょ」
「そういう事です。そもそも俺的にはそうやって悩んで、ブラウン君に指摘されて、“どうすれば良いか”と相談してくる時点で、新しい恋を優先したいと思っていると思うんですがね」
「……そっかー。ねぇ、クロ君。もう一つだけ聞いても良い?」
「なんでしょう」
「今まで通りに攻める私と、さっきまでみたいな母性全開な私。どっちが攻めには良いと思う?」
「先程までの母性全開は、恋愛で狙って出来るもんなんですか?」
「あははは、私を誰だと思ってるの。実の兄を篭絡し、貴族としては行き遅れの年齢になっても引く手数多だった女だよ。攻めなんていくらでも狙ってできる物なんだよ!」
「そうですか。ではヴァイス君の名前も呼べますよね」
「えっ」
「先程から“彼”とか“少年”とか言ってますけど……意識してしまって、名前で呼ぶの恥ずかしがっていませんか?」
「……ソンナコト、ないよ」
「……マゼンタさん」
「言わないで」
「もしかしなくても、意識すればポンコツになるタイプですか?」
「言わないで!」
おまけ
「ところで恋愛ポンコツマゼンタさん」
「あははは、なにかなクロ君。貞操狙っちゃうぞ?」
「先程ブラウン君が怖いと言ってましたが、そんなに怖かったんですか? 俺、あまり見えなくて……」
「そうだね。あのまま戦闘に入ったら負けちゃう、って思うほどにはね」
「まぁ虚を突かれて動けずにいましたからね。いつも通りだったらそんな事はないのでしょうが」
「なに言ってるの。ブラウン君って、あの状態で本気出せば私じゃ敵わないよ?」
「え。……え、マジですか? マゼンタさんが?」
「うん、出来て善戦かな。後から“善戦できていたよ”と評価をされるような、そんな強さを持っているからね、ブラウン君は」
「……マジっすかー」
「あははは、マジっすよー」




