恋愛相談?_1
トウメイさんに肩もみをして貰い、極楽に包まれみっともないほどのだらけた表情をした日の午後。ヴァイオレットさんに微笑ましそうに「気持ちよさそうだったな」と言われたので、気恥ずかしさから午後は外で仕事をしていた。
「恋愛相談?」
そして外で仕事をして、軽い肩を回して気分も軽くなった後に先程の痴態を思い出して仕事に没頭するという事を繰り返していると、神父様に声をかけられた。初めはなにかあったのかと不安そうにしていたのだが、なにも無いと言って話題を逸らすと、そのような相談を受けたのである。
「なんだ、マリッジブルーか、成田さんか? 結婚前にシアンとの結婚生活が不安になったのですか神父様」
「NARITA? いや、違う。確かにシアンは素晴らし過ぎて相応しい男になるためには不安もあるが、それを補うほどに結婚生活への希望に満ちている!」
「おお、そうか。ならそれをシアンに伝えてやってくれ」
「そうだな、この後伝えよう!」
すまない、シアン。俺のせいでシアンの嬉し恥ずかしメーターを振り切らせる事になってしまった。
「って違う。俺ではなくヴァイスの事だ」
「ヴァイス君?」
ヴァイス君の恋愛相談……というと、どうしてもあの見た目はともかく実年齢を考えると犯罪臭しかないマゼンタさんを相手に、というのが思い浮かぶ。なんだかんだヴァイス君も悪い風には思っていないようだし、後押しできるのなら後押ししたい。
けど外野がどうこうする問題でも無いとも思う。助力を請われれば応えはする。年齢(と身分や彼女の子供達)の問題があるのは避けられない事ではあるが、本人がそれでもと望むのなら俺が出来る範囲で協力もする。マゼンタさんが無理にというのなら全力で阻止し、ヴァイス君の別の恋路を邪魔するならマゼンタさんを俺は邪魔する。勝負を仕掛けたり実力で誘惑しようというのなら、俺は強くは言わない。
俺のヴァイス君関連の恋路の認識はそんなものだ。なので相談を受けたらアドバイスもするが……
「まぁ神父様……スノーがわざわざ言うのなら、無理に周囲で盛り上げる、ということではないんだろうけど、何故急に?」
神父様は誰かを助けたいという気持ちが先行し過ぎるきらいはあるとはいえ、変に盛り上がって対象の事を無視し、喜ばせようとなにかを勝手に進める事はあまりない(ない訳ではない。去年のシアンの誕生日とか)。そして基本的に周囲の力を借りずに、自分で出来る事は無知な事でも自力で解決しようとする傾向がある。
なので、今回のように助力を求めると言うなら、自分ではどうにもならないというように判断したであろうと思うので、友人として力にはなりたいと思う。しかし理由はキチンと聞いておかねば。
「実は最近、マゼンタの様子がおかしくてな。それに対してヴァイスが戸惑っているんだが……」
鈍い神父様がそう思うとは、余程変な様子なんだな、マゼンタさん。なんだろう、突然スリットをやめて清純に目覚めたのだろうか。だとしたら嬉しいんだが。
「その戸惑いのせいなのか、ヴァイスのマゼンタへの態度もおかしいというか……俺の直感ではアレは恋愛絡みだと思う。だが、正直言うと俺はヒトの機微には疎い。なにせシアンの恋心にも数年気付かなかった男だからな」
「うん、まぁ……そうだね」
「ともかく、悩んではいるようだからそれとなくクロが恋愛相談、ないしは戸惑いの元を聞いてはくれないだろうか? 一緒に住んでいる俺には無理でも、クロになら相談できるとかあるかもだし……」
「それは構わないが、上手くいかなくても文句は言うなよ」
「頼んでいる立場で文句は言わないさ」
まぁそういう事ならやるだけやってみるとしよう。ヴァイス君の力にはなりたいしな。
ただそうなるとマゼンタさんがおかしいという内容を聞いて……いや、聞かないでおこう。それを知っていたら「なんでそれを知っているのですか?」とか思われるかもしれないし。あくまでも事情を知らないという形で俺は相談事がないかとそれとなく聞いてみる事にしよう。
「じゃ、早速ヴァイス君の所に行きたいんだけど、件の彼は何処に居るんだ?」
「先程子供達と一緒に広場で遊んでいたのを見たが」
あら微笑ましい。あの何処か遠慮しがちだったヴァイス君がそこまで馴染んで嬉しいものだ。
「毒草の研究、空を飛んだり、眠りながら抱き着かれたりと大変そうだったが」
もう少し微笑ましい気持ちでいさせてくれ。ある意味微笑ましいかもしれないが、ヴァイス君めっちゃ振り回されているやんけ。
「じゃあその遊び……遊び? の様子を見て、それとなく話してみるよ」
「ああ、頼む。……ところで、クロ。先程なにかに悶えるような仕草を取っていたが、なにか理由が――」
「あ、シアン! 丁度良い所に来た! 神父様がなにか伝えたい事があるらしいから、後は宜しく!」
「は、え、なに急に、ちょっと待ってクロ!?」
すまないシアン。後でお詫び位はするから、ここは代わりになってくれ。
俺は心の中で謝りつつ、愛の叫びと愛に悶えるような声を、去り行く中に背後から聞きつつ広場に向かうのであった。
…………。
…………。
「よし、帰ったら俺もヴァイオレットさんに愛の告白をしよう」
と、ついでに俺はそんな決意もした。
勝ち負けではないかもしれないが、あんな姿を見せられたら俺だって負けずに愛を伝えたくなるものだからな!




