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始まりは快適報告


「へい、クロ君。マッサージしてあげる、ゼ!」

「何故急に」


 夢世界のような謎の学園から脱出すると無事シキに戻り、戸惑いながらもメアリーさん達からの様子の知らせを待ちながら仕事をしていたある日の午前。首都に行っていたはずのトウメイさんが俺とヴァイオレットさんが居る執務室にやって来てそのような事を申し出て来た。

 全裸の女性にマッサージをされる。それはなにかのプレイなのではないかと思うと同時に、全裸マントは本人的にも不本意だろうし、善意で言っているのなら無碍には断れない……いや、普通に断った方が良いな。流石に妻帯者として、善意を相手にしても線引きというものは重要である。


「俺は良いですから。もしもそれでもしたいというのなら、ヴァイオレットさんにお願いします」

「いや、クロ君の心労を考えて、クロ君にしたいんだけど駄目かな」


 心労と言われると思い当たる節はいくつもあるのだが、何故今になって言うのだろうか。首都でなにかあって、ふと思い立ったとかそんなのだろうか。例えば向こうでマッサージの秘訣を学んだとか……


「私の手にかかれば、【解法】を用いてコリを元から解して痛みを無くす事が出来るよ! 直に届くコリへのマッサージも可能!」


 なにそれめっちゃ受けたい。身体は若いのでまだ大丈夫だが、凝っている所は凝っているし……はっ、イカン。誘惑されるな俺。


「お言葉だけ受け取っておきますよ。ありがとうございます」

「気持ち良さに喘ぎ声が漏れちゃうかも!」

「俺にそんな事を言ってなびくとでも――はっ、ヴァイオレットさん。今“折角の申し出だから、まずは肩もみだけでも”と言おうとしていませんでしたか?」

「な、なんの事だろうか」


 くそ、まさか今の申し出は俺じゃ無くてヴァイオレットさんを焦点にした誘いだったとは。……いや、それもおかしいな。旦那が他の女によってそういった声を出すのを良いと思うものなのだろうか。でもヴァイオレットさんは今……よし、気にしないでおこう。


「しかしトウメイ。急にそのような事を申し出るとは、なにかあったのか?」


 と、ヴァイオレットさんが狼狽えた様子からいつもの凛々しい雰囲気に戻り、トウメイさんに俺も聞きたかった事を聞く。


「……まぁ、色々あってね。聞けばクロ君達もなんか学園の残滓? みたいな所に行ったってメアリー達に聞いたから、私なりに癒してあげようと思っただけだよ」

「それなら私は癒してくれないのか?」

「クロ君はなんかカーマインに愛を囁かれたって聞いたから……」

「クロ殿、肩もみだけでも受けたらどうだ?」

「絆されるの速すぎません?」


 いや、確かにいつの間にか拘束を脱出していたカーマインが、突然現れて「お前を見ているぞ」と囁いて帰ったのでものすっっっごい心労は増えたけど……あれ、なんかそれを思うと肩が重く感じて来たな。ははは、おかしいな。凝っているとかじゃ無くて重いと感じるぞう。ははは。


「……まぁ肩もみだけなら良いですよ。気持ち良くして精々俺に色んな声を出させてみてください」

「よっしゃ!」


 手で肩を触れられるだけの肩もみだけならまだ線引きは出来ているだろう、そう思いつつトウメイさんの善意のような、あるいは別の思いもあるような申し出を受ける事にした。もうドンと来いだ。


「ふふふ、私の“触れたらポンと痛みが無くなり快楽に支配される”魔術を受けるが良い……!」

「大丈夫ですかそれ。なんか危うい薬の説明のようで――うぉ!?」


 なんだこれめっちゃ気持ち良い! 今まで自分が無自覚だったと理解できるような疲れまでピンポイントに解きほぐれていく! これは前世で「マッサージを受けるとなんか年寄りくさいような気がするし……」と避けていたけど実際に受けたらめっちゃ気持ち時を思い出すような気持ち良さだ! あ、凄い。なんか変な声が出そう。けど出すとめっちゃ恥ずかしいだろうから絶対出さん!


「ここで良い声が聞こえそうなので参上しました!」

「バ、バーント、急にどうした!?」


 なにせヴァイオレットさんだけにではなく、突如耳ざとく現れた音好き従者が、興奮を得るためにわき目もふらずに現れたからな! 絶対に聞かせたくない!


「ふにゃぁー…………」

「はふぅ……」

「バーント、何故マッサージを受けていないお前まで気持ちよさそうな表情を!?」


 いかん、駄目だ。情けなくも声が出てしまう。ああ、本当に気持ちいい。肩もみだけでこれとか、マッサージを本格的に受けたくなってしまうではないかふにゅう。


「しかし気持ちよさそうだなクロ殿……。…………」

「ん、ヴァイオレット君も受けたいかな。彼が終わったらやってあげるよ?」

「私を……殺す気ですか……トウメイ様……!」

「何故バーントがそのように言うかは分からないが……私は望むのはマッサージの技術の方だよ。学べばクロ殿を気持ちよくさせる事が出来そうだ」

「うーん、これは私の【解法】を利用したやつだからなぁ……まぁコツなら教えられるよ。後で教えてあげる」

「感謝する。…………」

「今度はどうしたの?」

「いや、こんなに気持ちよさそうな表情をするクロ殿を見ていると……」

「そんな表情をさせる私に嫉妬する? それとも気持ちよさそうな表情を微笑ましく思う?」

「微笑ましいのと、ずっと見ていれば、後から思い出したクロ殿の羞恥に悶える姿を見れそうだと思ってな」

「……結構倒錯しているね、君の愛」

「愛の形はヒトそれぞれだよ」

「……まぁ確かに。最近愛がモノによっては怖いと学んだからなぁ……」


 気持ち良く……なっていく……意識の中で……そんな会話を聞きつつ……俺は今日も……シキの街で……過ごすので…………あった……ふにゅう。


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